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本編 第二部(シオン・エンド編)
92. 食後のお茶会
しおりを挟むその夜は、フェルナンド家の一家との晩餐に出た。
当主夫妻は昨日の事故について改めて謝罪してくれたので、僕は気にしないように言った。僕の好物ばかりならぶ食事を楽しんだ。
「ディル様、明日、約束していたオペラを見に行きませんか」
部屋の前まで送ると、ネルヴィスが問う。
「劇場通りのですか?」
「ええ、できれば二人で見たいのですが」
ネルヴィスはタルボのほうをちらりと見た。
オペラといえば客席で見るものだから、二人という表現が引っかかったものの、僕は頷いた。
「いいですよ」
「ディル様が許可したのならば、構いません」
タルボの返事に、ネルヴィスは表情をゆるめる。
オメガの権威が最も高いはずなのに、この場ではタルボがトップにいる気がした。
「明日の夕方、迎えに参りますね」
ネルヴィスは僕の左手を取って、手の甲にキスをすると、機嫌良く立ち去る。ネルヴィスがあからさまに楽しそうにしていると、なぜか不安を覚える。
「オペラですよね?」
「そのはずですが、なんでしょうか、あの態度は」
僕とタルボはけげんに思って、顔を見合わせるのだった。
それから、僕は略装に着替えて、シオンの客室を訪ねる。黒衣姿だが、いつもよりラフな装いでくつろいでいたシオンは、僕の訪問に目を丸くした。
「シオン、お茶しませんか」
タルボが持つお土産のケーキが入った箱を示すと、シオンは笑みを浮かべる。
「喜んで。このような格好で申し訳ありません」
「僕も似たようなものですから、気にしないでください」
シオンの部屋にお茶を用意してもらい、ケーキを食べる。
苺のショートケーキを見て、シオンが目を輝かせた。
強い騎士様なのに、甘いお菓子が好きなんて可愛らしい。
「私のことまで気にかけていただいてありがとうございます。フェルナンド家の晩餐ならば、食後のデザートまで出たのでは?」
「甘い物は別腹です」
「そうですか」
小さいケーキを食べる僕を眺め、シオンは小さく噴き出す。
「実は町の散策でもスイーツを食べてしまったんですよね」
「おや、食が細いあなたには珍しい」
「パフェっていうんですよ。シオンも食べてみてください」
「ええ、せっかくですから、探してみますね」
町の散策のことを話しながら、お茶の時間を楽しむ。
「シオン、食後に運動をしませんか? 久しぶりに剣術の稽古をお願いしたくて」
「いいですよ」
甘い物を食べすぎた分、エネルギーを少しでも消費しておこう。
「シオンなら良いと言ってくれるかと思って、ちゃっかり木剣も持ってきたんです」
「このような可愛らしいお願いくらい、いつでも聞きますよ」
シオンはふわりと微笑む。ケーキに負けないくらい甘い空気に、僕は照れ笑いを浮かべた。
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