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28.健気な彼女には幸せになってほしい
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あー……、またやっちまった……。
冷静になれば自分のしでかしたことを自覚してしまう。頭なでなではイケメンにのみ許された技である。そんな技を、俺は琴音ちゃんに対して使ってしまった。
この技に名をつけるのなら、ナデポがぴったりであろう。効果は女の子の頭を撫でるだけで好感度がぐんぐん上がっていくというもの。何それバグってんじゃないの?
もう一度言うが、イケメンにのみ許された技である。残念ながら俺には適用されない。もしそんなことをやらかせば、あとで女子のネットワークに流されるだろう。勘違いキモ野郎として、ブラックリスト入り確実である。
「祐二先輩もう大丈夫です。ずっと頭を撫でてくれてありがとうございました」
と思っていたのだが、泣き止んだ琴音ちゃんからはお礼を言われてしまった。
無駄に格好つけてしまう俺の悪癖。それすら受け入れてくれる琴音ちゃんは本当に健気だ。
だからまあ、幸せになってほしいって、そう思っちゃったんだよなぁ。
※ ※ ※
琴音ちゃんの中でくすぶっていたこと。
言語化しづらいそれを、彼女はつっかえながらも話してくれた。
琴音ちゃん自身、誰かに話せるような上等な悩みだとは考えていなかったようだ。俺のくだらねえ話レベルに考えていたようだった。全然そんなことなかったけどな。
誰かから攻撃されたわけじゃない。ただ優劣をつけられて、自分がダメだって言われただけのこと。そう思ってしまっただけのこと。
ダメなのが自分なのだとしたら、変えなきゃいけないのは自分自身。自分よりも優れていた相手に文句を口にするだなんてお門違いにもほどがある。
本気で文句を言おうものならバッシングの嵐だろう。それは決して大げさな表現なんかじゃない。一致団結した人達ってのは強いのだ。よく言うだろ? ワンフォーオール……みたいなさ。
「そろそろ日が暮れてきたし、帰ろうか」
「そうですね」
琴音ちゃんの話を聞き終わる頃にはけっこういい時間になっていた。
「家まで送るぞ。彼氏だからな」
「……はい。よろしくお願いします」
今日は断られなかった。
ニッコリ笑う琴音ちゃん。そこにはもう下手くそだなんて口にできないほど可愛らしい笑顔があった。
公園を出る。茜色に染まる道を歩く。さっきまで違う世界にいたんじゃないかって思うくらい外は賑やかだった。
駅に行けばもっと賑やかで、仕事帰りの大人が大勢いた。将来は外出しなくてもいい仕事に就きたいものである。
電車に乗る。琴音ちゃんとおしゃべりして、無言になって、またおしゃべりした。他愛のない話ばかりをしていた。
気まずくならないおしゃべり。無言の時間ですら気まずさを感じない。なんだか自然に時間を過ごせていてちょっと驚く。
「ここで降りますよ」
そう琴音ちゃんが教えてくれる。初めてじゃないんだから覚えている。でも彼女を送るのは二回目だし、言葉にしてくれるのは琴音ちゃんの優しさだ。
駅から琴音ちゃんの家までは十分ほどだ。道だってちゃんと覚えている。
「……」
「……」
あと一つ曲がり角を曲がれば琴音ちゃんの家。そこまでたどり着いて、琴音ちゃんは足を止めなかった。
前に見送ることができたのはここまでだった。最後まで送らせてくれるってことか……。この変化はちょっと嬉しい。
「ここがあたしの家です」
琴音ちゃんに示されたのは普通の一軒家だった。
特別さは感じない。住宅地の中に溶け込んでいる。普通の家族が住んでいそうな、どこにでもありそうな家だ。
「えっと、家まで送ってくれてありがとうございました」
「おう。どういたしまして」
彼女を家まで送る。何事もなく完遂できてほっとした。
とか思った瞬間に、琴音ちゃん家の玄関が開いた。
「あらあら琴音。お帰りなさい」
現れたのは、ほんわか空気を視認できそうなくらいかもし出している美女だった。
なんだかものすごい色気……。抜群のプロポーションは藤咲さん以上のボリュームに見える。
どことなく顔立ちが琴音ちゃんと似ている。姉だろうか? 藤咲家が三姉妹だったとか聞いてないぞ。
「お母さんただいま」
琴音ちゃんが発した単語が俺の脳に浸透するまでけっこう時間がかかった。体感的には数秒どころではなかった。
今、「お母さん」と申されましたか?
目の前の美女が子持ちにはとても見えない。どんなに上に見積もっても二十代後半くらいだろう。
だが、琴音ちゃんの接し方が母親なのだと納得させられる。現代の神秘を目にした気分だ。
「それで、あなたは琴音のお友達かしら?」
ほんわかとした口調で尋ねられた。
相手はお母様である。ここはビシッと決めねばならないだろう。
背筋を伸ばして深呼吸。いざ! と口を開きかけた時だった。
「家の前で何をしているんだ?」
声は俺の後ろから聞こえた。
振り返らなくてもわかる。一度しか会ったことはないが、忘れるわけがない。
それに、目の前の琴音ちゃんの顔が強張った。
どうやら藤咲父が帰ってきたタイミングにピッタリ合ってしまったようだ。一〇〇%の遭遇率とか、お父様とは相性バッチリなのかもな。……嬉しくないけど。
冷静になれば自分のしでかしたことを自覚してしまう。頭なでなではイケメンにのみ許された技である。そんな技を、俺は琴音ちゃんに対して使ってしまった。
この技に名をつけるのなら、ナデポがぴったりであろう。効果は女の子の頭を撫でるだけで好感度がぐんぐん上がっていくというもの。何それバグってんじゃないの?
