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武芸百般。
しおりを挟む武芸百般。
武芸とは、武士が修めるべき戦いの術を指し、百般とは百種類と言う意味では無くて、「ありとあらゆる」物と言う意味である。
…………………………らしい。ごめん屋台のおじさんの受け売りなんだ。いくら知性が上がってても、流石に見た事も聞いた事も無い言葉は知らないに決まってる。
私がネットスラングとかネットミームを知ってるのは、単純にアイズギアを使いまくってるだけだ。
私だけが見える視覚にネット画面を置いておけるので、片手間でずっと何か検索出来る。だから私は、凄い勢いでネットに汚されてる……。
…………大丈夫かな。今更キッズフィルターとか入れられたらちょっと困るぞ。
「…………ここか!」
まぁ、私のネット環境の行く末なんて今どうでも良い。
私は屋台のおじさんから聞いた通りに道を歩き、言われた通りの場所に辿り着いた。
町並みを見てると二階建て以上が基本のように思うのだけど、そんなサナの町に於いて一階建ての平家造りが特徴的なその場所は、デカデカと正面口の上に『武芸百般!!!!!!!』と書かれてた。
うん、実に分かりやすいね。
こう、リアルに『!』を連打されると元気の良い子供を想起してニコニコしちゃう。私も子供だと言うのに。
その『!』がたっぷり詰まった看板も、拳、足、剣、槍、斧、棍、弓、鞭、盾…………、本当にありとあらゆる武器がごちゃごちゃと看板の周りに張り付いてて、それを含めて『武芸百般!!!!!!!』って感じがする。
「ノックしてもしもーし! たのもー!」
平家造りの日本家屋を海外の建築家がアレンジして作ったらこんな家、って感じの大きな武芸百般道場の正面口を叩き、たくさん叩いて充分にアピったなと思ったら勝手に引き戸を開けて中に入った。
建物の中はフローリングのような板張りの床で、畳じゃない道場だった。まぁ海外のダンジョンも似たような作りにするんだろうし、ここだけ畳とか使ったら変だよね。
そこには八人程の人がお互いに武器をぶつけ合ったり殴り合ったりして武を高めていた。もちろん全員がサナ族さんである。
「……むっ、客人か。しばし待たれよ」
「あ、はい」
八人の内の一人。たぶんその人が師範的な人なんだろう。真っ黒い毛並みのサナ族さんに待ってろと言われた。あの人が武芸百般さんかな?
しばらく入口で待つ。開けっ放しは良くないと思って扉は閉めたけど。
板張りで、かつ土足で入って良いらしい道場の入口で待つこと五分ほど。結構待たされたなって思ってたら、真っ黒な推定武芸百般さんがコッチに来てくれた。他の人は部屋の端に行って休憩らしい。
「お待たせした。して、何用かね?」
「あ、えっと……」
とりあえず、串焼きのおじさんに道場の話しを聞いて、どんな武器でも扱えると言うなら、大戦斧の扱い方を教えて貰えないかと思って尋ねた事をそのまま伝える。
「ふむ、入門志望と受け取っても?」
「んー、どうなんでしょう? 出来ればこの道場の看板を背負う一員になるとかじゃなくて、金銭で技術の享受で済めば良いんですけど」
「ふむふむ。つまり、君は旅人かね? 此処に骨を残すつもりが無いから、『入門』では無く『入学』で済ませたいと」
「あ、まさにそんな感じです」
「良いだろう。ならば、十日で5000DDほど頂こうか」
高い。ハッキリと高い月謝……、いや日謝? 週+三日謝? 分からん。けど高いのは分かる。
DDのレートが1200円なので、5000DDは600万円だ。十日の教えを受けたら600万円が飛んで行く道場とか、外の世界なら「ぼったくり乙ww」と言われるだろう。
けど、此処はダンジョンの奥地であり、彼はダンジョンにしか居ないサナ族である。果たして、彼が教えてくれる武術を地上のそれと比べて評価して良い物なのか?
答えは否だと思う。
「大丈夫です。お支払いします」
「そうか。では、いつからにしようか?」
「可能なら今日からで! 二日来たら四日休むって日程になると思いますけど!」
「ふむふむ。了解した」
黒いモフモフお兄さんはやはり師範らしく、とりあえず彼に促されて奥へ移動する。
七人の門下生に紹介してくれるのかなって思ったけど、その前にまず契約の内容を詰めるらしい。師範は門下生に自主練を言い渡した後、私を連れて更に奥の応接間まで進んだ。
「お茶をどうぞ~」
「あ、ありがとうございます」
応接間で促されるままに座ると、真っ白いモフモフお姉さんにお茶を出された。誰? 事務の人?
「妻だ」
「あ、奥様でしたか!」
私はペコペコと頭を下げながらお茶をすすった。…………うわ、うまっ。
香りが良く味もキリッとして美味しいお茶を楽しみつつ、師範と契約の内容を決めて行く。
四日は四層でスローター役があるから、やはり二日来て四日休みって予定は変わらない。五層調査もぶっちゃけもう「無いとは思うけど別ルートで六層行ける可能性を探しつつ観光する実質休日」なので、半日くらい訓練で潰しても大丈夫だろう。
「ふむ、ではこの条件で良いかね?」
「はい、お願いします」
そうして、私は一時的に武芸百般師範の教え子となった。
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