126 / 153
町の様子。
しおりを挟む「ここは、所謂NPCタウンなのね」
「NPCは超高度なAIで自我を持ってるスーパーNPCだけどね。ほぼ命って言って問題ない様な感じの」
とりあえず、獣人さんが敵になる様な事は無かった。少なくとも、マトモに過ごしてればマトモに対応して貰えるのは確実だ。逆に誰か獣人を殺したりとかするとどうなるかはまだ分からないが、そんな事はやるつもりも無いのでどうでも良い。気になるなら視聴者の誰かが此処まで来て自分の責任で殺してみれば良い。
さて、私達はこの町に一日滞在して情報を得てみた。
その結果、私達は此処サナの町を『NPCタウン』だと判断するに至った。
別に、誰かに話し掛けたら延々と「ようこそ始まりの町へ!」とか言われた訳じゃない。この町に居る獣人さん達は全員マトモに会話出来る。思考能力も普通で、喜怒哀楽がちゃんとあって、記憶も個性もちゃんとある。
けど、だからこそオカシイのだ。
記憶があって個性があって、マトモな思考が可能でこの規模の町を作れる知的生命体が、階層の外を少しも知ら無いのはオカシイ。絶対にオカシイ。
誰かしらは町の外に行き、この五層を調べあげ、そして上か下かは分からないが階層を超えてみる個体が居るべきだ。そして情報を誰かに伝えるのが普通だろう。
けど、サナの町に居る獣人さん達は一様に「……え? 森の外? 上? 下? 君は何を言ってるんだい?」的な反応だった。
まるで、最初からそんな事一切考え無い様に作られたみたいに。
だから私達は、この町を『推定神的な存在が、ダンジョンの攻略に必要な要素としてダンジョン内に生成したNPCタウン』だと判断した。
本当に、マトモな思考出来て会話も問題ない相手なだけに、五層の外に話しが向いた瞬間に意味不明なくらい会話が噛み合わなくなるのが不気味過ぎる。
「まぁ、でも、安全に休めるのは有難いし、アイテムの補充が出来るのも正直めっちゃ助かるよね」
「そうね。これ、気を付けないと地上の相場も崩壊するわよ?」
NPCタウンなら、それはそうと割り切れば不気味さも気にならない。…………と、思う。
まぁ良い。この町が便利な事には代わり無いんだし。
「まさかDDが使えるとはね」
「思えば、ダンジョンドルだものね。多分、最初からこれがメインの利用法なのよ」
そう。サナの町で何かしらの売買を行う時に必要な金銭が、DDだったのだ。
つまりダンジョンでの共通通貨がDDであり、ご飯を食べたかったらDDを支払い、宿を取りたかったらDDを使い、物を売ったらDDを貰う。
DDはDMで扱われる仮想通貨なので手元には無いが、なんか本人がICカードの代わりにでもなってるのか、支払いは全く問題無かった。「払う」と言えば勝手に手持ちのDDから引かれるシステムだ。
幸いにして、私達はDMでも有数の売れっ子配信者なのでDDは山ほど持ってる。この銀級配信も相当な再生回数なのか、三人とも現在進行形でDDが増えて行ってる。多分ナイトも同じ。
なら、もし私達みたいに配信でDDを稼いでない、ごくごく普通のアタッカーはサナの町を利用出来ないのかって言うと、そんなことも無い。
サナの町には「冒険者ギルド」なる建物が存在して、そこでドロップ品とか解体品とか買い取ってくれるのだ。DDで。
DDは現金に換金出来るので、これはつまり事実上『ダンジョンが素材の相場を決定した』って事だね。
例えば、レオの毛皮を地上で売る場合、日本円で500万だとする。そしてサナの町で売る場合は5000DDで買ってもらえる。
1DDは1200円なので、5000DDは600万円相当だね。こうなると、地上で売るよりサナの町で売った方が良い。
一回DDを経由すれば他の国のお金にも替えやすいし、サナの町でアイテムも買えるし、何より地上で売るより高額だ。売らない理由が無い。
「銀級の攻略が安定化するようになったら、地上ではダンジョン素材の相場が--」
「…………んもぅ! おねーちゃんもおかーさんも、最近ずっと難しいこと言ってるぅ! ニクスさみしい!」
「ああごめんねクーちゃん、今日はお休みだもんね」
ダンジョン素材とDDの兼ね合いをお母さんと話し合ってたら、ニクスが拗ねてしまった。頭は良いはずなんだけど、ニクスはあえて子供らしく居ようとしてるのだろうか。言葉はしゃっきりしたけど、言動は幼いままだ。可愛くて良いのだけど。
ちなみに、現在私達はサナの町で宿を取って、今日はお休みって事にしてる。ここは宿のお部屋の中だ。
ダブルサイズのお部屋で三人と一頭でギュウギュウになりながら眠ったよ。幸せだった。
ダンジョンの中でしっかり休息出来る時間は貴重だし、休める時に思いっきり休んだ方が後々のパフォーマンスも上がる。
休んでる間のヒートゲージ上昇が怖いけど、だからこそ今日はお休みなのだ。しっかり休んで、また明日からヒートゲージを下げるためにモンスターを殺戮する。
「ねぇおねーちゃん、ニクスと一緒におでかけしよっ?」
「あ、えーと……」
「大丈夫よフラムちゃん、行ってらっしゃい。買い出しはお母さんがやっておくから」
ずっと気を張ってたからか、一ヶ月も『仕事』をしてたからか、今日のニクスは甘えん坊でお子ちゃまモードが全開らしい。
私はサナの町で買えるアイテム類を見て回りたかったんだけど、頑張ってくれたニクスのオネダリを無視して良い訳も無い。
そう悩んでいると、お母さんが助け舟をくれた。
「そも、本当ならお母さんやお父さんが頑張らないといけないのよ。だから、おやすみの日くらいは子供に戻っていいのよ、フラムちゃん。雑務くらいはお母さんでも出来るもの」
そう言って私の頭を撫でてくれるお母さん。待って欲しい。だから不意打ちはダメだって。泣いちゃうじゃん。
「買う物はこの紙に書いとくね」
「お願いね。それと、サナの町特有のアイテムとか、私達がまだ知らない物については後で相談するわ」
一層で大量に消費したパラライズボールとグレイパー。さらにノーマルポーションもHP用とMP用どっちも買い溜めしたい。
「おねーちゃんはやくぅ~!」
「わかった、分かったから引っ張らないでクーちゃん。お姉ちゃん困っちゃうよ」
お母さんにメモを渡したら、我慢出来なくなったニクスに引かれて宿から飛び出る。ニクスはずっと気になってた屋台を巡りたいそうだ。
「お、お母さんいってきまーす!」
「まーす!」
「はーい、行ってらっしゃい。お夕飯までには帰るんですよ~?」
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる