ゴミ屋敷の姫君と家出騎士

丹羽 史京賀

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19、魔女の噂

 エアリアの視界の真正面に立ち塞がったネイは、しばらく、エアリアを睨んでいたが、すぐに堪えきれずに、ふふっと吹き出して笑った。

「あはは。しかし、エアリアって、格好はともかく、全然、怖くはないわよね。魔女って話は嘘だったのかしら?」
「まだそれを言うのですか?」
「だって、見た目がそれじゃあねえ?」

 ネイが必死で働いているエアリアを上から下に観察しながら、こめかみを押さえていた。

(まったく……)

 何度も説明して、ようやく、エアリアが盗人でなく、魔女でもないことを、理解してくれたのは良かったのだが、代わりに、ちょくちょく、憐れみの目を向けてくるので、心が痛かった。

「魔女は、人を浚っては、食べ散らかしているって、噂で聞いていたけど」
「まさか……私、人を浚うほどの元気もないですよ」
「うん。……だよね。あんた、見てれば分かるけど。むしろ、よく今まで、それで、生きてこれたなあって」

 そうだろう。
 エアリア自身、己のしぶとい生命力にびっくりだ。
 けど、ネイだって、そんな奇怪な噂の流れているエアリアの家に、単身乗り込んで来たのだから、身の程知らずもいいところではないか?

(……いや、そんなことよりも) 

 傍らで、セイルが大笑いしているのが気に入らない。

「でもねえ、ネイさん。エアリア様って、意外にとんでもない力を持って……」
「セイル殿」

 ぴしゃりと制したら、セイルはわざとらしく、咳払いをした。

「あー……。まあ、こんな軟弱な魔女では、本物の魔女に失礼ですよね」
「本当に、そうよね。何で、そんな、あり得ない噂が流れたのかしら? 私も、度々、オージスには、魔女なんて実在してないんじゃないかって、話してたんだけど」
「いや、ネイさん。魔女自体は実在していますよ。イルミア王国の南に本物の「魔女」はいるって聞いたことがあります」
「あら、騎士さん、もしかして、本物の魔女を見たことあるの?」 
「さあ、どうでしょう。エアリア様が強烈すぎて忘れてしまったかな」

(はいはい、どうせ、私は魔女より強烈な悪臭持ちですよ……)

 馬鹿馬鹿しい。

(……魔女なんて)

 そんな非現実的なものが実在しているのなら、母の病だって治せたはずだ。

「それで、魔女でないのなら、エアリア。あんたは、何者なの?」
「私は、そのー……」
「別に話したくないなら、いいけど。ほら、畑を介してはいるけど、せっかく、お隣同士になったんだ。あの屋敷が誰のものなのか、あんたは分かってるのかなって思ってさ?」
「ああ、一応、屋敷の持ち主の許可は取って住んではいますが」
「そう、ならいいけど。あの屋敷はね、元はここのだったんだ。不法占拠してるのなら、早めに出て行った方がいいと思うよ。相手が庶民ならいざ知らず、領主様の持ち物だもん。ばれたら殺されたって文句は言えないよ」
「……へえ。ネイさん。よく知っていますね。そんなこと」

(何処で漏れたんだろう?)

 ネイは、ごく一部の人間にしか開示されていない内部情報を知っているらしい。
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