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4、ゴミ部屋の中の騎士 ※セイル目線 ②
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「母が死んで以来、誰一人として中に入れたことはなかったのに……」
「入れるも何も、人自体、入れないというか……なんというか。ね?」
――物の山だった。
塵山と形容した方が良いかもしれない。
元々、エアリアは広大な宮殿で豪華な調度品に囲まれて暮らしていたのだ。
それら一式を、このような小さな屋敷に、そのまま運び込めば、自ずと部屋の体裁を失うのは分からないでもない。
(だが……?)
なぜ、ここには下女がいないのか?
仮にも公女であれば、たとえ放逐されたとしても、下女の一人くらいはいてもおかしくないはずだ。
それに、エアリアの言葉遣いも変ではないか?
「どうして、貴方は俺なんかに丁寧語なんですか?」
「私には戸籍がないんです。長く独りでいたら、処世術の一つくらい身に付きますよ」
「それにしたって……」
セイルのような怪しい騎士にまで敬語だ。護衛だっていやしない。
「……あっ!」
そこで、セイルはようやく本題を思い出した。
「そうだった。刺客……アイツらは、どうしたんですか?」
エアリアが公女であることを忘れて、肩を揺さぶると、舌を噛みそうなぐらい早口でエアリアは言い放った。
「どうもしていませんよ。貴方が倒れて、すぐに退散しましたって」
「……ま、まさか。そんなはず……」
「嘘ではないですけど? 貴方は気を失ってしまって、ご存知ないでしょうけど?」
「う……」
悔しい。
(まさか、あの程度の血を見ただけで、倒れるとは……)
証拠にエアリアの傷は何処についたのか分からないくらい、浅かったようで、今はもう何処を切られたのか分からない。
エアリアは、こちらの気を逆撫でするように、にっこりと笑った。
「ああ。でも気にしないでください。大の男でも貧血で倒れることがあるのですね。ここに来るまで食事をとってなかった……とか」
「……嫌味?」
「違いますよ」
イラッとした。
こんなことなら、襲撃を受けるエアリアを傍観していれば良かった。
「……でも」
それにしたって、変だ。
刺客が依頼を果たさずに帰ったら、自らの命も危なくなる。
本来なら、自分の命を懸けても、エアリアを葬ろうと躍起になるはずだ。
――しかし。
彼女は生きているのだ。
「…………分からないな」
「そうですよね」
エアリアは、ずれたところで納得しているようだった。
「何で私は狙われるんでしょうね。別に悪いことしてないし、する気もないのに」
「貴方が目障りなんでしょう。お妃様は、早く公子を大公の地位に就かせたい。貴方の生存は不安材料にしかならないはずです」
「五年もの間、刺客の一つも来なかったのに今更、どうして?」
「さあ……。ふとしたきっかけに思い出したとか? 俺にもよく分かりませんが……」
生返事をしながら、服の上から背中を掻いた。
何だか、全身が痒くなってきた。
一体、セイルを横たえていた床は、どのくらい掃除をしていないのだろうか?
(ああ、体中にダニとかノミとかわきそう……)
セイルは服についた埃を払いながら、立ち上がった。
上目遣いにエアリアが顔を上げるが、鬱蒼とした髪に覆われて目が合わないことが救いだった。
どんな目で彼女を見ていいのか、いまだに分からない。
「…………やはり、私が敵国エフェクトの血をひいているからですかね?」
「それは……。その」
エアリアは、セイルの困惑をよそに深い溜息を漏らした。
その横顔に、諦念の情が溢れている。
身形はまるで無頓着なのに、変に察しが良い彼女は憐れだ。
セイルは、少しだけエアリアに同情してしまった。
「入れるも何も、人自体、入れないというか……なんというか。ね?」
――物の山だった。
塵山と形容した方が良いかもしれない。
元々、エアリアは広大な宮殿で豪華な調度品に囲まれて暮らしていたのだ。
それら一式を、このような小さな屋敷に、そのまま運び込めば、自ずと部屋の体裁を失うのは分からないでもない。
(だが……?)
なぜ、ここには下女がいないのか?
仮にも公女であれば、たとえ放逐されたとしても、下女の一人くらいはいてもおかしくないはずだ。
それに、エアリアの言葉遣いも変ではないか?
「どうして、貴方は俺なんかに丁寧語なんですか?」
「私には戸籍がないんです。長く独りでいたら、処世術の一つくらい身に付きますよ」
「それにしたって……」
セイルのような怪しい騎士にまで敬語だ。護衛だっていやしない。
「……あっ!」
そこで、セイルはようやく本題を思い出した。
「そうだった。刺客……アイツらは、どうしたんですか?」
エアリアが公女であることを忘れて、肩を揺さぶると、舌を噛みそうなぐらい早口でエアリアは言い放った。
「どうもしていませんよ。貴方が倒れて、すぐに退散しましたって」
「……ま、まさか。そんなはず……」
「嘘ではないですけど? 貴方は気を失ってしまって、ご存知ないでしょうけど?」
「う……」
悔しい。
(まさか、あの程度の血を見ただけで、倒れるとは……)
証拠にエアリアの傷は何処についたのか分からないくらい、浅かったようで、今はもう何処を切られたのか分からない。
エアリアは、こちらの気を逆撫でするように、にっこりと笑った。
「ああ。でも気にしないでください。大の男でも貧血で倒れることがあるのですね。ここに来るまで食事をとってなかった……とか」
「……嫌味?」
「違いますよ」
イラッとした。
こんなことなら、襲撃を受けるエアリアを傍観していれば良かった。
「……でも」
それにしたって、変だ。
刺客が依頼を果たさずに帰ったら、自らの命も危なくなる。
本来なら、自分の命を懸けても、エアリアを葬ろうと躍起になるはずだ。
――しかし。
彼女は生きているのだ。
「…………分からないな」
「そうですよね」
エアリアは、ずれたところで納得しているようだった。
「何で私は狙われるんでしょうね。別に悪いことしてないし、する気もないのに」
「貴方が目障りなんでしょう。お妃様は、早く公子を大公の地位に就かせたい。貴方の生存は不安材料にしかならないはずです」
「五年もの間、刺客の一つも来なかったのに今更、どうして?」
「さあ……。ふとしたきっかけに思い出したとか? 俺にもよく分かりませんが……」
生返事をしながら、服の上から背中を掻いた。
何だか、全身が痒くなってきた。
一体、セイルを横たえていた床は、どのくらい掃除をしていないのだろうか?
(ああ、体中にダニとかノミとかわきそう……)
セイルは服についた埃を払いながら、立ち上がった。
上目遣いにエアリアが顔を上げるが、鬱蒼とした髪に覆われて目が合わないことが救いだった。
どんな目で彼女を見ていいのか、いまだに分からない。
「…………やはり、私が敵国エフェクトの血をひいているからですかね?」
「それは……。その」
エアリアは、セイルの困惑をよそに深い溜息を漏らした。
その横顔に、諦念の情が溢れている。
身形はまるで無頓着なのに、変に察しが良い彼女は憐れだ。
セイルは、少しだけエアリアに同情してしまった。
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