罪ノ贄

黒砂糖

文字の大きさ
16 / 24

第十五話

しおりを挟む
 真紀はわざとじらすように、ブラウスのボタンを時間をかけて外していく。
 修平はそんな彼女を、寝床に横たわったまま見上げていた。口を開くことも、身動ぎをすることもなかった――いや、したくてもできなかった。まるで金縛りにあったかのように、体がまるで言うことをきかない。
 やがて真紀は下着まですべて脱ぎ捨て、綺麗な白い裸体を修平の前に晒した。次に彼女は屈み込み、今度は彼の衣服を脱がし始めた。修平はされるがままになっていた。
 ――二人ともが、生まれたままの姿となった。
 真紀は修平のペニスを口に含み、歯と舌で適度な刺激を与えながら唾液で湿らせた。そうして自らの中に、彼のものを招き入れた。彼女の中に、修平のペニスが埋まっていく。
 動けない修平に代わって、真紀が体を動かし始めた。初めはゆっくり、段々と早く――彼女の動きに合わせて、湿った音が聞こえてくる。
 動きが激しくなるにつれて、真紀の喘ぎ声もまた、大きくなっていった。怒張して、敏感になった修平のペニスはいまや少し肉壁に擦れただけでも、凄まじい快感が脳へと駆け上がる。
 修平と真紀は、同時に絶頂に達した。彼の白濁液が、真紀の体内に熱く迸る――ドーパミンの過剰分泌のせいか、二人の体が一つに溶け合うような錯覚を起こした。
 脱力した真紀は、繋がったまま修平の上にうつ伏せになった。汗で濡れた彼女の長い髪が、修平の体に張り付いている。
 真紀の体温と彼女の匂い、そして彼女の吐息を、修平は肌に感じた。
 幸福感に身を包まれているうちに――修平の意識は急速に薄れていった。

  
 ――目を、覚ました。
 眩しい日差しが、とうに夜が明けていることを修平に知らせている。それでもしばらくは状況に頭の方がついていかず、呆けた表情で天井を見つめていた。
 室内のどこにも、真紀の姿はない――どうやら自分は今まで夢を見ていたらしいと、ようやく得心がいく。 
 それにしても、ただの夢とも思えないほど生々しい夢だった。
 ――ふと修平は、自分が全裸のままで眠っていたことに気付いた。昨夜は確かに衣服を着ていたはずだ。
 はっとして、股間に手をやる――ぬめりとした感触がある。間違いなく精液の残滓だった。
 あれは夢じゃなかったのだろうか――いや、常識的に考えてもそんなことはありえないと、すぐに分かる。
 そもそも夢に出てきた真紀は、傷一つない綺麗な白い肌をしていたが、現実の彼女は利樹の暴力で全身が痣だらけだ。
 だが本当に、あれはただの夢に過ぎなかったのだろうか。
 《夢魔は理想的な異性の姿で現れる》――かつて、桐村はそんなことを言っていた。修平にとっては、真紀の存在がまさにそうだった。
 
 「……馬鹿馬鹿しい」
 
 苦笑して、修平は寝床から起き上がった。

 
 「お客さん、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが……」
 
 出会うなり、桐村は驚いた様子で言った。
 
 「ご心配いりません……少し体が怠いだけです」
 
 答えて、作り笑いをしてみせる。
 
 「昨夜、変な夢を見たんですよ。きっとそのせいもあるんでしょう」
 
 「ゆ、夢……?」
 
 心配させまいと口にした言葉だったが、桐村にとっては逆効果だったようだ。
 
 「……どんな夢を見たんです?」 
 
 「ど、どんなって――」
 
 夢の内容まで言えずに修平が口籠っていると、桐村の表情はますます険しいものに変わった。
 
 「お客さん……お客さんはすぐにでも、この町から出るべきだと思います」
 
 桐村の口からは意外な台詞が飛び出した。
 
 「どうしてですか? ただの夢で、そんな大袈裟な――」

  「大袈裟ではありません」

 いつになく強い口調で、桐村は続けた。
 
 「このままだとお客さん……死んでしまいますよ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...