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21、エアリアの知らなかったこと
「あれ? ネイさんって、ここに移り住んだんですか?」
「そうよ。オージスを追って、三年ほど前にここに来たの。シスの都で花売りしてたんだけど、あの人に一目惚れしてね。親には反対されるし、もう大変だったのよ。詳しく聞きたい?」
「いいえ」
ネイの恋愛話には、興味がなかったが、三年前の転居という言葉には、引っかかりを感じていた。
そのくらいの頃、ちょうど領主の息子、幼馴染のアリザスとエアリアは絶縁したのだった。
「でもね。シスもあの状態じゃ、長くは住んでいられなかったから。ルピス領は田舎だけど、比較的落ち着いているし、治安も悪くないでしょ。近いうちに、シスで暮らしている私の両親も呼んで、一緒に住もうと思っているのよ」
「……えっ?」
エアリアは、ハッとなって、口元を押さえた。
――シスは、大都だ。
エアリアが、かつて住んでいた宮殿も存在している。
サファライドで、最も栄えている都市のはずだ。
「……シスは、ネイさんが住んでられないほど、酷いのですか?」
「それも、知らないの? この辺でも、みんな噂しているわよ。ほら、ノーヴィエ様の問題があるでしょ? 後継の妨げになりそうな貴族たちは、軒並み、大公が罰してしまって。そのとばっちりで、関係ない庶民まで巻き添えくらってるのよ」
「シスだけじゃない。大都市は、みな物騒ですよ。そのうち、この辺りも、都から逃げてきた人でいっぱいになるでしょうね」
これみよがしに、セイルが相槌を打つ。
(…………こ、この人)
セイルは何もかも最初から知っていたのだ。
だからこそ、エアリアを外に引っ張り出したのだろう。
少しは、世界を見てみろ……と。
一方的な話だけでは、エアリアには緊迫感が伝わらないから。
(でも、まさか、父様が関係ない人にまで迷惑をかけるなんて)
「あー……。だけど、ここの領主様は就いたばかりで、勝手が分からないから、逃げてきた人まで、ご丁寧に面倒なんか見ちゃったら、益々、大公様に睨まれちゃいそう」
「ん?」
――継いだばかり?
「ネイさん、それ! 本当なんですか?」
「……て、ちょっと、何? エアリア、どうしたのよ?」
「領主さまは、とっくに亡くなって?」
「はあ!? それも、今更? 今の領主が、アリザス様だってことも、知らないなんて」
「……アリ……ザス」
久しぶりに名前を呼ぶと、昔の記憶がいっぺんに蘇った。
「エアリア、不敬よ。アリザス「様」と、ちゃんと呼ばないと。アリザス様は、領主様が急に亡くなられて、後を継がれたのよ。かれこれ、もう一年は経っているよ」
――一年。
もう、そんなに経っていたのか。
「セイル殿、貴方って人は……」
(かつて、隣国に遊学という名目で、追放されかけていたアリザスが返り咲いて、力を持っている。……だとすれば)
すべて、合点がいく。
けれど、それはエアリアにとっては、とてつもなく頭の痛いことだった。
(どうしよう。そんなこと、私、知りたくもなかたわよ)
何も見たくないから、一人であの屋敷にいたのに、どうして、それすら見逃してくれないのだろう?
