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犯人探し
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再会してから、春霞と感情を交えないように接していたのに、彼は初めから青波の未練に気付いていたのだ。
羞恥心で、青波は顔を真っ赤に染めた。しかし、春霞は何事もなかったように
『そう。じゃあ、暗殺者は術者ってこと? そんな人、私の近くにいたかな』
……しれっと、春霞は言葉を繋いでみせる。
余裕綽々だった。
(絶対、自分が勝ったとか思ってそう……)
もやもやするが、仕方ない。
青波も頭を切り替えるしかなかった。
「陛下。たとえば、自分が死んで得する人物などに、心当たりは?」
『残念ながら、得する人間しかいないんだけど?』
「では、金目当てでも、何でも、貴方様と一緒に犯人を探してくれるような方はいないのですか?」
『あまり、一緒にいたくない連中ばかりだな』
「真面目にお考え下さい。命が懸かっているんでしょう?」
『そうだね。だけど、ここは、私の母を死に追いやった元凶の嘉栄が六年前まで頂点にいた場所だ。未だにあいつが遺した負の遺産だらけなんだよ。人も制度もすべて。皆、私の敵ばかりだ』
「……春」
思わず、名前を呼びそうになって、自制した。
子供の頃、敵ばかりの皇帝になんてなりたくないと、春霞はよく泣いていたのだ。
『大丈夫。分かっているよ、青波。私は嘉栄と同じにはならない。あいつは父親に対する恨みから、皇族同士潰し合いをさせて、結果、流行り病でころっと死んでしまった。おかげで、この世で一番憎んでいた私に、帝位が転がりこんでくる格好となった。余計な因縁を生むなって、貴方は言うだろうって思ったから。私は耐えたんだよ。六年も。皇城に連行されていく私に、貴方は生きろとも言ったからね』
「………言いましたね」
それも、鮮明に覚えている。
半強制的に、皇城の使者に連れて行かれる春霞の嫌がる姿を……。
『生きていればいつか貴方に会えるって。それを希望に私は皇帝という役を演じた。私は即位してからも無力で、表立って貴方を捜すことすら出来なかったけど。……でも』
春霞は正座したままの青波と同じ目線になって、切実に訴えた。
『貴方は違う。私に情があったのなら、貴方は護神法で、私に言伝することも可能だったはずだ。何か特別に話せない事情さえなければ……』
「私を恨んでいらっしゃる?」
『なぜ、そう思うの?」
結局、またこの流れだ。
彼は、どうしても、禁術のことが知りたいらしい。
「陛下の悪いようにはなりませんから、ご安心下さい」
小声で呟いた青波は気まずくて、顔を逸らした。
しかし、春霞は諦めず、身体ごと青波の視線を追いかけてくる。
整った目鼻立ち、天女の如く透き通った白皙が、すぐ眼前に迫ってくる。
幽体に、どきどきしてしまう、自分が痛かった。
こちらに伸びてくる手は繊細で、女性のように嫋やかなのに、しかし、爪が伸びていた。
――まるで、獣のように鋭い爪の形状。
青波が彼と会えなかった理由がそこにあった。
『青波。もちろん、私を殺そうとしている犯人探しも重要だよ。だけど、私はまず、貴方と自分の身体のことを知りたい。どうせ、今も一人で抱えこんでいるんでしょう? その家宝の刀とやらも関係しているとか?』
「刀は、あまり関係ありません」
「ふーん。じゃあ、刀も少しは関係があるということだね?」
「あっ」
――やられた。
さすがに、自分の身の上のことだ。皇帝であれば、様々な文献を取り寄せることも可能だろう。
発覚しないはずがない。
話すしかない……か?
