ゴミ屋敷の姫君と家出騎士

丹羽 史京賀

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20、セイルはエアリアに懸想する従者

(……まずいわね)

 エアリアの父、大公セディウスから、ほとんど無視されていた辺境の土地、ルピス領。
 領主の息子アリザスと、エアリアの年が近く、二人の仲が良かったことから、何とかエアリアと母は、この土地に置いてもらうことが出来たのだ。

(まあ、幼馴染みのアリザスとは違って、最初から、彼の父親……ルピス領主との関係は、お寒いものだったけど)

 エアリアの母は自尊心が強く、誰に対しても感謝の言葉などかけなかった。
 結果、危険を顧みず匿ってくれた領主とその家族からも疎まれ、隠れ家からも追い出されてしまったのだ。
 行くあてのない二人を憐れんだアリザスの計らいで、ルピス領の中でも更に田舎の萎びだ屋敷を提供してもらい、何とか母とエアリアは生き延びたのだ。

(アリザス側から、多少、私の居場所が漏れるのは仕方ないことだけど)
 
 今まで、エアリアを狙って、刺客もそれなりに来たが、ほとんどの貴族たちには、エアリアが生きていることは、隠せていると思っていた。

 ……しかし。

 普通の村人が、あの屋敷がルピス領主のものだと知っていたのだ。

(つまり、大勢の人間が、私の生存を知っていても、おかしくはないってことよね)

 そして、そのことを、エアリアの父が知らないはずがないのだ。

(こうなってくると、ルピス領主からも命を狙われそうね。……私)
 
 生きていると、面倒なことばかりで嫌になる。
 だから、早く消えてしまいたいのに、それが、なかなか出来ない。

(どうして?)

 更に深く刻まれてしまった眉間の皺を揉んでいると、下からネイが心配そうにエアリアを覗きこんでいた。

「な、何で私を見ているんですか? ネイさん。至近距離からは見ないでください。貴方の目が穢れますよ」
「はあっ!? ……んなはずないでしょ! せっかく綺麗な顔しているのにって……。いや、そうじゃなくて。心配してたの。急に黙り込んで、ぼうっとしちゃったから」
「ああ、それなら、大丈夫ですよ。ぼうっとするのは、趣味みたいなものですから」
「あのねえ、何が「大丈夫」なのよ? そんな非生産的な趣味は今すぐ捨てなさい! 仕事中にぼうっとしている時間なんてないんだから。ほら、手を動かす。何も考えず、無心になって、早く!」

(元気だな)

 エアリアに熱烈指導しながら、ネイは収穫した赤い野菜を、セイルと協力して、どんどん荷馬車に積み込んでいた。

「それにしても、騎士様も手際がいいわよねえ。貴方はエアリアの何なのよ?」
「えっ、お、俺ですか?」

 急に話題を振られたセイルは、目をぱちくりしていた
 
(いっそのこと、殺しに来ましたって答えたら、面白いのに)

 でも、抜群に、空気を読む力が優れている騎士だ。
 どうせ、無難に答えるのだろう。
 ……と、他人事のように、手を動かしながら、二人の会話を聞いていたエアリアだったが……。
 
「ああ、俺はこの方を、追って来た従者ですよ」
「はああっ!?」

 思わず絶叫したくなるほど、セイルは、とんでもない発言をしでかしてくれた。

「嘘!? 本当に!?」

 ネイが少女のように瞳を輝かせている。
 彼女の好奇心を燃やすような材料を投下してどうするのだ。

「ええ。想いを寄せて馳せ参じたのですが、このように素っ気ない態度、そして、俺を遠ざけるために、このような容姿になってしまわれ……」
「………………いやいやいや。セイル殿?」

(貴方の頭は、どうなっているのよ?) 

 顔を赤くしたり青くしたりしながら、エアリアは声を荒げた。
 
「一体、何てことを口走っているんですか!?」
「え? 事実じゃないですか。エアリア様」

 とぼけているのか、嫌がらせなのか……。
 そもそもこの青年は一体何を考えているのか、さっぱり分からなかった。
 額面通り受け取ったネイがセイルを睨みつける。

「何だ。騎士様も人が悪い。だったら、想い人のことをしっかり護ってあげなきゃ。野菜泥棒だって、私がエアリアを連れ出した時だって、貴方は酷い対応だったよ」
「その節は、申し訳ありませんでした。あまりにエアリア様がつれないもので、つい……」
「あの、だから、セイル殿」
「伸び放題の髪と汚い服もさ、従者だったら、強引にでも綺麗にしてあげないと駄目だよ。せっかく亡くなった公女様と同じ名前なんだ。もう少し着飾らなくちゃ」
「……ですって。エアリア様?」
「何がです?」
「少しくらい、まともに見える容姿をしましょうよ。貴方のせいで、俺まで変な誤解を受けるじゃないですか」
「いい加減にしてください。私は別に、何の不自由もしていません」

 むきになって言い放つと、ネイに軽く頭を叩かれた。

「バッカだねえ」

 手持ちの野菜を荷台に積み終わったネイは、手が空いたようだった。

「女に生まれたなら綺麗にしなきゃ損だ。私だって、まさか農家の嫁になるなんて思ってもいなかったからさ、ここに移り住んでから、日焼けやら、虫刺されやらで苦しんだけど、でも、オージスのためだから。色々とやってるよ」
「色々……ですか?」

 それはおかしい。
 農家の嫁らしく、動きやすそうなワンピースにエプロン。
 ついでに長靴まで履いているのは、一体何処の誰なのか……。
 しかし、よくよく見てみれば、ネイは薄らと頬紅を落としてたり、口紅も塗っている。
 彼女なりにおしゃれをしているのだろう。 

(あれ?)

 そういえば、今、ネイは気になることを言わなかったか?
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