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一日目
〈初瀬山邸〉へ①
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【side.八城アキラ】
舗装されていない山道は思った以上にでこぼこしており、車体は激しく揺れる。
「あっ!クソッ!」
運転席に座る学斗が舌打ちをする。
車体は再び大きく揺れ、タイヤが跳ねた泥水が窓にまで飛び散った。
バキバキと枝が折れる音に、きっと車体は傷だらけになっていることだろうと俺は悟った。
「ちゃんと走れよな、学斗。このままじゃ、日が暮れるぞ。」
「何で乗せてもらっている側のお前はそんなに偉そうなワケ!?」
「俺と一緒に森林をドライブできて嬉しいだろ?感謝しろよな。」
「嬉しくねぇよ、アキラ!むしろ絶賛後悔中だ!」
可哀想に、学斗。
今乗っている車は中古とはいえ、学斗が慣れないバイトでコツコツ貯めた金で買ったものだ。
俺のお願いを断っていれば、今頃は楽しく洗車でもしていただろう。
でも、俺は知っている。
ひとつ上の兄である学斗は、俺のお願いに弱いってことに。
俺はぶつぶつ文句を言っている学斗の横顔から、手元の分厚い封筒に視線を移す。
従兄弟の渡辺拓人から連絡があったのは、今朝のことだった。
『こんな朝っぱらから本当に申し訳ないんだけど……。研究室の忘れ物を届けに来てほしいんだ……。』
詳細を聞く前に、『もちろんだよ、拓兄!』と即座に了承してしまうのも、無理はない。
だって、大好きな拓兄が、弱った声で、俺に助けを求めているのだから。
――あぁ、拓兄。
あの朗らかで優しくてイケメンの拓兄の甘い笑顔が脳裏に浮かぶ。
『ありがとう、アキラ♡やっぱり俺、アキラがいなきゃ、ダメだなぁ……♡ね?もし、アキラがよかったら、うちで一緒に暮らさない?4月からアキラは同じ大学に通うわけだし、アキラと一緒の時間を過ごしたいな……♡』
この封筒を渡したら、そんなこと言われちゃったりして!?
拓人からそんなこと言われたら、食い気味でオーケーしちゃうし、何ならその日にもう俺の荷物持って引っ越しちゃうかも!
「はぁ~!もう、拓兄と一緒に暮らしたい~!」
心の中の妄想がつい口に出てしまったが、学斗はこちらに視線を向けて、チッと舌打ちをした。
「口を開けば、拓兄、拓兄……って。ったく。正直俺にとっては迷惑なだけなんだけど。何がそんなにいいんだか。」
「顔、声、そしてあの優しい性格。」
拓兄は昔から、俺の理想の王子様だった。
顔は整っていて、黒髪で、色白で、頭が良くて、性格は穏やかで優しくてイケメン。おっちょこちょいで、抜けているところもあるけれど、そこがまたいい。
あぁ……。あの中性的な声で、『アキラ』と俺を呼んでほしい。
柔らかく微笑んだ目で、俺を見てほしい。
「ケッ!騙されてるよ、アキラ。山の中まで忘れ物を届けに来いだなんて、人遣い荒すぎだろ!」
俺と違って、兄の学斗は拓兄のことがあまり好きではないらしい。
拓兄は俺と学斗に対して別け隔てなく優しくしているが、学斗はいつも拓兄に対してつっけんどんな物言いをする。
「お前は本当に拓兄のことが嫌いだなぁ。それなのに、わざわざこうして車を出してくれるんだから、不思議だよ。」
「それは、拓兄が理由じゃなくて……っ!その、お前が困ってたら、助けてやるのが兄の役割っていうか……っ!」
「顔真っ赤にして、ツンデレか。」
「うっせ!ほら!もう着くぞ!」
カーナビに登録した目的地まで、あと少し。出てきたときはお日様が高い位置にあったのに、鬱蒼と茂る木々のせいか、辺りは妙に薄暗い。
やがて木々の合間から舗装された道が現れ、少し走りやすくなった。
数分走ったところで、突然視界が開ける。
「うわぁ~。でっかいな~。」
真っ黒で大きな門が、さらにその向こうには中世のお城のような豪邸がそびえ立っていた。
門の前で停車し、車外に出ると、ひんやりとした空気が肌を刺した。薄着で来たため、少し肌寒い。
俺が体を小さく震わせていると、同じく車から降りた学斗が「とんでもねぇな……。」と呟く。
「本来なら、俺たち庶民なんか門前払いだろうに……。」
そう。
この豪華絢爛な建物こそが、拓兄が大学の研究のために訪れている屋敷――かつて初瀬山勇次郎という大富豪が住んでいた〈初瀬山邸〉である。
舗装されていない山道は思った以上にでこぼこしており、車体は激しく揺れる。
「あっ!クソッ!」
運転席に座る学斗が舌打ちをする。
車体は再び大きく揺れ、タイヤが跳ねた泥水が窓にまで飛び散った。
バキバキと枝が折れる音に、きっと車体は傷だらけになっていることだろうと俺は悟った。
「ちゃんと走れよな、学斗。このままじゃ、日が暮れるぞ。」
「何で乗せてもらっている側のお前はそんなに偉そうなワケ!?」
「俺と一緒に森林をドライブできて嬉しいだろ?感謝しろよな。」
「嬉しくねぇよ、アキラ!むしろ絶賛後悔中だ!」
可哀想に、学斗。
今乗っている車は中古とはいえ、学斗が慣れないバイトでコツコツ貯めた金で買ったものだ。
俺のお願いを断っていれば、今頃は楽しく洗車でもしていただろう。
でも、俺は知っている。
ひとつ上の兄である学斗は、俺のお願いに弱いってことに。
俺はぶつぶつ文句を言っている学斗の横顔から、手元の分厚い封筒に視線を移す。
従兄弟の渡辺拓人から連絡があったのは、今朝のことだった。
『こんな朝っぱらから本当に申し訳ないんだけど……。研究室の忘れ物を届けに来てほしいんだ……。』
詳細を聞く前に、『もちろんだよ、拓兄!』と即座に了承してしまうのも、無理はない。
だって、大好きな拓兄が、弱った声で、俺に助けを求めているのだから。
――あぁ、拓兄。
あの朗らかで優しくてイケメンの拓兄の甘い笑顔が脳裏に浮かぶ。
『ありがとう、アキラ♡やっぱり俺、アキラがいなきゃ、ダメだなぁ……♡ね?もし、アキラがよかったら、うちで一緒に暮らさない?4月からアキラは同じ大学に通うわけだし、アキラと一緒の時間を過ごしたいな……♡』
この封筒を渡したら、そんなこと言われちゃったりして!?
拓人からそんなこと言われたら、食い気味でオーケーしちゃうし、何ならその日にもう俺の荷物持って引っ越しちゃうかも!
「はぁ~!もう、拓兄と一緒に暮らしたい~!」
心の中の妄想がつい口に出てしまったが、学斗はこちらに視線を向けて、チッと舌打ちをした。
「口を開けば、拓兄、拓兄……って。ったく。正直俺にとっては迷惑なだけなんだけど。何がそんなにいいんだか。」
「顔、声、そしてあの優しい性格。」
拓兄は昔から、俺の理想の王子様だった。
顔は整っていて、黒髪で、色白で、頭が良くて、性格は穏やかで優しくてイケメン。おっちょこちょいで、抜けているところもあるけれど、そこがまたいい。
あぁ……。あの中性的な声で、『アキラ』と俺を呼んでほしい。
柔らかく微笑んだ目で、俺を見てほしい。
「ケッ!騙されてるよ、アキラ。山の中まで忘れ物を届けに来いだなんて、人遣い荒すぎだろ!」
俺と違って、兄の学斗は拓兄のことがあまり好きではないらしい。
拓兄は俺と学斗に対して別け隔てなく優しくしているが、学斗はいつも拓兄に対してつっけんどんな物言いをする。
「お前は本当に拓兄のことが嫌いだなぁ。それなのに、わざわざこうして車を出してくれるんだから、不思議だよ。」
「それは、拓兄が理由じゃなくて……っ!その、お前が困ってたら、助けてやるのが兄の役割っていうか……っ!」
「顔真っ赤にして、ツンデレか。」
「うっせ!ほら!もう着くぞ!」
カーナビに登録した目的地まで、あと少し。出てきたときはお日様が高い位置にあったのに、鬱蒼と茂る木々のせいか、辺りは妙に薄暗い。
やがて木々の合間から舗装された道が現れ、少し走りやすくなった。
数分走ったところで、突然視界が開ける。
「うわぁ~。でっかいな~。」
真っ黒で大きな門が、さらにその向こうには中世のお城のような豪邸がそびえ立っていた。
門の前で停車し、車外に出ると、ひんやりとした空気が肌を刺した。薄着で来たため、少し肌寒い。
俺が体を小さく震わせていると、同じく車から降りた学斗が「とんでもねぇな……。」と呟く。
「本来なら、俺たち庶民なんか門前払いだろうに……。」
そう。
この豪華絢爛な建物こそが、拓兄が大学の研究のために訪れている屋敷――かつて初瀬山勇次郎という大富豪が住んでいた〈初瀬山邸〉である。
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