いつか、君とさよなら

夜乃すてら

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第一部 お見合い編

 4 ブラッドリー視点



 初めての性交は、甘い毒のようだった。
 ブラッドリーには、ニコルはどこもかしこも甘く感じた。
 これが魔力の相性が良いということなのかと驚いたし、人肌が心地良くて、幾度も抱いた。

「ブラッドリー様、それ以上の無体むたいはおやめください」

 冷ややかな声に止められて、我に返ると、ニコルはぐったりして気を失っていた。
 いったいどちらのものなのか、汗や精などで、どろどろになっている。汗で湿ったニコルの髪が、ランプに照らされて赤銅に光っていて、とても綺麗だ。

「お試しでここまでなさるなんて。ニコル様、大丈夫ですか?」

 ニコルに声をかける男が煩わしい。ブラッドリーは不機嫌に問う。

「お前は誰だ?」
「ニコル様の従者で、レインと申します。ブラッドリー様、お試しの前に注意しましたよね? 乱暴な真似をしたら連れて帰る、と」

 レインの声は静かだが、怒りをはらんでいる。
 このままでは、せっかく見つけた相性の良い相手をみすみす逃すと気付いて、ブラッドリーは謝った。

「……悪かった」
「お目覚めになったら、ニコル様に謝ってください。まったく、十代の性欲って怖い」

 レインが悪態をつきながらニコルに触れようとするので、ブラッドリーは思わずその手を掴んで止めた。

「触るな」
「では、あなたが後始末をしてください。俺は風呂の用意をしますから。お水を飲ませてあげてくれませんか、どうせ休憩を入れてないんでしょ」

 仕方ないなあと呆れた様子をにじませ、レインは皮肉っぽく言う。
 図星なので何も言えない間に、レインは風呂に湯を張って、メイドを呼びに行く。すぐにメイドが新しいガウンやシーツを運んでくる間、ブラッドリーはニコルの上半身を抱き上げて、コップについだ水を少しずつ飲ませた。
 気を失っているものの、コクコクと喉が動く様子が可愛らしい。

(男など抱けるかと思っていたが、オメガの男は別のようだな。しかし心配になるくらいに細いな……。魔力を放出する体質のせいで、魔力が足りなくなると眠ってしまうのだったか)

 ただでさえか弱いオメガなのに、筋力が落ちているのだろう。日にも当たらないのか青白く、病的な雰囲気だ。
 お試しの前に、ベッドでミルクリゾットを食べていたニコルを思い浮かべる。
 どこか遠くを見ているようにぼんやりした様子だったが、受け答えはしっかりしていて、賢さが垣間見えていた。

(あまりオメガに良い印象はなかったんだがな……)

 水を飲ませると、メイドが差し出したタオルで、ニコルの口元を拭う。
 今は閉じられていて見えないが、ニコルの青い目は、ブラッドリーが遠乗りに行く湖畔と似ていた。宝石みたいに輝く水面のようで好きだ。思ったよりも睫毛まつげが長い。できの良い人形みたいだ。

(お試しを早く終わらせろとうるさかったのが面白い)

 十六で成人した頃から、ブラッドリーは魔力不安定症をわずらっている。それから痛みをやわらげてくれる番を求めて、三ヶ月に一度、お見合いをしていた。発情期などでパーティーに参加できない者の所には、わざわざブラッドリーが訪ねていくくらい、探し回っていた。

 成長痛のような骨の痛みがたびたびやって来る。それはまだ良いほうで、時には激痛でベッドを転げまわるはめになった。痛む部分の骨を取り出したいと、何度思ったか。魔法を使えば少しは治まるが、すぐに回復するせいで、しばらくすればまた痛みにさいなまれる。

 相性の良いオメガを得られれば、魔力が安定して、痛みが消えると聞いていたから必死だったが、それを良いことに、お見合いを餌にして、利益を引きだそうという貴族もいて、この一年半でいろんな闇を見てきた。

 男女問わず、オメガにはたくさん会った。

 どれもか弱く小さい。綺麗な顔立ちの者も多いが、性格も様々だ。過保護に育てられたせいで甘えている者や、我が儘な者、貴族の出自のせいか他者を見下す者、アルファにこびを売る者、弱いから気遣われて当然だと思っている者……など。もちろん常識的な者も多くいたのだが、ネガティブなほうが意識に残りやすい。

 いったいどんな相手が、ブラッドリーの薬になるのやらと、戦々恐々としていた。余程性格がひどければ、表に出さないように閉じ込めておこうかと思っていたくらいだ。
 だが、今は違う意味で、部屋から出さないほうがいいのではないかと感じている。

(こんな可愛い生き物、外に出すなんてとんでもない。さらわれそうだ)

 行為の途中で、ニコルが離してともがいていたが、こぶしで叩かれても、ブラッドリーにはそよ風みたいなもので、まったく痛くもなんともなかった。悪人に狙われたら、抵抗もできずに連れていかれそうだ。
 おかげでブラッドリーの中に、庇護欲が湧いた。

「お湯の用意ができましたよ」
「分かった」

 レインの呼びかけで、ブラッドリーはニコルを抱えて風呂場に移動する。

「言っておきますが、ムラムラしても、これ以上の手出しは禁止ですよ。もし手を出したら、連れて帰りますからね?」

 風呂場に入る前に、レインに口をすっぱくして注意されて、ブラッドリーは苛立った。まるで自分の所有物みたいに言うのが気にさわる。
 ブラッドリーはこの触れあいでニコルを番にすると決めていたが、貴族は家同士のつながりを重視する。きちんと書類をかわさないと、口で言ったところで、まだフェザーストン家側に断る余地があった。

「分かった。後始末だけだ、それ以上はしない」
「お願いします」

 口では丁寧に言っているが、レインの目は信用ならないと言っていて、また腹が立つ。体を張って主を守ろうとする良い従者だが、ブラッドリーにはニコルと引き離そうとする障害に見える。
 それから後始末をして綺麗にタオルで水気をぬぐい、メイドが整え直したベッドにニコルを横たえる。

 もう少し傍にいたかったが、あの従者、風呂にいる間にブラッドリーの両親に助けを求めていたらしい。夜中だというのに両親の寝室に呼び出され、お試し相手に手加減をしろと叱られ、ニコルが回復するまで接近禁止を言い渡されたのだった。

 ――やっぱり気に入らない。

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