葛藤している青波に、真顔の春霞が更に近づいて来る。
最早、騙すことは不可能だと、真実を口にしようとした瞬間……。
「あっー! もうっ! 腹が立つ!!!」
大声を張り上げ、明淑が青波と春霞の間に飛び込んで来たのだった。
羞恥心で、青波は顔を真っ赤に染めた。しかし、春霞は何事もなかったように
『そう。じゃあ、暗殺者は術者ってこと? そんな人、私の近くにいたかな』
……しれっと、春霞は言葉を繋いでみせる。
余裕綽々だった。
(絶対、自分が勝ったとか思ってそう……)
もやもやするが、仕方ない。
青波も頭を切り替えるしかなかった。
「陛下。たとえば、自分が死んで得する人物などに、心当たりは?」
『残念ながら、得する人間しかいないんだけど?』
「では、金目当てでも、何でも、貴方様と一緒に犯人を探してくれるような方はいないのですか?」
『あまり、一緒にいたくない連中ばかりだな』
「真面目にお考え下さい。命が懸かっているんでしょう?」
『そうだね。だけど、ここは、私の母を死に追いやった元凶の嘉栄が六年前まで頂点にいた場所だ。未だにあいつが遺した負の遺産だらけなんだよ。人も制度もすべて。皆、私の敵ばかりだ』
「……春」
思わず、名前を呼びそうになって、自制した。
子供の頃、敵ばかりの皇帝になんてなりたくないと、春霞はよく泣いていたのだ。
『大丈夫。分かっているよ、青波。私は嘉栄と同じにはならない。あいつは父親に対する恨みから、皇族同士潰し合いをさせて、結果、流行り病でころっと死んでしまった。おかげで、この世で一番憎んでいた私に、帝位が転がりこんでくる格好となった。余計な因縁を生むなって、貴方は言うだろうって思ったから。私は耐えたんだよ。六年も。皇城に連行されていく私に、貴方は生きろとも言ったからね』
「………言いましたね」
それも、鮮明に覚えている。
半強制的に、皇城の使者に連れて行かれる春霞の嫌がる姿を……。
『生きていればいつか貴方に会えるって。それを希望に私は皇帝という役を演じた。私は即位してからも無力で、表立って貴方を捜すことすら出来なかったけど。……でも』
春霞は正座したままの青波と同じ目線になって、切実に訴えた。
『貴方は違う。私に情があったのなら、貴方は護神法で、私に言伝することも可能だったはずだ。何か特別に話せない事情さえなければ……』
「私を恨んでいらっしゃる?」
『なぜ、そう思うの?」
結局、またこの流れだ。
彼は、どうしても、禁術のことが知りたいらしい。
「陛下の悪いようにはなりませんから、ご安心下さい」
小声で呟いた青波は気まずくて、顔を逸らした。
しかし、春霞は諦めず、身体ごと青波の視線を追いかけてくる。
整った目鼻立ち、天女の如く透き通った白皙が、すぐ眼前に迫ってくる。
幽体に、どきどきしてしまう、自分が痛かった。
こちらに伸びてくる手は繊細で、女性のように嫋やかなのに、しかし、爪が伸びていた。
――まるで、獣のように鋭い爪の形状。
青波が彼と会えなかった理由がそこにあった。
『青波。もちろん、私を殺そうとしている犯人探しも重要だよ。だけど、私はまず、貴方と自分の身体のことを知りたい。どうせ、今も一人で抱えこんでいるんでしょう? その家宝の刀とやらも関係しているとか?』
「刀は、あまり関係ありません」
「ふーん。じゃあ、刀も少しは関係があるということだね?」
「あっ」
――やられた。
さすがに、自分の身の上のことだ。皇帝であれば、様々な文献を取り寄せることも可能だろう。
発覚しないはずがない。
話すしかない……か?
葛藤している青波に、真顔の春霞が更に近づいて来る。
最早、騙すことは不可能だと、真実を口にしようとした瞬間……。
「あっー! もうっ! 腹が立つ!!!」
大声を張り上げ、明淑が青波と春霞の間に飛び込んで来たのだった。
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