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一日目
【人狼ゲーム】の始まり①
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「……い。アキラ!おい、アキラっ!」
誰かが呼んでいる。
この泣きそうな声、学斗だな。
何だ。誰かに虐められでもしたのか……。
「ん……?」
重い瞼を無理矢理持ち上げると、学斗がひどく安心したように頬を緩めた。
「良かった……。」
あれ?
俺、さっきまで夕食食べてて、それで――。
重たい身体を起こすと、自分がソファーに横たわっていたことにようやく気づいた。
辺りを見回すと、清水先輩や藤山さん、そして長根、江頭、高橋さんまで床に倒れている。
「……ん、ぅ。」
ハッと隣を見ると、同じソファーに拓兄も倒れていた。
俺は慌てて拓兄に呼びかける。
「拓兄!しっかりして!」
「ん……アキラ……。」
拓兄はゆっくりと身体を起こし、何度か瞬きを繰り返して、俺に焦点を合わせた。
「ここは……。」
「分からない。みんな、倒れてたみたいで……。俺もさっき、学斗に起こされたところ。」
「何でこんな……。さっきまで、夕食を食べていたはずなのに……。」
拓兄も俺と同じで、夕食後の記憶がないらしい。
まだ意識がはっきりしないのか、頭を抱える拓兄の肩を支えながら、傍に立つ学斗へ視線を向ける。
「学斗、ここって?」
「分からない。多分、〈初瀬山邸〉の中だとは思うけれど。」
そこは夕食を取っていた広間よりも狭いが、置かれている調度品も、壁にかけられている絵画も、これまで〈初瀬山邸〉で目にしてきた物と似たものばかりだ。
「お、俺も夕食後の記憶がないんだよ……!気づいたら、このソファーに寝てて、隣にはお前と拓兄がいて……っ!」
「学斗……。」
薄暗い照明のせいで見づらいが、広間より狭いものの、この〈初瀬山邸〉で見てきた部屋と比べてもそれなりの広さはある。
ソファーやテーブルがあるところから、応接間だろうか。
俺たちの向かいのソファーには、柳生教授と警察官の新田さんが倒れていた。
「最上さんと御堂さんは?」
「最上さんがどこにいるかは分かりませんが、私ならここに。」
「うおっ!?」
急に背後から声をかけられ、俺も学斗も思わず飛び上がった。
「み、御堂さん!?」
いつの間にか背後にいた御堂さんは、「驚かせるつもりはなかったのですが。」と少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「すみません。君たちが意識を取り戻したところで、私も同様に起きまして。いつ話しかけようか待っていたのですが……。」
「あ、そうだったんですか。」
「えぇ。そして、残念ながら私も君たちと同じです。夕食後の記憶がありません。」
「えっ!?」
動揺する俺たちに対して、御堂さんは冷静に状況を分析する。
「ここに最上さんがいないことを考えると、おそらく私達に即効性の睡眠薬を盛ったのは彼でしょう。」
「え?な、何でそんなこと……。」
「それは、首元のこれが、関係しているのかもしれませんね。」
そう言って、御堂さんが指差した彼の首には、隙間なくぴったりと黒い首輪のような物が嵌められていた。中央には小さなランプが点滅している。
慌てて俺たちは自分の首元を触ると、同様の物が装着されていた。
それは、倒れている人たちも同じだった。
「ななな、何これ!?」
「なんでしょうねぇ。爆弾とか?ははは!」
「わ、笑い事じゃありませんよ!」
平気な顔で爆弾だと言い出す御堂さんに、混乱する学斗、そして意識がはっきりしてきたのか、血の気が引いた顔で慌てる拓兄。
俺たちの騒ぎ声に、ようやく周囲の人達もどんどん起きてきた。
「くっそ……頭がいてぇ……。」
「ど、どこよ、ここ!?」
「うわぁ!何だこの首のやつ!」
一気に部屋の中は騒がしくなった。
「皆さん、静粛に!」
パンパンと手を叩き、御堂さんが立ち上がった。
「落ち着いてください。まずは状況の把握をしましょう!」
探偵でもあり、この場で一番冷静な御堂さんの声に、皆の動揺が治まっていくのが分かった。
そして、皆が静まったところで、彼は話を切り出す。
「まず、それぞれの首に嵌められたこの首輪ですが、爆弾ではありません。」
「な、何でそう言い切れるんだ!」
そう言う御堂さんに、長根が食ってかかった。
しかし、その回答は御堂さんではなく、意外なところから返ってきた。
「薄すぎるんだよ。爆弾にしては、な。」
新田さんだ。
新田さんは顔を反らし、するすると黒い首輪に指を滑らせている。
「あー、厚みは5ミリくらいか?こんなに薄かったら、爆弾の仕掛けようもねぇだろ。」
新田さんが警察官だというのもあって、長根は「そ、そうか……。」と納得していた。
「よ、良かったぁ。爆弾じゃなくて……。」
清水先輩はずっと恐怖で身体が震えていたのか、泣きそうな声で呟いた。そんな彼女の肩に拓兄は手を回して、自分の方に引き寄せる。
清水さんは当たり前のように、拓兄の腕の中で涙を流していた。
「それで?何でわざわざこんな良く分からん首輪を付けて、俺たちをこんな所へ連れて来られたんだ?」
高橋さんが腕を組んで、御堂さんに問いかける。
「流石にそこまでは私にも分かりません。ですが、きっとこの屋敷の執事である彼が説明してくださることでしょう。――ねぇ、最上さん?」
御堂さんの呼びかけに、部屋の扉が開いて、最上さんが中へ入ってきた。
最上さんは夕食の時と変わらず、きっちりとした執事服を身に纏っていた。
「最上さん……っ!」
「皆様、このような手荒な真似をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。」
深く頭を下げる最上さんに、長根が「おい!これは何のつもりだ!」と詰め寄る。
「全ては、旦那様の望みでございます。」
「旦那様って……初瀬山勇次郎のこと?」
「そうでございます。故人初瀬山勇次郎の遺書が見つからなかったのは、皆様、既にご存知でいらっしゃいますね?」
「え、えぇ……。」
そうなのか?俺や学斗、拓兄、清水先輩以外の大人たちは分かっているのか、頷いている人もいる。
「生涯、結婚することもなかった旦那様にご子孫はいらっしゃいません。そのため、あらゆる資産を遠縁にあたる初瀬山喜美子様が相続されることとなりました。しかし、実は旦那様から遺書は託されておりました。――ここに。」
そう言って、最上さんは懐から一枚の紙を取り出す。
「遺言なんざ聞いちゃいねぇぞ!」
「あぁ、長根様。ご安心ください。当初と変わらず、遺品整理は皆様にお願いさせていただきます。もちろん、譲渡は無償です。そして、資産を相続された初瀬山喜美子様ですが、つい先日、相続放棄されました。」
「なっ!?」
長根は驚きのあまり、開いた口が塞がらない。
長根だけではない。他の面々のあまりの衝撃に言葉を失っている。
「つまり、現状でこの屋敷にある様々な美術品、さらには旦那様の所有していた土地等、あらゆる遺産を誰が相続するのか、白紙に戻ったわけです。」
「そんなことが……!」
「喜美子様も承知しておりますので、何の問題もございません。」
あったとしても、初瀬山家の力でどうとでもなると言わんばかりだ。
「それでは、旦那様の遺言状を読み上げさせていただきます。」
最上さんは、混乱する皆をよそに、初瀬山勇次郎の遺言状を読み上げ始めた。
『私の土地、建物、美術品、骨董品、古書、ありとあらゆる財産は全て、今その場にいる者たちの中から一人を選び、其の者に譲り渡す。相続人は、これより始まる【人狼ゲーム】にて決定する。詳細はゲームマスターである最上雅志が通達する。以上。』
遺言状を読み終えた最上さんは、顔を上げ、全員を見渡す。
「以上が旦那様の願いです。誠に勝手ながら、今夜より、皆様には故人初瀬山勇次郎主催の【人狼ゲーム】に参加していただきます。」
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