サメック! モンスター転生しちゃったけど白髪ギザ歯サメ魚人美少女が嫁になった

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町の事情

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 ギルドに所属する冒険者は、初級にはじまり中、上、特級という等級分けがされている。
 等級を上げるには、所定の回数の依頼をこなすことや強いモンスターを倒すことなど、複数の条件が設定されている。等級によって受けられる依頼の種類が変わってきたり、ギルドから与えられる恩恵が変わり、実力の証明ともなるため社会的な地位にも影響してくる。
 そのうちの一つ、初級から中級に上がるための条件に「はじまりの迷宮」第三層のボスモンスターを倒すというものがある。
 依頼をコツコツこなしていくことを選んだ場合、普通のペースでは順調に行っても昇級まで一年以上かかってしまう。だが、ダンジョン第三層までは最短であれば数日で踏破できる。
 もちろん、相応の実力がなければダンジョン内のモンスターに返り討ちに合うため、楽な道というわけではないが、それでも挑むものは多い。

「ダンジョンの浅い階層に強力なモンスターが出現するのでなんとかして欲しいと守備隊にも話が来ていますが、ダンジョンはギルドの管轄なので手出しはしていません」
「その件か。確かに初級冒険者の間で変な噂は広まってるんだが……」
「変な噂とは?」
「おかしなくらい強いサメのモンスターが浅い階層に現れるって話だ。しかも、そいつは宝箱の中から出てくるってんだ」
「そんなはずは……!」

 それまでポーカーフェイスを保っていたクルエルが思わず眉を跳ね上げる。

「宝箱は光神が人間にアイテムを授けるために贈られるものです。その中にモンスターなど、聞いたことも無い……」
「そう、宝箱は神の恩寵だ。邪神の眷属であるモンスターが入ってるなんてことはありえない」

 リデルは鼻の傷跡を指先で掻きながら小さく嘆息する。

「だいたい、そのモンスターに襲われたっていうやつらは仲間が丸呑みにされたというんだが、自分たちは無事なんだ」
「どういうことでしょう」
「あんまりおかしな話だから、初級冒険者共がパニックで他のもんを見間違えたんだと思ってたが……少なくとも、サメの存在は確かなようだ」
「確かな目撃情報があったのですか?」
「丸呑みされずに遺体を持ち帰ったパーティーがあってな。確かに、サメと思われる噛み跡だった」
「あすこに水棲系のモンスターが居ると聞いたことはありませんね」
「たぶん管理できていない入り口のどこかから入り込んだんだろう。少し離れたところにリオー河がある。あの河は河口が広いからな。満潮のときには海のモンスターがさかのぼってくることも少なくはない」

 話を聞いたクルエルはふむと小さく頷き、改めてリデルに問う。

「そのような危険なモンスターのいる状況で、新人をダンジョンに送り込むのですか?」
「おういおい、お堅い守備隊の隊長になって忘れちまったのか? 俺たち冒険者は危険に挑んでなんぼだろうが」

 リデルはふんっと鼻で笑い、おおげざに手を広げて肩をすくめる。

「危ないモンスターが一匹迷い込んでるからダンジョンに挑むのは控えましょう、ってか? そんな腰抜けは冒険者失格だぜ」
「ですが初級が挑むのにふさわしいという謳い文句のダンジョンでいきなり危険な敵に遭遇するというのでは話が違います。少なくとも、そのモンスターが討伐されるまで初級冒険者の入場を制限して……」
「だがな、冒険者学校の卒業式はもうすぐだ。新人たちはすぐにでもアインツにやってくる。ダンジョンに入れないとなったら、他所に流れていっちまうぞ」
「それも致し方ないことでしょう」
「そいつは困るな、クルエル隊長。町の商工業者はすでに新人ラッシュを見越して準備をしている。宿も飲食店も衣料も娼館も、新人ラッシュはなにからなにまでお祭り騒ぎだ。それが中止だなんてのはつまり、大きな大きな損失になる」
「そのモンスターが討伐できるまでの期間だけ、辛抱してもらえば……」
「売上が減る、などという簡単な話じゃあないぞ。品が売れなければ商人は仕入れ金を払えず、仕入れ金を受け取れない職人は材料を買えない。品や材料を運ぶ運送屋も仕事がなくなる。経済の流れがすべて止まるんだ。二ヶ月も経てば町は失業者であふれるぞ」

 険しい表情のアロガンに追従するように、リデルも口を開く。

「それに元から町にいる冒険者たちも新人ラッシュを避けるやつは多い。すでに結構な数が他の町へ移ってる。新人が来ないと、ぽっかり人の居ない期間が出来ちまう。依頼も新人向けをアインツに集めて、中級以上は周辺の町に回すよう手配してある」

 部屋に重苦しい沈黙が降りる。
 そのタイミングを見計らったかのように、ベルの音が鳴り響いた。音の出どころはギルドマスターのデスクに置かれた魔法電話だ。
 秘書が受話器を取って通話の相手と二言三言、言葉を交わし、ぱっと顔を上げた。

「ダンジョンのサメモンスターが討伐されたそうです……!」



 冒険者ギルドはじまりの迷宮入り口前派出所に、巨大な革鞄が飛び込んできた……否、鞄を背負った異形の少女、トレラが駆け込んできた。

「サメック……サメのモンスターが討伐されたというのは本当ですか!?」

 受け付けに立っていたギルド職員は、蛮族のような見た目のトレラに詰め寄られて冷や汗を浮かべながら、努めて落ち着いた様子でうなずく。

「はい、二時間ほど前に中級者のパーティがサメモンスターを倒したと報告にいらっしゃいました」
「本当にサメモンスターだったのですか? なにか他のモンスターとかでは……」
「証拠としてモンスター素材を納品していただきました。間違いなくサメモンスターの物です」
「……見せてもらえますか?」
「そちらに展示してありますよ」

 職員が指差したのは、入り口の脇に置かれたシンプルな台だった。その上には、確かにサメの顎骨らしきものが飾られている。

「サメモンスターの噂はすっかり広まっていましたから、間違いなく討伐されたということを冒険者のみなさんに伝えて安心してもらうために、ああして飾ってあります。討伐したパーティにも大々的に報奨を授与することになっています」

 職員の言葉を上の空といった様子で聞き流し、トレラはふらふらとサメの顎骨に近づいていった。
 そこに展示されている物は、間違いなくサメモンスターの顎骨である。ノコギリのようなギザギザの歯が大量に、しかも何列も並んでいる様はなんと禍々しいことか。
 深々と、それはもう深々と悲嘆の吐息をこぼし、ぐったりと項垂れるトレラ。
 彼女はサメックを求めて数日間、はじまりの迷宮の低階層をずっと徘徊していたのだが、あれ以来一度もサメックに出会うことが出来ていなかった。
 逃げられた時にサメックが使用した宝箱を利用した移動。あの能力を人間が接近してくるたびに使えば、いくらでも逃げ回ることが可能だ。
 能力を駆使して逃げてしまうサメックをどうやって捕まえるかを悩んでいたところで、突然のサメ討伐の噂を聞いて派出所に慌てて駆けつけたのだ。

「これは……」

 ところが目の前まで来たところで、その顎骨の幅が五〇センチメートル程度であることに気づく。

「サメモンスターとしては結構な大きさと言えなくもないけど……サメックさんの体格からすると明らかに小さいです。もしや他のサメが紛れ込んだ?」

 サメックは未だ健在、そんな希望を持つトレラ。
 だが彼女はそれを職員に告げたりはしなかった。
 せっかく危険なモンスターが排除されたと安心している人たちに、そんなことを言っても信じてもらえないだろう。
 もうじき新人ラッシュと呼ばれる、新米冒険者の殺到する時期が来る。
 彼らがダンジョン内の宝箱をどんどん開けていってくれれば、瞬間移動を防げるかもしれない。

「そうなったら……ふひひひ、覚悟してくださいねサメックさん」

 そこでふと、あることが気になってトレラは顎に手を当てて首をかしげる。

「……それにしても、このサメモンスターはどこから来たのでしょう?」

 サメックより小物とは言えサメはそれなりに強力なモンスターと思われる。
 外部からダンジョン内にモンスターが入り込むことはあるが、それはどちらかといえば弱いモンスターが多い。もともとの住処に外敵がやってきて、追いやられて逃げ込んでくるのだ。
 強ければ自分の縄張りに居座ることが出来るのだから、当然、ダンジョンに逃げ込む必要など無い。
 またダンジョン内には食料が乏しく、地底から流れてくる邪神の魔力を僅かな糧として、あとは他のモンスターか冒険者を捕食するしかないため、決して住みやすい環境とは言えないはずである。

「何かが起きているかもしれませんね……ふひひ」

 ちょうど派出所に入ってきた他の冒険者が、入り口の近くで不気味にほくそ笑むトレラにビクリと震えてそそくさと逃げていった。
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