セクハラして異世界生活を満喫していたら美少女に尊敬されていた件

みずがめ

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6.旅の終わりと失ったもの

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「なぜだユフィーナ! なぜ僕のパーティーを抜けたいだなんて言うんだ!?」

 ラインハルトが声を荒らげる。そんな彼に、私の心は冷えていった。

「アリッサを助けるためよ」
「……残念だけど、彼女にかけられた呪いは強力だ。アリッサを失って悲しむ気持ちはわかるけれど、僕たちは大きな使命があるんだ。こんなことでくじけている場合じゃないよ」

 落ち着いた口調。ラインハルトはまるで聞き分けのない子供に言い聞かせるように私を説得する。
 アリッサを失った? こんなこと? 私の中で沸々と怒りが込み上げてきた。

「そうね。勇者様には魔王討伐という大きな使命があるんだものね」
「わかってくれるかい? 僕もできるだけ君に寄り添うようにすると約束する。一刻も早く魔王を倒して、アリッサの無念を晴らそうじゃないか!」

 ラインハルトは拳を握り、言葉に熱を込める。

「でもね」

 そんな彼に、水をぶっかけるみたいに冷たい声を発した。

「アリッサは死んでなんかいないわ。意識がなくても温かいの。息だってしているわ」
「でも呪いが──」
「世界で一番大切な人なのよ! 死んだと決まったわけでもないのに諦められるわけないじゃない!!」

 場がしんと静まり返る。私はため息とともに席を立った。

「勇者様の使命を邪魔する気なんてないわ。ただ、私とアリッサはこのパーティーから抜けるだけよ。申し訳ないけど、魔王討伐の仲間は別の人を選んでちょうだい」
「そ、そこまで言うなら僕もアリッサにかけられた呪いを解くために協力を──」
「言ったはずよ。勇者様の使命を邪魔する気なんてないわ、って。今更そんなこと言われたって信じられるはずないじゃない」

 アリッサが呪いを受けてからの見切りが早かった。きっと戦いの中では必要な能力なのかもしれない。これも勇者の素養なのだろう。
 自分にそう言い聞かせても、私はこれ以上ラインハルトといっしょに旅をする気にはなれなかった。
 冒険をするのに、危険がつきものだと理解していたつもりだった。下手をすれば命を落とすことだってあるかもしれない。覚悟だけは決めようと、ずっと思っていた。
 でもダメだ。私はアリッサを見捨てられない。本当に、心の底から大切な存在だとわかってしまったから。

「……もしアリッサの呪いが解けたら、魔王討伐の手伝いくらいはできるように努力するわ。だからお願い。今はもう何も言わないで」

 きっとお父様に迷惑をかけるのだろう。それどころかもっと多くの人に責任を負わせることになるのかもしれない。
 それでも、たとえ大勢の人から憎まれようとも。私はアリッサを救いたいのだ。
 こうして、私は勇者パーティーを脱退した。アリッサを助けるため、新たな旅が始まったのである。


  ◇ ◇ ◇


 アリッサにかけられた呪いは本当に強力なものだった。
 解呪専門の魔術師を頼っても、アリッサは目を覚まさなかった。あらゆる治療薬を与えてみても効果なし。誰を頼ってもさじを投げられた。
 このままアリッサが目を覚まさなかったら……。焦るばかりで刻々と時間が過ぎていく。最悪の想像が私の精神を追い詰める。
 藁にもすがる思いで、占い師を頼っていた。可能性がある限り、動いていないと不安で圧し潰されそうだった。

「フェニックスの実?」

 占い師は言葉少なに可能性を示してくれた。
 滅多に手に入れられない、もし手に入れられたら一生生活に困らないほどの価値があるという。
 フェニックスの実はそれだけの価値がつけられるだけの効果を秘めていた。
 あらゆる傷や病を癒やす。それは呪いでも変わらない。文献を信じるのなら、文字通りの万能薬である。
 そのフェニックスの実が、近々キコルの森に生るのだそうだ。

「それさえあればアリッサは……。ありがとう占い師さん!」
「いえいえ、あなた様に良い未来が訪れますように。わしはそう祈るだけなのじゃよ」

 いつもなら、そう簡単に信じなかった情報かもしれない。
 それでもアリッサが助かる可能性が僅かでもあるのならと。私はキコルの森に向かって駆け出した。

「あ、あなたそれ……フェニックスの実よね?」
「そうだが」

 占い師が示していた場所を訪れると、私よりも早くフェニックスの実を手に入れていた男がいた。
 先に取られてしまったことに落ち込みそうになったけど、本物のフェニックスの実がすぐそこにあることには変わらない。最終的に私が手に入れられればいいのだ。アリッサが助けられれば過程は気にしない。

「その、よかったら譲ってもらえない? お金ならあるわ」

 なんとしてでも譲ってもらおう。私は交渉を試みた。頭の中で「ユフィーナ様は交渉事に向いていないんですからやめておいた方がいいですよ」とアリッサの声が聞こえてくる。ええいっ、誰のためにやっていると思っているのよ!

「いくら出せる? 一応言っとくが、相場以下の値段なら話にならないぞ」
「うっ……」

 一刻も早くフェニックスの実を発見しようと急いで森に入ったのだ。それほど手持ちがあるわけがない。

「す、少し待ってもらえれば……用意してみせると約束するわ」
「つまり、今はないんだな」
「それは……」
「じゃあダメだ。欲しけりゃ俺が売った後でそれを買えばいいだろ」

 男は無情だった。なんで……、なんでよりによってこんな男に先を越されてしまったのかっ。

「そんな時間はないの! 早くしないと、私の大切な人が……死んじゃうから」

 怒りよりも先に口から出たのは、どうしようもない感情からでた懇願だった。
 諦めるわけにはいかない。アリッサの命がかかっている。彼女を救うためならどんなことでもする覚悟があった。

「お願い……。私なんでもするから……絶対にお金を用意するから……お願いよ……っ」
「ん? 今なんでもするって言ったか?」
「え?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 けれど、男の興味が引けた事実に、私は希望を見た。

「このフェニックスの実のために、なんでもするかって聞いてんだけど?」
「え、ええ! なんでもしてみせるわ! だからフェニックスの実を譲ってほしいの!」
「じゃあエッチなことさせてくれたらいいよ」
「え?」

 この男は、本気で何を言っているのだろうと思った。

「今ここで俺に身体をまさぐらせてくれたら、君にフェニックスの実を譲ろう」
「え、え、え、えええええええぇぇぇぇぇぇーーっ!?」

 男は勘違いのないようになのか、はっきりとんでもないことを言い放った。
 身体をまさぐらせてって……。それってあれよね? アリッサが貸してくれた本に書かれていた……エッチなことよね?
 アリッサの教えてくれていたことは本当だったんだ。どんな男でもケダモノとなる。私が弱味を見せたから、男の中に眠る情欲を起こしてしまったのだろう。
 ……でも、私が身体を差し出しさえすれば、フェニックスの実を譲ってくれる。アリッサを助けられる。
 アリッサを失うことに比べれば、私の身体くらいくれてやる。命を落とすわけじゃないと思えば、むしろ楽勝だ。

 ……そう思っていたのだけど、初めての体験をさせられて自分の気持ちがどうなってしまったのかと見失いそうになった。
 けれど、不思議と嫌な感じはしなくて。文句の割に嫌悪感はなかった。

「む、胸まで見せたのにっ」

 とても恥ずかしかった。顔が燃えるように熱くなるほどに。
 それでも、二の腕を触られた以上の快感を期待しちゃって……。私は自らの意思で彼に身体を許したのだ。

「わかった! フェニックスの実をユフィーナにやる! だから早く服を着てくれ!」
「え?」

 まだ胸を触れられてもいないのに、男は私にフェニックスの実を譲ると言い出した。
 もしかして私は試されていたのだろうか? アリッサを本気で助けるつもりなのか。その覚悟を問われただけだったのかもしれない。
 だって、あれだけ欲望に染まっていた男の顔が、私を心配するものへと変わっていたのだから。

「……ほれ、フェニックスの実だ。早く大切な人とやらに持って行ってやんな」
「あ、ありがとう……本当に、本当にありがとうっ!」
「へへっ、いいってことよ」

 男は照れ臭そうな笑みを零しながら、私にフェニックスの実をくれた。
 いくら感謝してもし切れないほどの恩を受けてしまった。それでも今は一刻も早くアリッサの元へと戻らなければならない。後ろ髪を引かれる思いがありながらも、私は駆け出した。

 町に戻って、すぐにアリッサにフェニックスの実を与えた。

「ここは……?」

 効果は劇的だった。何をしても目を覚まさなかったアリッサが起きたのだ。

「ア、アリッサーーッ! 良かった……良かったよぉぉぉぉぉぉーーっ!!」

 涙が溢れてきて、衝動に任せて目覚めたばかりのアリッサに抱きついた。
 まだ状況を把握できていないだろうに、アリッサは私の頭を撫でてくれた。その手つきが彼女らしくて、私はまた涙を溢れさせてしまう。

 こうして私はアリッサを取り戻すことができた。
 これもすべてはあの冒険者の男の人のおかげだ。……振り返ってみれば自分のことばかりで、あの男の人の名前すら聞いていなかったわね。我ながらなんて礼儀知らずな真似をしてしまったのだろう。
 フェニックスの実の価値は相当なものだと聞く。平民なら一生遊んで暮らせるほどのお金になるのだとか。
 そんな貴重なアイテムを、ほとんど見返りなく譲ってくれた。アリッサは「冒険者の男はケダモノ」と言っていたけれど、彼ほどの善人を見たことがなかった。
 だって彼は、私の覚悟を見定めるためだけに、悪役を演じてくれていたのだから。

「また会えないかな……」

 彼の善意に満ちた表情が忘れられない。
 次にあの人に会えたら恩返しをしよう。今度こそ、彼のためになんでもするのだ。
 だ、だから……あの続きをしてもらっても構わないというか……。お、恩返しをキッチリしておかないと、王女の名が廃るってものよ!
 胸の高鳴りに気づかないフリをしながら、私は固く決意するのであった。
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