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アタック日和。
しおりを挟む明けて翌日。
今日は日帰りでダンジョンアタックに向かう訳だけど、ならば朝早くから行くのか?
答えは否。
今日はまず慣れること。それだけを目標にするので、普通にお昼頃行って夕方に帰って来る予定だ。
と言うか、慣れないダンジョンアタックで最初から眠気を伴って行くとか、私からすると正気じゃないと思う。
最初はしっかりと脳が覚醒した時間に行って、疲れ切る前に帰って来る。まずはそれだと思うんだ。
「という訳で、二人とも朝ごはんはしっかり食べて、しゃっきりしてね!」
「ふふふ、張り切ってるのねぇ」
「そりゃぁね? お母さんが銀級に着いてくるとか言い始めたからね? 私も本気でサポートしないとお母さんが死んじゃうもんね? ね? ねぇぇえ?」
「あ、うん。ごめんなさいね? お母さんも、もう少し気合い入れて頑張るから……」
お母さんが無自覚なこと言うから、ねっとりした眼差しで「誰のせいかな?」って伝えてみた。
いやね、私も大事にされてるのは嬉しいよ? でもその手段が『ほぼ自殺』って言うのはダメだと思うんだ。レベルゼロから二ヶ月以内に、…………出来ればヒートゲージの取り返しがつく段階での銀級アタックを求められてるからもっと早く、銀級に行かなきゃ行けない。
普通の人達が一年近く頑張って出来てないことを、二ヶ月以内でやれって言うのはやっぱり自殺だよ。うん。
「だから、二人とも覚悟してね? 割と本気でキャリーするから」
手加減してはダメだ。その結果二人が銀級ダンジョンで死んだら、私はその時点で自害すると思う。
お父さんが生きてるとか、残して行くとか、そう言うんじゃ無いんだ。単純に私が耐えられない。
中途半端なレベリングと教育によってお母さんと真緒が死んだら、その事実だけで私は折れる。無理だ。
て言うか、ナイトが霊的な存在として復活してるからって、私の心的なダメージが無くなった訳じゃないよ。普通に辛いよ。未だにトラウマだよ。夢に見るんだよ。
目を覚ましたら、ぐっちゃぐちゃにされたナイトが目の前に居る。
あんな経験をもう一回したら、心が死ぬ。断言出来る。もう私が耐えられない。
「二人が死なない為に、殺す気で教えるから」
私も二人を怖がらせたくないし、傷付けたくない。でもそんな事言ってたら銀級ダンジョンで死ぬ。
ここで手加減するのは、優しさじゃない。ただ怯えて逃げてるだけだ。
二人が絶対に銀級まで着いてくる以上は、最低でも銅級五層を突破出来る実力まで引き上げないとダメだ。
「じゃぁ、ご飯食べたら装備品の準備しようね。マーちゃんの武器は現場で出すから」
「むぅ……。まお、じぶんで持てるもん……」
背伸びしたいお年頃な真緒がぷんぷんしてるのが可愛い。自分で荷物持てる大人になりたいのかな。可愛い。
武器用のケースへ厳重に収められたトライデントとブロードソード。そのケースを更に持ち運びやすくする為のバッグをお母さんに渡して、運搬は自分でやって貰う。
何回も言うけど、銀級の件が終わった後も個別に潜ったりするかも知れないから、この手の必要な事は自分でやって貰う。
武器類は厳重に鍵までかけられたケースに入れて、簡単には取り出せない状態で持ち運ばないと銃刀法で捕まってしまう。
「非覚醒者もインベントリが自由に使えたら良いのに…………」
「いや、どっちにしろレベルゼロのお母さんはインベントリ使えないでしょ」
そんなやり取りを経て、みんなで車に乗り込み出発。
ちなみにお父さんはとっくに仕事へ行ってる。
「お昼どうする? ダンジョンで食べる?」
「優ちゃんとしてはどっちが良いの?」
「んー? いや、今回はどっちでも良いよ? 今日はダンジョンに慣れる事だけが目的だからね。その辺のお店で食べても、ダンジョンの中で携行食試しても、二人のモチベーションに繋がる方が良いかな」
天気も良くてダンジョンアタック日和だし、今日は何しても良い。
あ、そうだ。ペイッターに呟いとかないと。
「んー、マーちゃんはどっちが良いのかしら?」
「ふぇ? なにがー?」
「あら、聞いてなかったの? お昼はダンジョンで携行食を試すのか、お外で食べるのか、どっちが良いかって優ちゃんが聞いてるわよ?」
車窓の外を眺めてぽけっとしてた可愛い真緒をなでなでしつつ、私はアイズギアでペイッターに呟きを投稿した。
実に九ヶ月ぶりの、『蒼乃フラム生配信』である。せっかくなので再生数稼いでDDを増やそう。
早めに呟くと代々木に人が集まり過ぎるけど、このタイミングなら配信見るから代々木ダンジョンに行くか、人は迷うはず。
どうせDMで強制配信されてしまうのだから、それならDDを少しでも稼げる様にしたい。そしてそのお金を家族に使うのだ。
「…………んー、おねーちゃん? どっちがいいの?」
ペイッターに呟きを投稿したら、真緒に裾を引かれた。
「んぇ? ああ、お昼? 私のオススメは普通に外食かな? だって攻略が忙しくなったら外でゆっくり食べる暇無いもん。アタック予定日のお昼にのんびりご飯なんて、今のうちだよ?」
真緒の質問に対して私がそんな事を言えば、お母さんはスンッと真顔になってハンドルを切り、すこしルートを変えて走る。
「お昼は豪勢に、焼肉でも食べましょう。これからいっぱい動くみたいだし、体力つけなきゃね?」
なら、私は食べ放題を所望します。レベルの関係でいくらでも食べれるから。
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