平民聖女は婚約破棄された

紅 蓮也

文字の大きさ
1 / 1

第1話 聖女は婚約破棄される

しおりを挟む
 ハルカス王国の今代の聖女のチェルシーは歴代聖女よりずば抜けた聖女の力の保持者でそれを現すように銀髪である。

 チェルシーは王国全てを覆う強力な結界を張って、祈りをすることで十年間維持し続け、病や魔獣などの侵入を防いでいたのだが、今代の聖女は平民であった。

 十年間聖女として頑張ってきたチェルシーは、婚約者である王太子のカイン殿下に王城に呼び出された。

「よく来たな。チェルシー。お前に伝えることがある。」

「何でしょうか。カイン殿下。」

「チェルシー。私とチェルシーの婚約を破棄する。そして聖女解任と国外追放を言い渡す。」

 カイン殿下とは聖女ではあるが平民であるので身分差がかなりあるのだが良好な関係であると思っていた。

 いきなり婚約破棄をされる心当たりは特にないあるとすれば私が平民だと言うことで周りが騒いでいるかもと言うことくらいだ。

「理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。」

 カイン殿下の隣で仲良さそうにしている見覚えのある女性がいるのが気になったが婚約破棄の理由をたずねた。

「私は王太子なので次期国王だ。そして歴代の王は聖女と婚姻してきた。だがチェルシーは平民だ。
 なので次期国王となる王太子の婚約者が聖女であるが平民なのは許されないと言う声が多い。
 なので、お前を解任し、隣にいる公爵令嬢のミーシャ嬢を聖女とし、私の婚約者とすることにしたからだ。
 国外追放とするのは、歴代で類をみないほどのずば抜けた魔力を保有する元聖女が教会で働いていてはミーシャが聖女の務めをやりにくかろうという配慮ならだ。」

 やっぱり隣にいるのはミーシャ嬢だったか。
 ミーシャ嬢とは聖女見習いの頃に聖女を目指して切磋琢磨し、平民と公爵令嬢ではあったが親友になった。

 私が聖女に任命されて、ミーシャ嬢は教会を出て私も忙しかったのでそれ以降会うことはなかった。

「そういうことでしたら仕方がないです。婚約破棄、聖女解任、国外追放の件、了承しました。」

 ミーシャ嬢は公爵令嬢で身分的に問題ないし、私と違い美人だし、性格もいい。
 カイン殿下と並ぶと美男美女のベストカップルだ。

 それに教会長が自身の権力を増す為に毎日貴族の依頼人を連れてくるし、一部の聖女見習いが貴族の自分たちがなぜ聖女とはいえ平民の世話をしなきゃならないのかという不満からか嫌がらせや自分達の仕事を押しつけてくるので休む暇がない。
    聖女を辞められる超嬉しい。

 それに国から多額の予算や教会を訪れる国民からのお布施も多いはずなのに来客時や民衆の前出る時には聖女専用の服があるのでそれを着るが、普段は私だけみすぼらしいボロボロの服を着ている。

 絶対に国からの聖女の予算や国民からお布施を教会長や教会幹部が横領しているに違いない。

 出ていく私にはもう関係ないけどミーシャ嬢が聖女になればそんなこともなくなるかもしれないし、聖女見習いたちも協力的になるだろうから結果オーライかな。

「では私の聖女の力の一部を次代聖女のミーシャ嬢に譲渡したいのですがお許しいただけますでしょうか。」

「おお、ミーシャ嬢もチェルシーには及ばないが聖女の力は高いのだが、それは助かるぞ。よろしく頼む。」

「わかりました。」

 そして私はミーシャ嬢に近づき、両手を握ると聖女の力を一部譲渡した。

 するとミーシャ嬢の体全体が光り、光がおさまる頃には金髪だったミーシャ嬢の髪の色が高い聖女の力証明する銀髪となっていた。

「では譲渡も済みましたので、国を出る準備もありますので、教会に戻り着替えてすぐに国から出て行きたいと思います。
 ミーシャ嬢も大変だと思いますが、聖女のお務め頑張ってくださいね。遠くからミーシャ嬢を祈って応援いたしますね。お二人ともお身体にお気をつけてでは失礼いたします。」

「はい。しっかり聖女としての務めを全ういたしますわ。」

 おお、今まで一言も発せず、私を追い出すことになった負い目か下を向いていたミーシャ嬢が言葉を発したことに感動しながら私は王城を後にし、教会へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

この国を護ってきた私が、なぜ婚約破棄されなければいけないの?

ファンタジー
ルミドール聖王国第一王子アルベリク・ダランディールに、「聖女としてふさわしくない」と言われ、同時に婚約破棄されてしまった聖女ヴィアナ。失意のどん底に落ち込むヴィアナだったが、第二王子マリクに「この国を出よう」と誘われ、そのまま求婚される。それを受け入れたヴィアナは聖女聖人が確認されたことのないテレンツィアへと向かうが……。 ※複数のサイトに投稿しています。

処理中です...