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諸悪の根源
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◆◆◆
景和は、瞬氏を調べていた。
だから、危険なくらい、興奮していたのだ。
急いで、青波を自室に連れ込んだのも、瞬氏の子孫である青波とじっくり話がしたかったから。
(くだらない)
「ばかばかしい。八百年も前に滅びた王族の末裔なんて、何もないですよ。ちっぽけな術の一つも、今はろくに使えないんですから」
「えっ? 使えないんですか。術が?」
「ええ。まあ。だから、私も焦って……」
「ははあ、そうでしたか」
どういうわけか、景和は感極まって、目頭を押さえていた。
「鎌をかけてみて正解でした。やはり、瞬氏は異能を使うことができるんですね。滅びても八百年、脈々と受け継がれた伝統。感動です。やっぱり、運命だ。結婚して欲しい」
「いや、それは無理かと」
さらりと言われたので、青波もあっさり返してしまった。
「無理ですか? 私が宦官であることを気にしているのでしたら、心配いりませんよ。私の場合、瞬家以外の人間に欲を持たないことを陛下はご存知だったので、宮刑にされたふりをして、学司になったので、問題はないはずです」
「……問題しかないですよ」
(陛下……。貴方って人はねえ)
適当も良いところだ。
「ほら、瞬家の末裔と縁を持つことが出来たら、滅んだ王朝についての正史、術の発動条件、すべて教えてもらえるじゃないですか。学司なんて、即辞められるのに」
景和は少年のように瞳を輝かせ、悪びれることなく、青波を利用したいと吠えている。
まったくもって、恐ろしい。
『あー、もう! だから、この男を貴方と会わせるのは嫌だったんだって! 離れて! 今すぐ! 速やかに』
春霞の怒声が、頭上で炸裂していた。
彼は最初からこうなることを予見していたのだ。
だったら、無理にでも止めて欲しかったものだ。
『ほら、早く行こうよ! 青波。こいつは本当に危険なヤツなんだよ! 長居してちゃ駄目だって』
(その危険人物を、なあなあで、学司に据えたのは貴方ではないんですかね)
……なんて。
口に出して責めたいところを、ぐっと堪えて、青波は慌てて腰を浮かした。
「す、すいません。霜先生。やっぱり、私、他を当たります」
「えー、待ってくださいよ」
「だから、婚姻は無理ですって!」
「じゃあ、ひとまずその話は置いておいて……」
「いや、置かれちゃっても」
「では、青波さん、一つだけ訊きたいのです。術が使えなくなったのは、いつからですか?」
「それは……」
景和に下心がないことを察した青波は、正直に話した。
「気づいたのは、二カ月くらい前です。最初は調子が悪いのだと、放置していたのですが、皇城に対してだけ術が使えなくなっていったので気になって……」
「なるほど」
「まさか、心当たりがある……なんてことはないでしょうけど」
「ちなみに、その頃でしたら……」
「えっ! あるんですか?」
滑らかに景和が語り始めたので、青波は目を見張った。
『青波!』
春霞が叫んでいたが、関係ない。
再び、青波は床にどんと座った。
「教えてください」
「いやあ、しっかり覚えているわけではないのですが、確か、その頃、瞬氏に関する秘伝が発見されましてね。瓦に描かれた象形文字を、私は必死で解読していたんです。本当に面白くて。描かれていたことを試して回ったんですよ。……で、その一つに瞬氏は神符なるものを「神」の化身として崇めていたとあったので、私が真似て書いてみたところ、素晴らしいから、崇めてみようということになったんです」
「崇める? なぜ? 透国には神がいらっしゃいますよ」
「ええ。でも、沢山の神が護ってくれたら、有難いですよね。この国の神と、瞬氏の神が力を合わせてくれたら、こんなに凄いことはありません。効果二倍です」
「透国の神と、瞬氏の神に対して、失礼なことをしているという自覚はない……と?」
