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第3章 仕事編

075 王国帰還

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#075 王国帰還

 王都に戻ってきた。それほど長くいたわけじゃないけど帰ってきたと言う感じがする。

 王宮には先触れが出ていた様で、真っ直ぐ王宮に向かった。

 しまったな。王都に入る前に馬車を替わっておくんだった。結局王家の馬車で入場しちゃうよ。

 王宮の前庭には騎士がずらっと等間隔に並んで警備していた。あれだけ並んでたら弓や魔法で狙うのも難しいんじゃないだろうか。あ、それが狙いか。戦力だけなら一緒についてくればいいだけだしね。


「ありがとうございます」

 一応礼儀として馬車を降りるときにハルフェ殿下に手を伸ばしたが、これって婚約者だって暗に認めたことになるのかな?同じ馬車に乗ってきたし。


 案内されたのは普通に応接室。宰相様が出迎えてくれた。俺は今からでもリリアーナさんの屋敷に帰りたい。このままなし崩しに俺が婚約を積極的に望んでる様な見え方をされるのは避けたい。

「ハルフェ殿下、ハンバルニ王国へようこそ。陛下とは明日謁見となります。今日は部屋を用意させましたのでゆっくりお休みください」

「ありがとうございます。これは陛下からの書状になります。国王様にお渡しください」

「かしこまりました。お預かりします」

「それと大事な話ですので直接ご確認させていただきたいのですが、ジン殿との婚約はロザリア王国が正式に認めたと言うことでよろしいんですね?」

「もちろんですわ。その証明に来たんですもの」

「分かりました。陛下と共にどうするか検討します」

 検討というのは婚約のこと?もしかして断れる?!俺の意見は聞いてもらえないのね?!

「住むお屋敷とかも考えねばなりませんからな。まだ結婚されてない今、ジン殿と一緒という訳にもいきませんし」

 あ、婚約は既定路線だった!?

「ジン殿、何やら百面相をされてますが、大丈夫ですかな?お疲れの様でしたら先にお戻りになられても構いませんぞ」

「ああ、そうですね。ちょっと疲れたかもしれません。お先に失礼します」

 多分これから政治的な話なんかもあるんだろう。いきなり謁見で知らない情報とかが出たらお互い困るだろうしね。事前の情報共有は社会人の常識だ。


「ジン様、陛下がお会いになられたいそうです」

 ありゃ、もしかして宰相様が俺だけ先に返そうとしたのは陛下と会わせるため?はあ本気で帰れると思ってたのに。



「ジン、よく帰った。疲れてはおらんか?」

「すごく疲れてます。帰っていいですか?」

「まあ待て。お主には女には気を付けろと言ったはずだよな?」

「ええまあ」

「なぜ婚約なんて事になっている?」

 俺も知りたい。ただ一応詳しく時系列に従って説明した。

「はめられたな。もしかしたら勇者の訪問も断られる前提でお主が最初から狙っていたのやもしれん。女神様の件は使者殿も知っておったはずだしな」

 ああ、通信の魔道具があるとか言ってたっけ。

「それと」

 うん?

「他に2国からも縁談が来ている。共に王女だ。ロザリア王国に対抗しようというのだろう。受けないとは言うなよ?ロザリア王国の王女を娶った時点でお主に選択肢はない。
 ワシもお主が爵位も女もいらんというから遠慮しただけだしな。お主が娶るつもりがあるならワシも用意しておいただろうからな。ああ、我が国からはリリアを与える。お主とも仲良くやっている様だしちょうど良いだろう」

 いやいや、リリアーナさんの意見も聞きましょうよ。リリアーナさんには恩も感じてるけどこんなおじさんじゃダメでしょう?

「ちなみにリリアーナの了解は取り付けてある。特に嫌とは言わなんだぞ?」

 そりゃ国王から縁談を言われたら従うでしょうに。それも臣籍に降りたとはいえ実の親子でしょう?この世界の貴族で親の決めた婚約に逆らえるとは思えない。

「リリアーナさんは本当に、本心から、嫌がらずに、受けたんですか?」

「ああ、即答だったぞ。嫌なら他を考えると言いはしたんだがな。
 他の2国からは招待状が届いおる。両方行って王女様を連れて帰ってこい」

 あー、俺が迎えに行くのが前提なのか。まあ他の国にも招待されるって言ってたしな。多分その時に王女との婚約を発表してそれこそ晩餐会でも開くのだろう。

「他国の王女がこの国にいると言うのは国にとっても利益になる。お主を利用する様で済まないが、もう後戻りはできん。大人しく他国を訪問して王女を連れて帰ってこい」

 まだ婚約の発表前なら断れませんかね?

「ロザリア王国の姫だけを女神様の寵愛を受けた人間に与えるのは不公平だ。それこそ戦争の引き金にもなりかねん。
 我が国に集まる事には各国思うところはあるやも知れんが、勇者を召喚した国としてある程度は納得しておる。王女が好みに合わないのであれば形だけでも構わん。政略結婚とはそう言うものだ」

 はあ、どうしようもないらしい。でも全員が俺のことを認めてるとは思えないんだよね。俺っておっさんだよ?特にイケメンって訳でもないし、もっと若い人と結婚した方が幸せだと思うんだ。

「とにかくワシからは以上だ。騎士団の準備が整い次第向かってもらいたい。他国に行ってる間にお主の屋敷は準備を整えておく」

 え、俺って自分の家を持つの?

「当然だろう?リリアの屋敷に住まわせる気か?あれでも公爵家の当主だ。夫の夫人とはいえ王族をずっと泊めるのは体面が悪い。お主が自分の屋敷を持つのが一番無理がない」

「あの、俺って収入がないんですけど」

「屋敷の維持費は気にするな国でもつ。お主は生活費だけ考えておれば良い」

 はあ、どんどん外堀が埋められていくな。
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