(ひどい、ひどい。私のこと何だと思っているのよ。屋敷から無理やり出して、懸想している従者だなんて名乗って? サファライドの現状を知れって? 冗談にも程があるわよ)
心の中で、毒づきながら、セイルの一切を無視していたら、あっという間に、エアリアは、すべての作業を終えてしまった。
(……帰りたくない)
現実と向き合いたくなかった。
畑のど真ん中で突っ立っていると、吹き抜ける風に髪が暴れてしまって、どうしようもなくなったエアリアは、嫌々、顔を上げて、乱れる髪を押さえつけた。
(広い)
遮るものがない緑に、青い空が埋もれていた。
背伸びしたら、地平線の向こうまで、この大地が続いているような気がした。
――見渡す限り、果てしなく、何もない田舎の風景。
ルピス領は、四方を小高い丘に囲まれていて、夏は盆地で暑く、冬は雪を含んだ冷たい風が山を越えて吹きつける。
人が住みにくい土地だ。
今が一年で一番過ごしやすい時期だが、その時間は短く、間もなく凍死してしまいそうなほど寒い冬がやって来るだろう。
交易にむかない場所だからと、嘲られて、美味しい野菜も、この地で盛んな毛織物も、流通させる術を持たないのだ。
……この地を、活性化させたい。
その方法を探したいのだと、子供の頃から、アリザスは憂いていた。
青空の先に続いているような道の先に街が広がっており、その中心に、アリザスが暮らしている領主の館がある。
――今は亡き、ルピス領主の別荘から追い出されて、五年。
エアリアは、街にすら出たことがなかった。
「オージス……」
「ネイさん?」
気が付くと隣で、エアリアと同じ場所を、ネイも眺めていた。
「どうしたのかしら? オージス、今日はやけに遅いわ」
「そう……かもしれませんね」
彼女は、夫の身を案じているらしい。
オージスは、早朝から街に野菜を卸しに出ている。
よく獲れた日は、朝・夕の二回に分けて街に出かけているのだ。
今日はその二回、街に出る日のようだった。
「何かあったのでしょうか?」
神妙な面持ちでやってきたセイルを、ネイが笑い飛ばした。
「大丈夫よ。ウチの旦那、ああ見えて結構強いから……」
……しかし。
長閑な雰囲気は、唐突に終わりを迎えた。
ひぃぃぃん!!
何処からか聞こえる、馬の嘶きと、怒号。
「今の…………オージス?」
ネイが、ぽつりと呟いた。
エアリアには分からなかったが、ネイにはオージスの声が聞こえたのだろう。
「ネイさんの家の方で音がしましたね? 俺、ちょっと見てきますよ」
「待って!」
勇敢に踏み出したセイルの黒い外套を、エアリアは引っ張った。
「エアリア様?」
よろける彼をひょいと後ろに追いやって、エアリアは叫ぶ。
「セイル殿は、こちらでネイさんを見ていてください!」
「はっ? 何を言っているんですか?」
しかし、問答無用で、エアリアはセイルの腰の剣を引っこ抜いてしまった。
「はっ。ちょっ、ちょっと?」
「良い剣ですね。ちょっとだけ、拝借します」
「いいも悪いも。何をする気なんですか!?」
エアリアは、苦情を受け付ける隙を与えず、その場から駆けだした。
「そうよ。オージスを追って、三年ほど前にここに来たの。シスの都で花売りしてたんだけど、あの人に一目惚れしてね。親には反対されるし、もう大変だったのよ。詳しく聞きたい?」
「いいえ」
ネイの恋愛話には、興味がなかったが、三年前の転居という言葉には、引っかかりを感じていた。
そのくらいの頃、ちょうど領主の息子、幼馴染のアリザスとエアリアは絶縁したのだった。
「でもね。シスもあの状態じゃ、長くは住んでいられなかったから。ルピス領は田舎だけど、比較的落ち着いているし、治安も悪くないでしょ。近いうちに、シスで暮らしている私の両親も呼んで、一緒に住もうと思っているのよ」
「……えっ?」
エアリアは、ハッとなって、口元を押さえた。
――シスは、大都だ。
エアリアが、かつて住んでいた宮殿も存在している。
サファライドで、最も栄えている都市のはずだ。
「……シスは、ネイさんが住んでられないほど、酷いのですか?」
「それも、知らないの? この辺でも、みんな噂しているわよ。ほら、ノーヴィエ様の問題があるでしょ? 後継の妨げになりそうな貴族たちは、軒並み、大公が罰してしまって。そのとばっちりで、関係ない庶民まで巻き添えくらってるのよ」
「シスだけじゃない。大都市は、みな物騒ですよ。そのうち、この辺りも、都から逃げてきた人でいっぱいになるでしょうね」
これみよがしに、セイルが相槌を打つ。
(…………こ、この人)
セイルは何もかも最初から知っていたのだ。
だからこそ、エアリアを外に引っ張り出したのだろう。
少しは、世界を見てみろ……と。
一方的な話だけでは、エアリアには緊迫感が伝わらないから。
(でも、まさか、父様が関係ない人にまで迷惑をかけるなんて)
「あー……。だけど、ここの領主様は就いたばかりで、勝手が分からないから、逃げてきた人まで、ご丁寧に面倒なんか見ちゃったら、益々、大公様に睨まれちゃいそう」
「ん?」
――継いだばかり?