「瞬氏の神符を再現することは、歴史を紐解く上で、重要なことです」
……どうしたものか。
常識が噛み合わない。
だが、相入れることのない会話は、景和の方があっけなく断ち切ってくれた。
「それで、皇城の主だった場所に、量産して貼ってみようということで……」
「貼っちゃったんですか?」
「はい。百枚ほど。今、貴方の話を聞いてみて、得心しました。守護の力の強い札は、貴方の術を退けることが出来るのですね。……私、凄くないですか?」
「いや、そんなことどうでも良いので、即刻、それ……はがして頂けませんかね」
(なんてこと……)
――最悪だ。
青波は両手を床について、深く重い溜息を吐いた。
―――犯人は、景和だったのだ。
良かれと思って神符を貼ったら、結果的に、それが青波の術を退けてしまった。
こんな痛い結末を知るために、悩んでいたのかと思うと泣きたいくらいだ。
「しかし、青波殿。私の一存で札をはがすことはできません。それを命じたのは、他でもない……」
『わわわっ!』
慌てて部屋の隅に隠れて、小さく蹲っている春霞を、青波はきつく睨みつけた。
「…………陛下」
(そうだったのか……)
酷い話だ。
春霞は後ろめたいことがあるから、青波を景和に会わせたくなかったのだ。
そして、会ってしまった後は、早々に引き離そうと煽っていた。
……つまり。
彼は神符の効果を知った上で使用し、青波をわざと皇城まで誘き寄せたのだ。
護神法が使えないと知れば、必ず青波が動くだろうと、最初から読んでいた。
「陛下の仕業だったんですね。一体、こんなことをして、どんな利があるのですか? 私に対する嫌がらせですか!?」
景和はきょとんとしながらも、しかし、言葉自体は通じていたので、穏やかに首肯していた。
その景和の背に隠れて、春霞は必死に叫ぶ。
『だから、青波。狙われているのは、本当なんだって!』
「つまり、暗殺以外は全部、陛下の意図したことだと?」
『えーっと』
「ああ、そういえば」
景和がぽんと手を叩いた。
景和は、瞬氏を調べていた。
だから、危険なくらい、興奮していたのだ。
急いで、青波を自室に連れ込んだのも、瞬氏の子孫である青波とじっくり話がしたかったから。
(くだらない)
「ばかばかしい。八百年も前に滅びた王族の末裔なんて、何もないですよ。ちっぽけな術の一つも、今はろくに使えないんですから」
「えっ? 使えないんですか。術が?」
「ええ。まあ。だから、私も焦って……」
「ははあ、そうでしたか」
どういうわけか、景和は感極まって、目頭を押さえていた。
「鎌をかけてみて正解でした。やはり、瞬氏は異能を使うことができるんですね。滅びても八百年、脈々と受け継がれた伝統。感動です。やっぱり、運命だ。結婚して欲しい」
「いや、それは無理かと」
さらりと言われたので、青波もあっさり返してしまった。
「無理ですか? 私が宦官であることを気にしているのでしたら、心配いりませんよ。私の場合、瞬家以外の人間に欲を持たないことを陛下はご存知だったので、宮刑にされたふりをして、学司になったので、問題はないはずです」
「……問題しかないですよ」
(陛下……。貴方って人はねえ)
適当も良いところだ。
「ほら、瞬家の末裔と縁を持つことが出来たら、滅んだ王朝についての正史、術の発動条件、すべて教えてもらえるじゃないですか。学司なんて、即辞められるのに」
景和は少年のように瞳を輝かせ、悪びれることなく、青波を利用したいと吠えている。
まったくもって、恐ろしい。
『あー、もう! だから、この男を貴方と会わせるのは嫌だったんだって! 離れて! 今すぐ! 速やかに』
春霞の怒声が、頭上で炸裂していた。
彼は最初からこうなることを予見していたのだ。
だったら、無理にでも止めて欲しかったものだ。
『ほら、早く行こうよ! 青波。こいつは本当に危険なヤツなんだよ! 長居してちゃ駄目だって』
(その危険人物を、なあなあで、学司に据えたのは貴方ではないんですかね)
