137 / 153
守護足る者。
しおりを挟む掠れる意識で、私は満足感を得ていた。
ああ、師範強い。だから、きっと私も強くなれるんだろう。
◇
今日、入門して来た幼子を見る。
形稽古の筋は良く、文句も言わずひたむき。強さを求めて貪欲な姿勢は、門下の若者達にも見習わせたい程だった。
一度、稽古の内容をより本人へ合った物へと変えるべく、実力を知るために打ち合った今、何度打たれても、どれだけ地を転がろうとも立ち上がる精神性。
これこそ真の武士であると手を叩きたい心地だ。いや、とても気分が良い。
今の自分は、幼子を打ちのめして『気分が良い』酷い奴に見えるのだろうが、そこでは無い。
こんなにも小さき身で、しかし大人にも勝る闘争心を宿せるのだと知って高揚しているのだ。
「本当に、門下の者に見習わせたいものだ。…………さて、では、床に寝かせておくのも可哀想だ」
本当に、本当の本当に最後の一滴まで気力を振り絞って戦った小さき者。名をフラムと言ったか、この戦士を床に寝かせておくのは不義理であると思った自分は、とりあえず妻の寝台でも借りて寝かせてやろうと思って手を伸ばす。
5000DDを払ってでも技を学びたいと願った小さき者。
何度打ち添えても立ち上がって来た小さき者。
その目は遠く大事な者を見て、しかし視線は敵から離さない。ああ、理想的な武士だ。本当に、もしフラムがサナの民であったなら、息子の嫁に是非欲しかった。
若干、今も望んでる。なんなら「子を成せるなら種族が違っても良いか?」などと考えてる。
「ふむ。息子の未来の嫁になるかも知れんしな、丁重におもてなし--……」
突然、伸ばした手が燃える。
「--むッ!?」
倒れ伏したフラムに伸ばした手を引く。
蒼く燃え盛るそれは、フラムの物だ。
「まさか、気を失ってもまだ…………!?」
驚くが、しかし違った。
ぼ、ぼぼっ、ぼぼっぼぼっぼ……! そうやって不規則に吹き出す蒼き炎が獣を象り、一瞬で自分の前に現界する。
その蒼き炎の獣は、フラムを守るように現れ、そして自分を睨む。その視線だけで自分を殺そうとするように、溢れ出る気持ちをそのままに叩き付けて来る。
--ぼくのゆうこにさわるなっっ……! みくだすなッ……!
強烈な思念と殺意が叩き付けられ、私は戦慄する。その感情の中身がどんな物かを詳細に知ることは叶わないが、それでも親の仇を怨むような感情を向けられてる事は理解した。
やがて獣はフラムの体へと重なるように移動し、溶けていき、最後は消えて居なくなった……。
否、否だ。居なくなってなど居なかった。
フラムへ重なった獣は、フラムの中へと入り、フラムを動かして立ち上がったのだ。
蒼く燃える獣の耳が生え、蒼く燃える獣の尾が生え、手足は轟々と燃え盛って、それこそ獣の毛並みが如き様相へと変わった。
「………………なるほど。おぬしは、フラムを守護する者なのだな。なれば、一手仕合うかね」
そう口にした瞬間、蒼く燃える獣と化したフラムは自分へと襲いかかった。
その動きは先程よりも乱雑に過ぎ、しかし洗練された野生を感じ、どちらが良かったかを比べる物でも無かった。
ただ、単純に獣が守るフラムは強い。
「ぬぅう! やりおるッ……!」
フラムには斧で相手をして、その使い方を指導しながら打ち添えた。しかし、無手である獣フラムへは同じく無手で応じる。そして獣フラムはその獣性を遺憾無く発揮した様は、自分をして本気を出さざるを得ない。
拳を交えれば分かる。
この獣は、フラムが大事なのだ。稽古の事も理解して、しかし我慢出来なかったのだ。
愛する者が地に伏せる。その姿を目にする事が我慢ならないのだろう。
「ふむ! むふむふ! 良いぞ、その癇癪に付き合おうぞ!」
ああ、しかし、強者と戦うのは心が踊るな!
フラムと言う有望な若者に教えを残せて、こんなにも強き獣と拳を交わせる。ああ、今日はなんと良き日なのか!
今晩は妻とゆっくり晩酌でもして、大いに語り合いたいところだ。
「さぁ往くぞ蒼き炎の獣よ! フラムが目覚めたらきっとおぬしを紹介して貰おうか!」
この日、自分は久方振りに本気を出した。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる