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47.「小さい」は禁止ワード
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松雪さんにぐいっと引っ張られて、泉くんとの距離が開く。
「松雪さん?」
横顔しか確認できないけど、松雪さんはいつものニコニコ笑顔に見える。
相対する泉くんは、なぜか顔を引き攣らせて汗をかいている。
ああ、そうだった。
これでも松雪綾乃という女子は学校で一番可愛いと認識されているのだった。泉くんが緊張してしまうのも無理はないのか。
中身はけっこう悪戯っ子なんだけども。僕のメイド姿の写真を入手してまでからかったことは決して忘れない。
「ダメですよ清十郎くん。人の弱味につけ込んで、脅迫するようなことをしては」
「お、俺はそんなつもりじゃ……っ」
松雪さんに話しかけられてか、泉くんはたじたじだ。
でも脅迫なんて、さすがにそれは言い過ぎだろう。
「あの、松雪さん?」
僕の呼びかけに、松雪さんは答えてくれない。
それどころか僕を抱きしめる力が強くなった。
これも悪戯の一環なのか?
「お友達の秘密は守る。当たり前のことですよね?」
「あ、ああ……その通りだ」
泉くんが僕の方に顔を向ける。
「ごめん矢沢くん。見返りは求めない。それでも秘密は絶対に守るから安心してくれ」
「う、うん」
どうやら交換条件も何もなく、正体をバラされる心配がいらなくなったらしい。
パンをおごらなくてもいいのか。それはもちろんありがたいんだけど、そう残念そうな顔をされると逆に申し訳なくなってくる。
少ししょんぼりした様子の泉くんの背中を見送って、今にも頬がくっついてしまいそうなほど近い松雪さんに声をかける。
「松雪さん……僕の秘密を守るために助けてくれたんだよね」
「感謝してくれてもいいですよ?」
「ありがとう。でも、ここまでくっつく意味はあったの?」
「ここまでしないといけないくらいにはピンチに見えたのですけどね……」
ピンチ? 泉くんと話していただけだったのに、どこに危機があったんだろう?
むしろピンチなのは今の状況なんですけどね……。
「こんなにくっつかれると、みんなに注目されるって」
廊下の端で女子に抱きしめられていたら目立ってしまう。ほら、なんかヒソヒソされてるし。
言われて気づいたのか、松雪さんはあっさりと離れてくれた。
振り返って彼女を見れば、小さく舌を出していた。やっぱり悪戯だったか。
「私にくっつかれての感想はいかがですか?」
「え? うーん……小さかった、かな」
「んなっ!?」
感想を求められて、突然だったせいか素直に答えてしまう。
見ればわかることだけど、城戸さんに比べれば松雪さんの身体は小さい。華奢というか、女の子って感じだ。
これは別に城戸さんが女の子っぽくないと言っているわけではない。ボリュームがありすぎる胸を押しつけられたりすると異性を感じずにはいられなくなるし……。
まったく、男子を抱きしめるなんて松雪さんも城戸さんも無自覚すぎる。
「そ、そんなには小さくないでしょう!?」
「え? 見ればわかるよ。松雪さん小さいって」
「んなぁっ!?」
僕よりも背が低いのは、誰が見ても明らかだろうに。
いや、男子と比べてじゃなくて、女子の中ではってことね。
たぶん松雪さんは女子の平均身長くらいはあるだろう。そうなると確かに小柄ではないか。
「ふふふ……。いいでしょう。比呂くんにわからせてあげますよ……私が小さくないということをっ!」
不気味に笑う松雪さん。なんだか怖いよ?
「うぇっ!?」
彼女は流れるような動きで僕に接近して、正面から抱きしめてきた。
「どうですか? ちゃんと大きさを感じるでしょう?」
「え、何? これどういうこと!?」
さっきよりも強い力で抱きしめられている。脇の下に腕を回されているので無理やり引き離すこともできない。
突然どうしたんだ? 松雪さんが僕を抱きしめる理由がわからなくて、抵抗していいものなのかも判断できない。
そ、そんなにも密着されたら……押しつけられてはいけないものが当たって……ちょっ!?
「お前ら……公衆の面前で何やってんだ?」
「「はっ!?」」
唐突に佐野くんの声が降ってきて、僕と松雪さんは慌てて離れた。
第三者の介入で、松雪さんも冷静さを取り戻したのだろう。両手で顔を覆って、自分の行動を振り返って恥ずかしがっていた。
佐野くんを挟んで話を聞けば、どうやら僕が「小さい」と発言したのがいけなかったようだ。
「矢沢くん……そういうことを女子に言っちゃあいけねえよ」
佐野くんに肩をポンと叩かれながらたしなめられる。
僕の失言が、松雪さんの奇行に繋がったらしい。
振り返っても何が悪かったのかわからないけど……。僕のそういうところが、友達がなかなかできない原因なのかもしれない。
「ごめんね松雪さん」
「謝らないでくださいよ。比呂くんに謝られると、私が惨めになってしまいますから……」
そこまでの失言だったの!?
僕は誓った。二度と女子に「小さい」と口にしないと。
◇ ◇ ◇
謎のメイドの正体が僕だとバレずにほっとして迎えた放課後。
「ひ、比呂先輩……っ」
下校しようと昇降口に向かったら、城戸さんに声をかけられたのだった。
【後書き】
※松雪さんは決して小さくはありません(念のため)
※城戸さんがでかすぎるだけです(意味深)
「松雪さん?」
横顔しか確認できないけど、松雪さんはいつものニコニコ笑顔に見える。
相対する泉くんは、なぜか顔を引き攣らせて汗をかいている。
ああ、そうだった。
これでも松雪綾乃という女子は学校で一番可愛いと認識されているのだった。泉くんが緊張してしまうのも無理はないのか。
中身はけっこう悪戯っ子なんだけども。僕のメイド姿の写真を入手してまでからかったことは決して忘れない。
「ダメですよ清十郎くん。人の弱味につけ込んで、脅迫するようなことをしては」
「お、俺はそんなつもりじゃ……っ」
松雪さんに話しかけられてか、泉くんはたじたじだ。
でも脅迫なんて、さすがにそれは言い過ぎだろう。
「あの、松雪さん?」
僕の呼びかけに、松雪さんは答えてくれない。
それどころか僕を抱きしめる力が強くなった。
これも悪戯の一環なのか?
「お友達の秘密は守る。当たり前のことですよね?」
「あ、ああ……その通りだ」
泉くんが僕の方に顔を向ける。
「ごめん矢沢くん。見返りは求めない。それでも秘密は絶対に守るから安心してくれ」
「う、うん」
どうやら交換条件も何もなく、正体をバラされる心配がいらなくなったらしい。
パンをおごらなくてもいいのか。それはもちろんありがたいんだけど、そう残念そうな顔をされると逆に申し訳なくなってくる。
少ししょんぼりした様子の泉くんの背中を見送って、今にも頬がくっついてしまいそうなほど近い松雪さんに声をかける。
「松雪さん……僕の秘密を守るために助けてくれたんだよね」
「感謝してくれてもいいですよ?」
「ありがとう。でも、ここまでくっつく意味はあったの?」
「ここまでしないといけないくらいにはピンチに見えたのですけどね……」
ピンチ? 泉くんと話していただけだったのに、どこに危機があったんだろう?
むしろピンチなのは今の状況なんですけどね……。
「こんなにくっつかれると、みんなに注目されるって」
廊下の端で女子に抱きしめられていたら目立ってしまう。ほら、なんかヒソヒソされてるし。
言われて気づいたのか、松雪さんはあっさりと離れてくれた。
振り返って彼女を見れば、小さく舌を出していた。やっぱり悪戯だったか。
「私にくっつかれての感想はいかがですか?」
「え? うーん……小さかった、かな」
「んなっ!?」
感想を求められて、突然だったせいか素直に答えてしまう。
見ればわかることだけど、城戸さんに比べれば松雪さんの身体は小さい。華奢というか、女の子って感じだ。
これは別に城戸さんが女の子っぽくないと言っているわけではない。ボリュームがありすぎる胸を押しつけられたりすると異性を感じずにはいられなくなるし……。
まったく、男子を抱きしめるなんて松雪さんも城戸さんも無自覚すぎる。
「そ、そんなには小さくないでしょう!?」
「え? 見ればわかるよ。松雪さん小さいって」
「んなぁっ!?」
僕よりも背が低いのは、誰が見ても明らかだろうに。
いや、男子と比べてじゃなくて、女子の中ではってことね。
たぶん松雪さんは女子の平均身長くらいはあるだろう。そうなると確かに小柄ではないか。
「ふふふ……。いいでしょう。比呂くんにわからせてあげますよ……私が小さくないということをっ!」
不気味に笑う松雪さん。なんだか怖いよ?
「うぇっ!?」
彼女は流れるような動きで僕に接近して、正面から抱きしめてきた。
「どうですか? ちゃんと大きさを感じるでしょう?」
「え、何? これどういうこと!?」
さっきよりも強い力で抱きしめられている。脇の下に腕を回されているので無理やり引き離すこともできない。
突然どうしたんだ? 松雪さんが僕を抱きしめる理由がわからなくて、抵抗していいものなのかも判断できない。
そ、そんなにも密着されたら……押しつけられてはいけないものが当たって……ちょっ!?
「お前ら……公衆の面前で何やってんだ?」
「「はっ!?」」
唐突に佐野くんの声が降ってきて、僕と松雪さんは慌てて離れた。
第三者の介入で、松雪さんも冷静さを取り戻したのだろう。両手で顔を覆って、自分の行動を振り返って恥ずかしがっていた。
佐野くんを挟んで話を聞けば、どうやら僕が「小さい」と発言したのがいけなかったようだ。
「矢沢くん……そういうことを女子に言っちゃあいけねえよ」
佐野くんに肩をポンと叩かれながらたしなめられる。
僕の失言が、松雪さんの奇行に繋がったらしい。
振り返っても何が悪かったのかわからないけど……。僕のそういうところが、友達がなかなかできない原因なのかもしれない。
「ごめんね松雪さん」
「謝らないでくださいよ。比呂くんに謝られると、私が惨めになってしまいますから……」
そこまでの失言だったの!?
僕は誓った。二度と女子に「小さい」と口にしないと。
◇ ◇ ◇
謎のメイドの正体が僕だとバレずにほっとして迎えた放課後。
「ひ、比呂先輩……っ」
下校しようと昇降口に向かったら、城戸さんに声をかけられたのだった。
【後書き】
※松雪さんは決して小さくはありません(念のため)
※城戸さんがでかすぎるだけです(意味深)
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