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第2章 ロザリア王国編

054 通信の魔道具

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#054 通信の魔道具

「サンクマン殿、お世話になりましたな。また孫が生まれた頃に寄らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですぞ。むしろもっと来ていただいても構いません。我々は親戚なんですから」

 昨夜は結構飲んだ様ので二人とも二日酔いだと思うんだけど、そんな感じはしない。さっきまで頭が痛いって顔をしかめてたのに。

「ではクロイゼ殿、ジン殿、また会えると良いですな」

「お世話になりました。また機会があれば会いましょう」

 この世界、流通が馬車なのでそう簡単に訪れることがない。なので一生会わない貴族も多い。いくら娘が輿入れしたと言ってもそう簡単に会いに来るわけにもいかない。
 今回はたまたま俺の用事にかこつけて会いに来ただけで、本来なら手紙で孫が出来た事を知るだけだそうな。

 当主同士なら王都で会う事もあるだろうけど、息子の嫁を連れて行く事はまずない。跡を継いだら夫人同伴とかあるので会う事もあるだろうけどね。


 挨拶が終わって馬車が出発すると、途端にクロイゼさんの顔色が悪くなった。どうやら挨拶の間我慢していたらしい。出迎えと別れの挨拶は形式的なものであるけど、逆に言えば形式にのっとらないといけないという事。
 二日酔いでお互いぐたっとしてたらまともな挨拶にならない。なのでお互いに平気なフリをして挨拶したらしい。

「大丈夫ですか?横になりますか?」

「うう、申し訳ない、ジン殿、少し進んだら休憩を入れても構わないだろうか。このままでは戻しそうで」

 この世界、酔い止めというか二日酔いに利く薬ってないんだろうか?怪我を治すポーションとかってあったよね?なら二日酔いくらい薬で治せるような気がするんだけど。

「ジン様、二日酔いは状態異常ではありません。麻痺や毒などに利くポーションはありますが、二日酔いに利くものはありません。一応薄めた毒消ポーションを飲むとマシになるとは言われていますが、実際に楽になったという話は聞きませんね」

 クレアが言うんだから間違い無いんだろう。俺のこの世界の常識はほとんどがクレ経由での情報だからね。

 アルコール抜くのってどうしたっけか。ブドウ糖の点滴だっけ?あれは急性アルコール中毒の対処法だったか。

 うーん、二日酔いが治せる物があるといいんだが。

 ・・・俺の前に水の入った瓶が出現した。

 ああ、そうか。不思議パワーがあったよね。多分二日酔いに利くポーションなんだろう。

「ジン様?それはどこで?」

「いや、あの、なんか出てきました」

「はあ、その力は使わないでくださいって言ったのに。なぜそんな物が出てくるんですか。それに今の状況からして二日酔いの薬ですよね?飲めば治る二日酔いの薬なんて売りに出せばバカ売れしますよ」

 そうだろうね。でもこれはクロイゼさん用だ。それに俺は商売はしない。もう充分に一生分は働いたと思う。


「クロイゼさん、この薬を飲んでください。多少は良くなると思います」

「うう、ジン殿、今は何も飲む気にならないのだ。申し訳ないが、後にしてもらえないだろうか」

 傷とは違うから掛けても治らないだろうしなあ。食事の時に水に混ぜて飲ませるか。


 休憩中に飲む水にポーションを混ぜてやり、クロイゼさんが復活した。ちょっと口の周りからキラキラした感じのやつの匂いがしてるが、我慢だ。

「クロイゼさん、昨日はそんなに飲んだんですか?俺がいる間は大丈夫でしたよね?」

 俺は昨日はベッドで寝たかったので早々に飲み会から脱落していた。なのでその後の事は知らないのだが、二日酔いになってると言う事はあの後も飲んでたのだろう。

「普段がそれほど飲まなのですが、話が弾んでしまいましてな。つい飲み過ぎてしまいました。
 使者の任が終わりに近づいてきて気が抜けてたのやもしれませんな。まだ陛下に報告してもいないと言うのに情けない事です」

 ああ、そうか。報告するまでが使者の任務だよね。寄り道もどうかとは思ってたけど。

「そうだ、報告で思い出しましたけど、勇者に関してはなんて報告するんですか?そのまま報告したら問題になりそうですけど」

「立派な人格でこの世界のために戦ってくれると言っていた、と言った感じですかな。陛下や上級貴族にはある程度正確な話をする必要があるでしょうが、公的にはそう言う話になるかと思います」

 まあ勇者がヤンキーで王様の前でも攻撃魔法を使うヤバいやつだなんて報告はできないわな。

「確かロザリア王国は東海岸に面してるので魔族との最前線になるんですよね?勇者の情報がその程度でいいんですか?」

「ええ、神託で魔王以外と戦うのは私たちでもなんとかなると言う事でしたので、急いで戦力を整えることになりますな。冒険者からも希望者を募ることになるでしょう。まあ戦争参加の依頼は出来ませんので一般枠ですが」

 戦争に関する依頼は受けない。冒険者ギルドの基本方針だ。戦争に駆り出されると、冒険者同士での戦いなどが起きるのでそうならないために決めたことだ。
 だけど、冒険者ギルドを介さない方法での参加は可能だ。一般枠と言っているが、実際には一般人からの徴兵の他に直接依頼をすると言う形になる。ただ手続きの書類が一般人と同じと言うだけだ。
 嘘も方便というか、お役所だよね。書類さえ整ってたら出来ちゃうんだから。

「急いで戦力を整える必要があるのに寄り道しても良かったんですか?」

「ええ、簡単な報告はすでに通信の魔道具でしてますから。勇者の実態などは実際に会って報告が必要ですが、魔道具で報告した時点で戦力は集め始めてるでしょう」

 ああ、通信の魔道具があったか。確か1対1での通信ができる魔道具だったな。クロイゼさんのように交渉を行ってる人は沢山いるだろうから、王宮にはそれを受ける専門の部署がある可能性もあるな。

「いや、普通は魔道具は使いませんぞ?今回は魔族への対応が急務だったので貸し出されただけです。普通は交渉の権限をある程度与えられて訪問します。
 権限以上の話になったら手紙でやりとりして話を進めます」

 ありゃ、結構貴重な魔道具だったのね。もっと多くて領主貴族全員が持ってるくらいに思ってたよ。

「元々は遺跡から発掘されて物です。ちゃんと動くものは大陸でも10あるかどうか。通信の魔道具を無くしたりしたら私は物理的に首が飛びますな」

 あー、そんなに少ないならそうかもね。軍事的にも政治的にもあると段違いだろうからね。

「ちなみに戦争には使いません。基本は今回の様に交渉時に持たされます」

 なるほど、平和利用で結構ですな。


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