「ネイさん、それ! 本当なんですか?」
「……て、ちょっと、何? エアリア、どうしたのよ?」
「領主さまは、とっくに亡くなって?」
「はあ!? それも、今更? 今の領主が、アリザス様だってことも、知らないなんて」
「……アリ……ザス」
久しぶりに名前を呼ぶと、昔の記憶がいっぺんに蘇った。
「エアリア、不敬よ。アリザス「様」と、ちゃんと呼ばないと。アリザス様は、領主様が急に亡くなられて、後を継がれたのよ。かれこれ、もう一年は経っているよ」
――一年。
もう、そんなに経っていたのか。
「セイル殿、貴方って人は……」
(かつて、隣国に遊学という名目で、追放されかけていたアリザスが返り咲いて、力を持っている。……だとすれば)
すべて、合点がいく。
けれど、それはエアリアにとっては、とてつもなく頭の痛いことだった。
(どうしよう。そんなこと、私、知りたくもなかたわよ)
何も見たくないから、一人であの屋敷にいたのに、どうして、それすら見逃してくれないのだろう?
(ひどい、ひどい。私のこと何だと思っているのよ。屋敷から無理やり出して、懸想している従者だなんて名乗って? サファライドの現状を知れって? 冗談にも程があるわよ)
心の中で、毒づきながら、セイルの一切を無視していたら、あっという間に、エアリアは、すべての作業を終えてしまった。
(……帰りたくない)
現実と向き合いたくなかった。
畑のど真ん中で突っ立っていると、吹き抜ける風に髪が暴れてしまって、どうしようもなくなったエアリアは、嫌々、顔を上げて、乱れる髪を押さえつけた。
(広い)
遮るものがない緑に、青い空が埋もれていた。
背伸びしたら、地平線の向こうまで、この大地が続いているような気がした。
――見渡す限り、果てしなく、何もない田舎の風景。
ルピス領は、四方を小高い丘に囲まれていて、夏は盆地で暑く、冬は雪を含んだ冷たい風が山を越えて吹きつける。
人が住みにくい土地だ。
今が一年で一番過ごしやすい時期だが、その時間は短く、間もなく凍死してしまいそうなほど寒い冬がやって来るだろう。
交易にむかない場所だからと、嘲られて、美味しい野菜も、この地で盛んな毛織物も、流通させる術を持たないのだ。
……この地を、活性化させたい。
その方法を探したいのだと、子供の頃から、アリザスは憂いていた。
青空の先に続いているような道の先に街が広がっており、その中心に、アリザスが暮らしている領主の館がある。
――今は亡き、ルピス領主の別荘から追い出されて、五年。
エアリアは、街にすら出たことがなかった。
「オージス……」
「ネイさん?」
気が付くと隣で、エアリアと同じ場所を、ネイも眺めていた。
「どうしたのかしら? オージス、今日はやけに遅いわ」
「そう……かもしれませんね」
彼女は、夫の身を案じているらしい。
オージスは、早朝から街に野菜を卸しに出ている。
よく獲れた日は、朝・夕の二回に分けて街に出かけているのだ。
今日はその二回、街に出る日のようだった。
「何かあったのでしょうか?」
神妙な面持ちでやってきたセイルを、ネイが笑い飛ばした。
「大丈夫よ。ウチの旦那、ああ見えて結構強いから……」
……しかし。
長閑な雰囲気は、唐突に終わりを迎えた。
ひぃぃぃん!!
何処からか聞こえる、馬の嘶きと、怒号。
「今の…………オージス?」
ネイが、ぽつりと呟いた。
エアリアには分からなかったが、ネイにはオージスの声が聞こえたのだろう。
「ネイさんの家の方で音がしましたね? 俺、ちょっと見てきますよ」
「待って!」
勇敢に踏み出したセイルの黒い外套を、エアリアは引っ張った。
「エアリア様?」
よろける彼をひょいと後ろに追いやって、エアリアは叫ぶ。
「セイル殿は、こちらでネイさんを見ていてください!」
「はっ? 何を言っているんですか?」
しかし、問答無用で、エアリアはセイルの腰の剣を引っこ抜いてしまった。
「はっ。ちょっ、ちょっと?」
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