もう一度言うが、イケメンにのみ許された技である。残念ながら俺には適用されない。もしそんなことをやらかせば、あとで女子のネットワークに流されるだろう。勘違いキモ野郎として、ブラックリスト入り確実である。
「祐二先輩もう大丈夫です。ずっと頭を撫でてくれてありがとうございました」
と思っていたのだが、泣き止んだ琴音ちゃんからはお礼を言われてしまった。
無駄に格好つけてしまう俺の悪癖。それすら受け入れてくれる琴音ちゃんは本当に健気だ。
だからまあ、幸せになってほしいって、そう思っちゃったんだよなぁ。
※ ※ ※
琴音ちゃんの中でくすぶっていたこと。
言語化しづらいそれを、彼女はつっかえながらも話してくれた。
琴音ちゃん自身、誰かに話せるような上等な悩みだとは考えていなかったようだ。俺のくだらねえ話レベルに考えていたようだった。全然そんなことなかったけどな。
誰かから攻撃されたわけじゃない。ただ優劣をつけられて、自分がダメだって言われただけのこと。そう思ってしまっただけのこと。
ダメなのが自分なのだとしたら、変えなきゃいけないのは自分自身。自分よりも優れていた相手に文句を口にするだなんてお門違いにもほどがある。
本気で文句を言おうものならバッシングの嵐だろう。それは決して大げさな表現なんかじゃない。一致団結した人達ってのは強いのだ。よく言うだろ? ワンフォーオール……みたいなさ。
「そろそろ日が暮れてきたし、帰ろうか」
「そうですね」
琴音ちゃんの話を聞き終わる頃にはけっこういい時間になっていた。
「家まで送るぞ。彼氏だからな」
「……はい。よろしくお願いします」
今日は断られなかった。
ニッコリ笑う琴音ちゃん。そこにはもう下手くそだなんて口にできないほど可愛らしい笑顔があった。
公園を出る。茜色に染まる道を歩く。さっきまで違う世界にいたんじゃないかって思うくらい外は賑やかだった。
駅に行けばもっと賑やかで、仕事帰りの大人が大勢いた。将来は外出しなくてもいい仕事に就きたいものである。
電車に乗る。琴音ちゃんとおしゃべりして、無言になって、またおしゃべりした。他愛のない話ばかりをしていた。
気まずくならないおしゃべり。無言の時間ですら気まずさを感じない。なんだか自然に時間を過ごせていてちょっと驚く。
「ここで降りますよ」
そう琴音ちゃんが教えてくれる。初めてじゃないんだから覚えている。でも彼女を送るのは二回目だし、言葉にしてくれるのは琴音ちゃんの優しさだ。
駅から琴音ちゃんの家までは十分ほどだ。道だってちゃんと覚えている。
「……」
「……」
あと一つ曲がり角を曲がれば琴音ちゃんの家。そこまでたどり着いて、琴音ちゃんは足を止めなかった。
前に見送ることができたのはここまでだった。最後まで送らせてくれるってことか……。この変化はちょっと嬉しい。
「ここがあたしの家です」
琴音ちゃんに示されたのは普通の一軒家だった。
特別さは感じない。住宅地の中に溶け込んでいる。普通の家族が住んでいそうな、どこにでもありそうな家だ。
「えっと、家まで送ってくれてありがとうございました」
「おう。どういたしまして」
彼女を家まで送る。何事もなく完遂できてほっとした。
とか思った瞬間に、琴音ちゃん家の玄関が開いた。
「あらあら琴音。お帰りなさい」
現れたのは、ほんわか空気を視認できそうなくらいかもし出している美女だった。
なんだかものすごい色気……。抜群のプロポーションは藤咲さん以上のボリュームに見える。
どことなく顔立ちが琴音ちゃんと似ている。姉だろうか? 藤咲家が三姉妹だったとか聞いてないぞ。
「お母さんただいま」
琴音ちゃんが発した単語が俺の脳に浸透するまでけっこう時間がかかった。体感的には数秒どころではなかった。
今、「お母さん」と申されましたか?
目の前の美女が子持ちにはとても見えない。どんなに上に見積もっても二十代後半くらいだろう。
だが、琴音ちゃんの接し方が母親なのだと納得させられる。現代の神秘を目にした気分だ。
「それで、あなたは琴音のお友達かしら?」
ほんわかとした口調で尋ねられた。
相手はお母様である。ここはビシッと決めねばならないだろう。
背筋を伸ばして深呼吸。いざ! と口を開きかけた時だった。
「家の前で何をしているんだ?」
声は俺の後ろから聞こえた。
振り返らなくてもわかる。一度しか会ったことはないが、忘れるわけがない。
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どうやら藤咲父が帰ってきたタイミングにピッタリ合ってしまったようだ。一〇〇%の遭遇率とか、お父様とは相性バッチリなのかもな。……嬉しくないけど。
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