……なんて。
口に出して責めたいところを、ぐっと堪えて、青波は慌てて腰を浮かした。
「す、すいません。霜先生。やっぱり、私、他を当たります」
「えー、待ってくださいよ」
「だから、婚姻は無理ですって!」
「じゃあ、ひとまずその話は置いておいて……」
「いや、置かれちゃっても」
「では、青波さん、一つだけ訊きたいのです。術が使えなくなったのは、いつからですか?」
「それは……」
景和に下心がないことを察した青波は、正直に話した。
「気づいたのは、二カ月くらい前です。最初は調子が悪いのだと、放置していたのですが、皇城に対してだけ術が使えなくなっていったので気になって……」
「なるほど」
「まさか、心当たりがある……なんてことはないでしょうけど」
「ちなみに、その頃でしたら……」
「えっ! あるんですか?」
滑らかに景和が語り始めたので、青波は目を見張った。
『青波!』
春霞が叫んでいたが、関係ない。
再び、青波は床にどんと座った。
「教えてください」
「いやあ、しっかり覚えているわけではないのですが、確か、その頃、瞬氏に関する秘伝が発見されましてね。瓦に描かれた象形文字を、私は必死で解読していたんです。本当に面白くて。描かれていたことを試して回ったんですよ。……で、その一つに瞬氏は神符なるものを「神」の化身として崇めていたとあったので、私が真似て書いてみたところ、素晴らしいから、崇めてみようということになったんです」
「崇める? なぜ? 透国には神がいらっしゃいますよ」
「ええ。でも、沢山の神が護ってくれたら、有難いですよね。この国の神と、瞬氏の神が力を合わせてくれたら、こんなに凄いことはありません。効果二倍です」
「透国の神と、瞬氏の神に対して、失礼なことをしているという自覚はない……と?」
「瞬氏の神符を再現することは、歴史を紐解く上で、重要なことです」
……どうしたものか。
常識が噛み合わない。
だが、相入れることのない会話は、景和の方があっけなく断ち切ってくれた。
「それで、皇城の主だった場所に、量産して貼ってみようということで……」
「貼っちゃったんですか?」
「はい。百枚ほど。今、貴方の話を聞いてみて、得心しました。守護の力の強い札は、貴方の術を退けることが出来るのですね。……私、凄くないですか?」
「いや、そんなことどうでも良いので、即刻、それ……はがして頂けませんかね」
(なんてこと……)
――最悪だ。
青波は両手を床について、深く重い溜息を吐いた。
―――犯人は、景和だったのだ。
良かれと思って神符を貼ったら、結果的に、それが青波の術を退けてしまった。
こんな痛い結末を知るために、悩んでいたのかと思うと泣きたいくらいだ。
「しかし、青波殿。私の一存で札をはがすことはできません。それを命じたのは、他でもない……」
『わわわっ!』
慌てて部屋の隅に隠れて、小さく蹲っている春霞を、青波はきつく睨みつけた。
「…………陛下」
(そうだったのか……)
酷い話だ。
春霞は後ろめたいことがあるから、青波を景和に会わせたくなかったのだ。
そして、会ってしまった後は、早々に引き離そうと煽っていた。
……つまり。
彼は神符の効果を知った上で使用し、青波をわざと皇城まで誘き寄せたのだ。
護神法が使えないと知れば、必ず青波が動くだろうと、最初から読んでいた。
「陛下の仕業だったんですね。一体、こんなことをして、どんな利があるのですか? 私に対する嫌がらせですか!?」
景和はきょとんとしながらも、しかし、言葉自体は通じていたので、穏やかに首肯していた。
その景和の背に隠れて、春霞は必死に叫ぶ。
『だから、青波。狙われているのは、本当なんだって!』
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『えーっと』
「ああ、そういえば」
景和がぽんと手を叩いた。
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