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喜びと嫌悪。
しおりを挟む私が所属するクラスの教室。その前で緊張して佇む私。
もう既に周りの人に「え、もしかして……」みたいな呟きをされてるけど努めて無視する。
教室の扉に手をかける私は、同じクラスにどれだけ友達が居るか少し不安に思いながらソレをガラガラとスライドさせた。
「皆おはよー。それとおひさー。優子ちゃんだよー」
なるべく固くならないように気を付けてクラスに挨拶した私は、一斉にバッと振り返って私を見るクラスメイト圧にビックリする。なんだよみんな、そんな先日のムジテレビのスタジオみたいな圧なんか出して……。
「……えっと、みんな覚えてるよね? え、私忘れられた?」
ちょっと不安になって、一年ぶりに顔を合わせたみんなに聞いてみる私。
そして…………。
「…………ゆ、優子ちゃんだぁぁぁああッッッ!」
「あさだぁぁぁあ!」
「久しぶりぃぃぃぃぃ!」
一拍の後、何かの呪縛が一斉に解けたように、みんなが一気に爆発して私に飛び付いてきた。
レベルアップで上昇した敏捷と知性のお陰で飛び付いてくるちびっ子ミサイルを上手く捌いて怪我は避けたけど、流石に突然の爆発に驚かないのは無理である。
「えっと、みんな久しぶり」
「優子ちゃんだ優子ちゃんだ優子ちゃんだ優子ちゃんだぁー!」
「なぁなぁあさだ! だいじょうぶなんだよなっ!? けがとか、のこってないんだよなっ!?」
「みんな、しんぱいしてたんだよ! 優子ちゃんおかえりなさいっ!」
み、みんな…………。
予想以上に暖かくて、嬉しい歓迎に私の心はじんわりと熱を持って、鼻がツーンとして泣きそうになる。
「……だ、大丈夫だよ。私は元気だからっ」
「ほんとかっ!? ほんとにだいじょうぶなのかっ!?」
「優子ちゃんが辛かったの、みんな知ってるからね。むりしないでねっ?」
「うん。……ありがとう」
胸が痛くなる。気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
みんなが私を心配してくれた事実が嬉しくて、それと同じくらい、私が一度諦めた日常の価値を再認識して、みんなの優しさと私が抱える罪悪感が入り交じって、胸が苦しい。
「あさだ、おまえスゲェかっこよかったぞ……! どんなモンスターにも向かっていくお前みて、……スゲェ頑張ったんだなって、みんなっ、みんなでさっ……! おうえんっ、してざぁ……」
「湯島くん……」
「よかった、よかったよぉっ……、優子ちゃん帰ってきて、よかったよぉ……!」
「羽ちゃんまで……」
しまいには、何人か私に抱き着きながら泣き出して、それが連鎖して教室のみんなも泣き初めてしまう。
わたし、こんな日常をあの時手放そうとしたんだね。
気が付いたら、私もポロポロと涙を零してて、知らぬ間にしゃくりあげて泣いていた。
「がえっで、ぎだよぉ……」
嬉しくて、悲しくて、辛くて、痛くて、色んな気持ちが混ざって、私の胸が焼かれて苦しい。
みんなが優しくて嬉しい。心配させて、諦めた事実が悲しくて、それでやっぱり…………。
私はもう、この子達の中に心から混ざる事は出来ないんだって確信を得てしまって、呼吸が辛い。心が痛い。
私を「あさだ!」って呼ぶ、真っ先に駆け寄ってきてくれた男の子。湯島 茂くん。一年前の私が好きだった、初恋の相手。
迷宮事変に巻き込まれるまでは、喋るだけでドキドキした相手なのに、もうただの子供にしか見えない男の子。
ああやっぱり、私はもう一年前の浅田優子とは別人になっちゃったんだなって、初恋の人を見て確信しちゃった。
それに湯島くんとほぼ同時に駆け寄ってきて、私に飛び付いて抱き着いた親友の女の子。天月 恋羽ちゃん。
ずっと仲良しだった羽ちゃんを見ても、仲良しの子供だと認識してる自分が居る。その事実が、変わってしまった自分がただただ悲しい。
他のみんなも、一年前までは普通に仲良しな友達だったのに、誰を見ても私の知性が相手を子供だと認識してる。自分とは違うステージに居る存在だと勝手にフォルダ分けしてしまう。
こんなにもみんなは優しいのに、あんなに仲良しだったのに、成績の違いなんて笑って吹き飛ばしてたのに、今では決定的な違いを深く認識してしまう。
辛い。ひたすら辛い。
大人と子供でも友達にはなれるのに、私は子供でみんなも子供なのに、どうしようも無く私の知性が自分を相手と同じところに置いてくれない。
…………大人でもなく、子供でも無くなった、そんな私は誰なんだろうね?
みんな優しくしてくれる。私の席はどこで、今日はどの先生の授業から始まって、給食は何が出て来て、何が楽しみなのか。みんなが精一杯私に教えてくれる。
なのに、変わってしまった私の知性が、席は表を見れば分かるし、授業割を見れば先生も授業も分かるし、給食も献立表があるからと、一つ一つ頭の中で『子供の親切』を潰して行く。
ああ嫌だ。凄く嫌だ。
みんなの優しさを受け取りながら、まるで大人のように一歩引いた心から微笑ましく思ってる自分が、物凄く醜い化け物になった気がする。
「もうすぐせんせー来るからね! もう、ゆしまくん離れてよ! 優子ちゃんはあたしの優子ちゃんなんだから!」
「なんだよあまつき、久しぶりなんだから良いだろ! おまえばっかずるいぞ!」
「あの、湯島くんも羽ちゃんも、喧嘩は止めよ? ね?」
ああ嫌だ。嫌だ。嫌だ。
ここに帰って来れて嬉しいのに、『あと数年もこんな退屈な場所に居るのか』と考えてる自分の知性が、酷く気持ち悪い。脳みそを取り出して床に叩き付けたい。
皆大好きなのに。この気持ちだけは嘘じゃないのに、要らない知性に塗りつぶされそうになる。
良いじゃないか別に。教科書を流し読みしてネットで補完するだけで済んじゃうような教育過程だとしても、私はまだ子供なんだ。まだ八歳なんだ。小学校で過ごす時間は絶対に必要なんだ。
「ほら、もう先生来るでしょ? みんな、席に戻ろ? みんな集まって泣いてたら、先生驚いちゃうよ」
だから、お願いだから…………。
この大事な場所を、つまらないだなんて思わないで…………。
そんな事、思いたくない…………。
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