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第十三話
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藤井茜は眠れなかった。ベッドに入ってから、かれこれ二時間が経っている。瞼を閉じ、頭まで布団をすっぽりと被ってはいるものの、いつまで待っても睡魔がやってくる気配すらない。
極力、頭の中を真っ白にしようと心がける――だがそう意識した分、目が冴えてしまう。
退屈な授業などはその気になれば寝られるのに、眠らなければならないときに限って、どうしても眠れない。
今日、美紀の家にいたあの男は何者なのだろうか――茜は気になって仕方がない。彼女が眠れない理由もそこにある。
高校の下校途中に立ち寄った美紀の家の玄関先で、二十代とおぼしき男が、美紀の母親と話をしていた。あいにく会話の内容までは聞き取れなかったが、何やら深刻な話だということは二人の顔つきを見れば察しがつく。
立ち去り難くなり、茜は家の前でずっと二人の様子を窺っていたが、話を終えて引き返そうとする男と目が合いそうになり、慌ててその場を離れた。
いったい何の話をしていたのだろうか――美紀と関係のあることだろうか。彼女のことが心配でならない。
茜と美紀は小学校からの幼馴染みで、とても仲が良かった。知らない人からは姉妹とよく間違われたこともある。実際に彼女たちの両親を含め、家族ぐるみの付き合いをしていた。
それがいつからか少しずつ――その関係が壊れ始めていった。
きっかけは何だったのか、美紀が父親と血が繋がっていない――母親の不倫でできた子どもだという噂が、町内で広まり始めた。途端、茜の両親や町民全員が手の平を返したように、美紀の家族に冷たくなった。中には陰口を叩く者、あからさまな嫌がらせをする者までいた。
《悪魔の子》とその家族は、明確な血縁関係にある、自分たち《人間の子》と違って卑しく汚らわしい存在だとでも言いたげだった。
茜には納得がいかなかった。なぜ親と血の繋がりがないだけで、あそこまで酷い扱いを受けなければならないのか。両親にそれとなく訊ねてみても、ただ《悪魔の子》だからと口にするばかりで、まるでその言葉だけで説明が足りると考えているようだった。
そして茜も、美紀とは疎遠になっていった。彼女自身がそう望んだというよりは鈴沢家に近づかせないようにする両親や町全体の雰囲気が、茜をそんな状況へと追いやっていた。
校内を除き、やがて美紀の姿を見る機会すら減っていき――彼女がついに退学するに至っては、日常生活でもう会うこともなくなってしまった。
もっと自分に勇気があれば――自分だけでも彼女の味方でいてあげてさえいれば、美紀は退学にまで追いつめられることはなかったのではないか――後悔と自己嫌悪のあまり、死ぬことを考えることもあった。だがそうするだけの勇気も根性もなく、そんなどうしようもない自分が、茜は本当に嫌で仕方がなかった。
茜にできることといえば、部屋の中で一人、泣きながら美紀に謝ることだけだった。
何度も実際に鈴沢家に足を運んでは、美紀の顔を見て彼女に謝罪しようとした――だが今もって、なかなか指がインターフォンを押せないでいる。
毎日続けていれば、そのうち押せるようになるかも知れない。そうして美紀が玄関口に現れるまで待って、これまでのことを謝り、今度こそ彼女の傍にいて力になろう――それだけが茜の日々を生きる心の支えとなっていた。
明日こそ、美紀に謝る――明日こそ――。
そう念じているうちに、茜にもようやく眠りが訪れた。
極力、頭の中を真っ白にしようと心がける――だがそう意識した分、目が冴えてしまう。
退屈な授業などはその気になれば寝られるのに、眠らなければならないときに限って、どうしても眠れない。
今日、美紀の家にいたあの男は何者なのだろうか――茜は気になって仕方がない。彼女が眠れない理由もそこにある。
高校の下校途中に立ち寄った美紀の家の玄関先で、二十代とおぼしき男が、美紀の母親と話をしていた。あいにく会話の内容までは聞き取れなかったが、何やら深刻な話だということは二人の顔つきを見れば察しがつく。
立ち去り難くなり、茜は家の前でずっと二人の様子を窺っていたが、話を終えて引き返そうとする男と目が合いそうになり、慌ててその場を離れた。
いったい何の話をしていたのだろうか――美紀と関係のあることだろうか。彼女のことが心配でならない。
茜と美紀は小学校からの幼馴染みで、とても仲が良かった。知らない人からは姉妹とよく間違われたこともある。実際に彼女たちの両親を含め、家族ぐるみの付き合いをしていた。
それがいつからか少しずつ――その関係が壊れ始めていった。
きっかけは何だったのか、美紀が父親と血が繋がっていない――母親の不倫でできた子どもだという噂が、町内で広まり始めた。途端、茜の両親や町民全員が手の平を返したように、美紀の家族に冷たくなった。中には陰口を叩く者、あからさまな嫌がらせをする者までいた。
《悪魔の子》とその家族は、明確な血縁関係にある、自分たち《人間の子》と違って卑しく汚らわしい存在だとでも言いたげだった。
茜には納得がいかなかった。なぜ親と血の繋がりがないだけで、あそこまで酷い扱いを受けなければならないのか。両親にそれとなく訊ねてみても、ただ《悪魔の子》だからと口にするばかりで、まるでその言葉だけで説明が足りると考えているようだった。
そして茜も、美紀とは疎遠になっていった。彼女自身がそう望んだというよりは鈴沢家に近づかせないようにする両親や町全体の雰囲気が、茜をそんな状況へと追いやっていた。
校内を除き、やがて美紀の姿を見る機会すら減っていき――彼女がついに退学するに至っては、日常生活でもう会うこともなくなってしまった。
もっと自分に勇気があれば――自分だけでも彼女の味方でいてあげてさえいれば、美紀は退学にまで追いつめられることはなかったのではないか――後悔と自己嫌悪のあまり、死ぬことを考えることもあった。だがそうするだけの勇気も根性もなく、そんなどうしようもない自分が、茜は本当に嫌で仕方がなかった。
茜にできることといえば、部屋の中で一人、泣きながら美紀に謝ることだけだった。
何度も実際に鈴沢家に足を運んでは、美紀の顔を見て彼女に謝罪しようとした――だが今もって、なかなか指がインターフォンを押せないでいる。
毎日続けていれば、そのうち押せるようになるかも知れない。そうして美紀が玄関口に現れるまで待って、これまでのことを謝り、今度こそ彼女の傍にいて力になろう――それだけが茜の日々を生きる心の支えとなっていた。
明日こそ、美紀に謝る――明日こそ――。
そう念じているうちに、茜にもようやく眠りが訪れた。
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