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魔法の手順。
しおりを挟むふむ、ふむふむ…………。
陽は暮れないけど地上では夜である今、私は宿のベッドに座って賢しげに唸ってる。
本日、可愛い妹とのデートで購入した『魔法入門』なる書物を読む。訳の分からない異界言語で綴られたそれは何故か問題無く読めるファンタジー謎仕様なんだけど、まぁそれは気にしなくて良い。ダンジョンが意味不明なのは今更だし。
「陣をなぞる…………」
本に書かれた内容を熟読していくと、なぜ私達が魔法を習得出来なかったかが分かってきた。
「そうか、順番か…………。一筆書きなんだね?」
私達がカーバンクルから魔法をパクろうと思ってやった事は、まずカーバンクルが使う魔法陣の撮影だ。単純に、魔法陣を真似すれば魔法が使えると思ったから。
だけど、私達がいくら撮影した魔法陣を真似しても魔法は発動しなかった。
蒼炎を操作して魔法陣を綺麗に描いてみたり、地面に魔法陣を掘ってそこに血を流し込んだり、蒼炎を流したり、魔石を砕いて粉末にして魔法陣に敷き詰めたり、色々とやった。
その結果、全部失敗。何一つとて成功しなかったから、私達に何かしらの決定的なピースが足りてないんだと判断して、魔法の練習は一旦止めたんだよね。
だけど、
「とにかく陣の形をしてれば良かったんじゃ無いのか。陣を描く線が走る順番まで気を付けないとダメなのか」
確かに、カーバンクルが使う魔法陣って一瞬で線が走ってたね。アレか。
魔法陣は一筆書きで、決まった手順で陣を書いた時に発動するらしい。どうりで『とりあえず陣が精密なら良いや』と練習してた私達が成功しない訳だよ。
要は、私達は魔法陣をスタンプで考えてたんだ。スタンプをポンって押せば発動すると思ってた。だから失敗してた。
「ふむふむ…………」
魔法入門にはカーバンクルが使った初歩的な魔法三種類もちゃんと乗ってて、私はとにかくそれを練習して見た。
異界言語で書かれたそれは、弾、盾、爪って名前らしい。分かりやすくて助かる。
「…………え、ムズくない? 魔力と技量Sの私で難しいって事は、他の人には実質無理じゃない?」
やって見た結果、一応魔法は発動した。試したのはシールドの魔法で、ちゃんと魔法陣が物理的な抵抗を持った板になる。
けど、カーバンクルがやってたみたいに一瞬で書き上げるのはまだ無理だ。入門用の初級魔法ですら魔法陣が精密過ぎて即時発動とか無理過ぎる。
時間をかけて練習すれば出来るとは思うけど、逆に言うと魔力と技量Sの私が長時間練習してやっと出来る難易度って事だ。つまり無理ゲーでは?
「……フラムちゃん。つまりその速度が、ゲームなんかで言う『詠唱速度』って事じゃないのかしら?」
「なるほど!」
そうか、ゆっくりで良いのか。それを後衛が守る感じ?
「…………でも、じゃぁカーバンクルは? モンスターだからって理由で魔法を一瞬? ………………なんか違和感あるなぁ」
ダンジョンのシステムを見ると、これを作った者は『平等』と『公平』が好きだと思える。
努力したらその分だけ強くなれるステータスは平等で公平だし、スキルシステムも『誰にでも出来る』のと『暴走した感情に応じた能力』が手に入ると思えば、これも平等で公平だ。
誰かが不当に、なんの努力も無しに強くなるような事は一切無い。
極論、感情まで含めて私の真似を完璧に行えたなら、私と同じスキルに同じステータスが手に入るのだ。私の蒼炎がズルいと言うなら同じ気持ちを抱けば良い。同じ強さで同じ事を思えば良い。そうしてダンジョンに三ヶ月潜れば良い。そうすればその人も蒼炎に目覚めるから。
誰でも出来る。頑張りさえすれば。そう、ダンジョンはこれを徹底してる様に見える。
なのに、カーバンクルはカーバンクルだからってだけで詠唱を無視出来るなんて、それは余りにも不平等だと思う。ダンジョンらしくない。
「つまり、何かカラクリがあるのでは?」
「どんな~?」
「ふふ、それを今から考えるんだよニクスちゃ~ん」
取り敢えず、お母さんとニクスも魔法入門を読んでその手順通りに魔法陣を作る。すると二人とも、ちゃんと魔法の発動に成功した。
手の平から、スキルを扱うような感覚で魔力だけを出し、その魔力で魔法入門に書かれた手順通りに魔法陣を描く。
そうやって完成した魔法陣は、ハッキリと目に見えるほどの光を伴って幾何学模様を空間に刻む。こうなれば多分誰の目にも見えるのだろう。魔法陣を描いてる途中だと目には見えない不可視のエネルギーっぽいんだよね。
私達はスキルに目覚めた影響なのか、ある程度は魔力って言うエネルギーを視覚に捉えて感じる事が出来る。そのお陰で魔法陣を描くこと自体は問題無かった。
これは覚醒者みんなそうなのだろうか? それとも非覚醒者でも? それは最初から? 訓練したら行ける? 分からない。また調べたい事が増えたな。
それで、初級らしいシールドの魔法ですら、私たちはまだ発動に一分もかかる。これじゃ実戦で使ってられないぞ。
「盾なんて、咄嗟に使えなかったら意味無いしね」
「一分も準備に使えるなら、普通に避けるか防ぐかするものね」
うわ攻撃が来た、シールド~……! って一分も使って魔法発動してたら攻撃食らって死んでしまう。やっぱり、カーバンクル式の魔法発動を調べるべきか。
「ねぇおねーちゃん、おかーさん。獣人さんに使い方聞いちゃダメなの?」
「…………それや」
「それもそうね。多分この町って、その為にあるんだと思うし」
賢いニクスちゃんの言う通りに、早速部屋を出て女将さんに聞きに行く。
この宿は二階が宿で、一階が酒場になってる。酒場に行けば女将も居るし誰かしら魔法に詳しい人も居るだろう。
「階層超えの準備して、ヒント探して、モンスターも探して倒してヒートゲージ下げて、そんで魔法のお勉強までしなくちゃいけない。…………忙しい階層だなぁ此処は」
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