18 / 153
ダンジョンアタッカー。
しおりを挟む「……説明ありがとうございました。何も分からないので助かります」
「いえいえ。僕は優子さんとナイト君のファンですから、お役に立てたなら嬉しいですよ。院内でも自慢しまくれますから」
「なんか、私なんかにファンが居るって、ムズムズしますね…………。あ、さっき言ってたゴブリンに銃が効かないってお話しは?」
「ああソレですか。ではもう少しだけ説明を続けましょう」
迷宮事変から一年。人類は様々なことを研究した。
その一つがダンジョン由来の新エネルギー、『魔力』について。
要は、私がダンジョンでずっと蒼炎の『燃料』だと思ってたものが魔力であり、ダンジョン由来のモンスターやアイテムは例外無く魔力が宿っている。
そして、魔力を持つ全ては魔力を持たない全てからの干渉に対して著しい耐性を持つ。
だからダンジョンから出て来たゴブリンには、魔力が伴わない銃弾が効かない。いや、効きづらい。
それこそ耐性を無視出来るほどに威力の高い大型の銃火器や大砲、爆弾なんかを使わなければモンスターが倒せないのは、迷宮事変を乗り越えた人類の常識となっている。
銃より殴った方が良いのは、魔力が無い武器より魔力を持った人間が生身で殴った方が、干渉力の関係でダメージが高いから。
ちなみに誰でもそうなる訳じゃなく、ダンジョンに潜った事がある人間に限定される。ダンジョンに潜った人は例外無く魔力を体に宿すらしい。
覚醒者やレベルアップを経験した人間ほど効果的なんだそうで、ただダンジョンに行けば良いってものでも無いそうだけど。
兎にも角にも、モンスターを倒すには魔力が重要で、魔力が無い人間はモンスターに対して無力に過ぎる。それが今の常識。
「ダンジョンに入った瞬間から人間はレベル1になるので、僅かながら魔力が宿るって言うのが現在の研究結果みたいですね」
「…………だからナーくんが、銃も効かないゴブリンを相手に戦えたんですね」
ナイトが死んだ時の事を思い出す。
銃で撃っても死なないような化け物を相手に、あれだけのゴブリンを殺してから死んだナイト。
「そうですね。…………あと、魔力は感情に影響される性質があるらしいので、ナイト君があれだけのゴブリンを殺してみせたのは、優子さんを絶対に守るって覚悟に起因した結果だと思いますよ」
そう言われて、胸が苦しくなった。
ずるい。そんな、不意打ちは止めて欲しい。泣いてしまう。
「…………ナイト、ナイトっ、きて」
「わう?」
堪らなくなって、お父さんとお母さんに撫でくり回されるナイトを呼ぶ。
つぶらな瞳で私を見て、ベッドの上をもすもすと歩くナイトを抱き締める。
私のせいで死んでしまったナイト。炎で姿を作ってるのに、もう温もりも感じなくなってしまった私の騎士様。
「ありがとう……、ごめんね」
「わん!」
また涙が出て来た私の額を、「もういいの!」と肉球でポスっと叩くナイト。
そうだよね。ナイトは、お礼が欲しくて戦った訳じゃないんだ。謝って欲しい訳じゃないんだ。
ああ本当に、ナイトは騎士様だ。
「…………ナイト、大好きだよ」
「わふっ!」
ナイトの頭が良くなったからなのか、それとも蒼炎で繋がってるからなのか、ナイトの気持ちがよく分かる。
純粋で、無垢で、この世の何よりも綺麗だった。
多分、私がダンジョンで捨てたそれを、ナイトが拾ってくれたんだね。
「……私、ナイトと結婚する」
「わぅっ!?」
「結婚しよ?」
「わんわんわん!」
ナイトに「ダメダメダメ!」って言われた。なんで? ナイトは私のこと嫌いなの?
「…………ナイトになら、娘を任せられるな。……いやしかし、ナイトも息子なわけで、俺はどうすれば………」
「あなた。そもそもナーちゃんは幽霊になってしまったのよ? 結婚出来ないわ?」
「ッ!? そ、そんな……」
「いやあの、浅田ご夫妻様、問題はそこじゃないと思いますが…………」
わちゃわちゃする浅田家をお医者さんが苦笑いして窘める。
「いやでも、相続先として選んで事実婚は出来たはずだ!」
「あ、そこまでガチのお話しになると僕じゃ無理ですね。弁護士さんに相談してください」
「わんわんわんわんわんわん!」
「ほら、ナイト君も困ってますよ? これ多分、ダメダメって言ってますよね?」
多分いまこの場で一番冷静な浅田家のメンバーはナイトである。ナイトってば常識人だ……。いや常識犬?
「さて、あとはどうせですから、ダンジョンアタッカーとここ一年で変わった日本についても話しますか。これでだいたい終わりですね」
「あ、よろしくお願いします」
吠えながらうにゃうにゃと暴れるナイトを抱っこしながら、私はお医者さんの話しを聞く。このお医者さんはとてもいい人だ。殺そうとして本当にごめんなさい。
「説明した通り、今の人類はダンジョンへ積極的な行動が推奨される情勢です。しかも迷宮事変は災害としての規模が大き過ぎて、世界中の軍隊も日本の自衛隊も、手が足りません。同じ色のダンジョンなら影響し合うと言っても、その影響は極微量。銅級ダンジョンは優子さんが完全攻略したおかげで余裕はありますが、それでもそれぞれのダンジョンを直接攻略するのが一番ヒートゲージ減少の効率が良いんです」
可能な限りそれぞれのダンジョンを直接攻略するべき仕様。だけど人類には戦える人材が足りない。
しかし、民間人とはいつの世も呑気なもので、世界がそんな状況で四苦八苦してるにも関わらず、高額で売れるダンジョンドロップや、物語の主人公にでもなれそうなファンタジーを前にした民間人は「ダンジョンを一般公開せよー!」と騒ぎ出す。
だから、各国政府は開き直った。
「そんなに騒ぐなら、勝手に潜って勝手に死ね。世界各国はそう決めたんですね。幸いダンジョンは入口だけが国土にありますが、ダンジョン内部はいわゆる異世界のようなもの。つまり国土じゃないので、国の法は適用されません。ダンジョン入口の管理以外全部の責任を放り出したとして、本来は誰も文句言えないんですよ」
そして産まれた新しい職業、迷宮攻略者。
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる