陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ

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23.淫らな妄想

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 あれから三日が経過していた。

(なんで、あんなこと……)

 あれから、というのは千夏が将隆にキスをされた日のことだ。
 雨の日。自分をかばって全身を濡らしてしまった将隆を家に招いた。
 彼が風邪を引かないように早く温めなければならない。その思いが強すぎて、彼氏と部屋で二人きりという状況がどういうことを意味するのか。千夏は考えが足らなかったと後悔した。

(私、どうして……嫌じゃなかった……。ううん、してほしかったから目をつむったのに……)

 将隆とのキスを思い出すだけで体が火照る。頭の中が熱くなって思考がまとまらない。
 そっと唇に触れれば、彼の感触が鮮明に蘇ってきた。

「~~っ」

 恥ずかしい。顔から火が出そうなほど、千夏は赤面する。
 千夏は自分の気持ちに素直になれない性格だとわかっている。
 幼馴染の健太郎の件でよくわかった。素直になれないからと照れ隠しで口にした言葉。その言葉で人を傷つけることがあることを。
 だからこそ将隆の前では素直でありたかった。こんな面倒臭い自分に優しくしてくれて、「可愛い」とまで言ってくれる大好きな男の子。彼の前では照れ隠しで誤魔化したくなかった。

「千夏ちゃ……」
「っ!?」

 だというのに、名前を呼ばれて少し近づかれただけで飛びのいてしまった。
 もう反射の領域だ。本当はこんな態度をとりたくないのに、体が勝手に反応してしまう。
 嫌がっているわけじゃない。避けているわけでもない。そう伝えたいのに、喉が引きつったように動かなくて声にならなかった。
 このままではいけない。焦燥感に突き動かされるまま、千夏はメッセージを作成する。
 将隆への気持ちを素直に伝える。面と向かって口にするのは無理でも、文章では伝えられると思った。
 そう、ただ素直に気持ちを伝える。ただそれだけのことなのに、メッセージを書いては消してを繰り返した。

『マサくんを避けてるわけじゃないからね』

 メッセージを送ってすぐに千夏は後悔した。
 意味不明にもほどがある。こんな一言を送られても将隆が困惑するだけだ。あれだけ行動で避けていると表しているのに、メッセージの一文だけで信じてほしいだなんて都合が良すぎる。

「もうっ……私のバカ……」

 枕に顔を埋めながらベッドをバンバンと叩く。この情けなさをどう消化すればいいのか、千夏にはわからない。

「本当に、嫌じゃなかった……」

 彼と唇を重ねた瞬間を思い返す度に、羞恥で体が熱くなる。
 それだけじゃなく、胸の奥から喜びが湧き上がるのを千夏は自覚していた。
 仰向けに寝転がり、唇をなぞる。
 あの時の生々しい感触。そして、将隆の表情や息遣いまでもが千夏の脳にこびりついて離れない。

「マサ、くん……」

 一向に収まる様子を見せない疼き。唇を意識せずにはいられない。胸がドキドキして、彼の顔がずっと近くにあるみたいで落ち着かなかった。
 それもそのはず、千夏が今寝転がっているベッドのすぐ横で、初めての彼氏と初めてのキスをしたのだ。落ち着けるわけがなかった。
 スマホが鳴った。千夏はぼんやりしながら画面を確認する。

『それなら良かった。じゃあ今度デートしてくれる?』

 将隆からの返信だった。
 怒るでも呆れるでもない。自分でも扱いきれない心を追及されるものでもなかった。
 明らかに避けている自分といっしょにいたいと。こんなことで嫌ったりしないと言われているようで、ほんの一文のメッセージで千夏の心は軽くなった。

「うん。ありがとうマサくん」

 ここに本人はいないけれど、一言お礼を言いたかった。さっきよりも軽やかにメッセージの返信を書く。
 まだ恥ずかしさは消えないけれど、将隆のために克服したいと千夏は思った。


  ※ ※ ※


 デート当日。
 千夏は身支度をして家を出た。
 一瞬、隣の家が視界に入る。そこは幼馴染の健太郎の家だ。
 今はまだ健太郎とは顔を合わせづらい。教室でもまともに会話ができないのだ。一対一で接する勇気はなかった。
 かつての想い人。現在では話すことすら恐怖を感じてしまう。
 しかし、千夏の中ではその感情も徐々に薄まっており、健太郎に対する関心は別のことに移っていた。

(きっと健太郎も……松雪さんと……し、しているのよね?)

 千夏だって、以前から人並みに男女関係に興味があった。
 いつかは好きな人とキスをするのだろうと想像していたし、仲が深まればセックスだってするのだと覚悟をしていた。
 それでも、具体的に男子の体を意識したことはなかったのだ。
 それが、将隆にキスをされてから変わった。

(私とマサくんがしたみたいに……キス、したのよね……)

 淫らな妄想だ。
 健太郎と綾乃が情熱的にキスをする光景が脳裏をよぎり、千夏の全身にとてつもない熱量を伴った感情が巡った。
 その感情は嫉妬でも屈辱感でもなかった。
 一方は幼い頃から想いを寄せていた相手。だからこそ強い現実感をもって湧き上がってきたのかもしれない。

(早く行かなきゃ)

 もう幼いままではいられない。千夏の心と体はもう幼くはないのだから。
 健太郎の家から目を切った。
 早く将隆に会いたい。はやる気持ちを落ち着けながら、駆け足気味に待ち合わせ場所へと向かった。
 千夏の妄想は、いつしか自分と将隆が情熱的にキスをする光景へと移り変わっていた。
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