119 / 153
指。
しおりを挟む蒼炎は、私の焼きたい物だけ燃やしてくれる。だから、部屋いっぱいに炎が満ちたって家族は無事だし、酸素も無くなったりしない。
でも、その代わり、焼き殺したかった中ジョッキは消し炭になってしまった。素材勿体無いなぁ。
DMで図鑑を見れば特に変化もなく、この中ジョッキは大きいだけで種族的には普通種と変わらないらしい。確実に殺したかを確認する時、インベントリを覗くと楽だ。当たり外れはある物の、基本的に100%ドロップだから。
「………………おっ? コレは、さっそく?」
そして、幸運にも欲しかったものが手に入った事を知る。
「何かドロップしたのかしら? それより、階段も出てるわよ」
「お、ホントだ」
インベントリを確認した私は、お母さんの指さす場所を見て銀級一層を攻略したと理解した。
中ジョッキが消し飛んだ場所の地面に、見慣れた四角い枠が見えてる。下層への階段だ。
「おねーちゃん、何が出たの?」
「ん? ああ、ドロップ? 銀級で出ると思ってた上級ポーションだよ。名前はハイポーションだってさ」
アイズギアで視界に浮かべるインベントリには、ハイポーションと書かれたアイテムがある。
効果の記載はポーションとほぼ変わらず、ただポーションの上位互換とだけあった。
「お母さんには無いわね」
「ニクスも~」
「ふむ、ナイトは?」
「わふぅ」
「無いのか。じゃぁ単純にドロップ率は現状、25%以下だね。試行重ねるともっと落ちるのか、この確率が最大なのか」
それもこの先分かるだろうと思いつつ、私はインベントリからさっそくハイポーションを取り出す。すると、綺麗な青い液体を封じた試験管の様な瓶が蒼炎の中から現れ、その見事な意匠にしばし見惚れた。
ノーマルポーションの場合はなんの遊びも無い普通の試験管とコルク栓だが、ハイポーションの入れ物は透明な試験管を蔦のような金の細工で包み込むようなデザインで、高級感がとても高い。
蓋もコルクじゃなくて金細工で、試験管から引き抜くと「きゅぽんっ」と良い音がなる。
飲んでみると特に味が無く、すぐに右手がムズムズしてきて効果が出てきた。
義指用の手袋を外し、急いで義指もベルトを外して脱装する。
「………………おぉ、生えた。地味に痒いし結構痛い」
一分、二分とゆっくり待っていると、バッサリ無くなってる親指の付け根からジュワジュワと肉と骨が生えていき、最後には立派な親指が生えていた。なかなか気持ち悪い絵面だったが、ちょっとスプラッターなだけで欠損が治るのは変え難い救いだろう。
なんなら道中殺して来たモンスターの方がスプラッター仕立てにして来たんだ。今更だよね。
「これ、方々から納品依頼とか来そうだよね。山ほど」
「まぁ、そうね。体の一部を失った人から見れば、夢のようなアイテムだもの。……それより、回復おめでとうフラムちゃん」
「おねーちゃん治ってよかったの~!」
治った親指を握って開いて具合を確かめてると、お母さんとニクスがギュッてしてくれたし、ナイトも静かに近寄って来て治ったばかりの親指をぺろぺろしてくれた。くすぐったい。
「みんなありがと」
これで、地味に右手で武器が持ち難かった問題も解決した。より一層戦えるようになる。
やっぱり、自分の指だとグリップ力が違う。予備ドラを思いっ切り握れるのは確かな安心感がある。
「本当は無くしたゴスドラ探しに行きたいんだけど、二日も経ってるしね。最悪もうダンジョンに食われてるかも知れないし、諦めようか」
「言い方は悪いけど、費用はお国が持ってくれたものね」
「素材は私の持ち出しだから全額政府持ちって訳でも無いけどさ」
「……………おねーちゃん、ニクスのアマドラつかう?」
「ニクスも予備が必要になるかも知れないし、ちゃんと自分でも持って起きなさい」
全員、一本ずつ予備を持ってる。なんなら私は前バージョンのゴスドラも有るので、当面武器の心配は要らない。
とは言え、補給を考えなくて良いって事も無いだろう。私は何も無い宙を見上げて、今も行われてるだろう配信に対して言葉を口にする。
「多分、武器の実戦データ取りで工房の誰かしら見てると思いますけど、見てたら追加の予備武器を水元ダンジョンまで届けて貰えますか? 武器が無くなったら補給に戻るので」
DM配信にはコメント機能もあるんだけど、私のアカウントは登録者がえげつない数居るし、多分同時接続数も凄いことになっててコメントなんかマトモに拾えないだろう。そう思って最初からコメント表示を切ってるので、工房の誰かしらが返事をくれてても分からない。
「さて、こうやって準備もお願いしたし、少し休んだら次に行こうか」
結構魔力を大盤振る舞いしたので、少し休んでから二層へ向かう。
三人ともそれぞれインベントリからポーションを出してクピクピ飲み、携行食も出して補給する。
私達の体はカロリーを常人の何倍も溜め込める。けど相応の動きをすれば相応の消費が有る。
当然、減ってるのに補給しなかったら枯渇する。だから私達はかなり小まめに補給が必要になってくる。特に魔力の生産にもカロリーを食うらしく、ポーションで補うにしても補給は必須だ。
カロリーメイクとスティッカーズを箱単位で出して、全員でもりもり食べる。
高カロリーな補給食はとても大事だ。
「補給が美味しくて良かった…………」
「これで並以下の味だったら、たくさん食べないといけない私達には地獄よね」
「ニクスね、カロリーメイクすきなの~」
多分、今このシーンだけでカロリーメイクのメーカーさん株価上がったと思うよ。
寝る前と朝起きた時にはもっとガッツリ食べるけど、それ用のレトルト食品などもかなり高カロリーな物で揃えてある。アタッカーはカロリーとズッ友なんだ。
ポーションをお茶替わりに携行食のカートンを貪り尽くしたら、今度こそ二層へ向かう。
「準備は良い?」
出たゴミを蒼炎で焼き払って、装備を確かめる。防具は多少汚れてるけど問題無し。予備ドラも蒼炎で随時表面を焼いてるから血脂などの心配も要らない。
お母さんもニクスも大丈夫そうだ。バトルドレスの頑丈さが伺える。ナイトもお気に入りのグレートソードをブンブンして準備完了をアピールして来る。
「よーし、それじゃぁ行こうか。二層へ……!」
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる