138 / 153
娘も生えた。
しおりを挟むふと、目が覚める。そして此処は何処だと周囲を見る。
どうやら私はベッドに寝かされてるらしく、記憶と現状の統合をはかった結果、此処は武芸百般道場の中だと思った。
うーむ、清々しい程にボコられたな。
私もちょっとくらい強いと思ってたんだけど、まるで歯が立たなかった。
いや、それこそ道場丸ごと消し飛ばす様な蒼炎大噴火とかやれば勝てるかも知れないけど、武術を学びに来てそれって実質敗北みたいな物だし。
「…………はぁ、でも、良かった。大戦斧って使いこなすとあんなに強いんだね」
武芸百般の名の通り、師範はあらゆる武器が使えるらしい。そして大戦斧もお手の物で、私はその洗練された技術を前にしてボッコボコにされた。
流石にエッゼやゴスドラを持ち出すことは無く、硬い木造の模擬武器だったけど、斧のクビを上手く使った技とかで武器を奪われたりした。あんな使い方も有るのかと、凄く参考になった。
師範にも、「大きな武器は打ち下ろすか横薙ぎにするしか無い。そして二種しか攻撃が無いと分かってるなら、何も怖くない。だからこそ、大きな武器にこそ緻密な術理が必要なのだ」と言われた。マジでそうだと思った。
うん、上から振るか、横から振るかしか出来ない武器なんて、簡単に防げる。これはモンスターが相手でも、知性が高いモンスターにこれを逆手に取られた場合、私の命が危うくなる程の欠点だろう。
それに、師範が教えてくれるのは蒼炎や魔法を組み込んだ武術であり、やっぱり地上じゃ教えてくれない物だった。
地上に無かった物を今から武の一つとして洗練していくより、ダンジョンで既に洗練された物を学ぶ方が早いし効率が良い。当たり前のことだ。
現在、ダンジョンでしか学べない武術。それがたった5000DDで学べるのだから、その価値は絶対にあっただろう。
私の判断は、間違ってない。
「……おお、目が覚めたかね」
「あ、師範…………」
私が思考を回しながらボケっと天井のシミを数えてると、お部屋に師範が入っ来てた。今日はもうオフなんだろうか、私服っぽい着流しみたいなのを着ててとても似合ってる。
しかし、何故か師範はあちこち怪我をしてるようで、包帯とかを巻いていた。なんだ、私が寝た後に襲撃でもあったのか? 師範に怪我させられる襲撃者とかどれだけヤバいんだ。
ちなみに私との稽古でついた傷じゃない。私は師範に一撃たりとも傷を付けられてない。不甲斐なし…………!
「えと、ご迷惑をお掛けしまして……」
「いやいや、気にしなくて良いとも。門下で無いとは言え、しかしお主は教え子となった。気を失ってたら寝床を貸すくらいのことはする」
私が気を失ってから何時間寝てたのかはアイズギアを見ればすぐ分かるけど、気を失った後のことは何も分からない。師範が怪我してる事とか。
介抱のお礼がてらその辺の事を師範へ聞くと、師範はコロコロ笑いながらビックリする事を言った。
「フラム。お主が気を失ったあとは蒼く燃える獣殿が相手をしてくれてな。とても有意義な時間だったとも」
ナイトきゅんッ!?
私はすぐナイトを呼び出した。ベッドの上でお座りさせる。うん、この構図は病院で私が目覚めた日以来か…………。なんかちょっと懐かしい。
「ナイト……? なんで?」
「…………くぅん」
「ああいや、別に構わないのだぞ。むしろ楽しい一時であったから、怒らないでやってくれないか」
私も、なんでと聞きつつも理由は分かってる。私が無様に倒れて気を失ったから、私を守ろうとして出て来たんだろう。
そんな、私を大事にしてくれるナイトが大好きで愛おしくて抱きしめてもきゅもきゅしたい気持ちでいっぱいだけど、でも今のナイトなら「訓練」だったってちゃんと分かるはずなのだ。
いくら師範が大丈夫といったとて、これはちゃんと叱るべきだと思った私は、しかし次に師範が口にした言葉で思考が止まってお説教どころじゃなくなった。
「獣殿の名はナイトと申すのか? ナイト殿がフラムに憑依してサナの民が如き姿になったあとは格別に楽しかったのだ。出来ればまた頼みたいくらいだとも」
…………………………なんて?
「えっ、…………え!? あの、え? わた、私って、獣人みたいになってたんですか!?」
「ん? なんだ、あれはフラムも知らない事なのか? ナイト殿が当たり前にやるから、普通の事なのかと……」
つまり、なに? ナイトが私に憑依して、ケモ耳生えたってこと?
「……………………ナイト、今それ出来る?」
「くぅ? ゎんっ」
お願いすると、ヒュボッと音がしてナイトは消える。その後、何だか私の頭とお尻、手と足と、あとほっぺたがムズムズしてきた。
次の瞬間、
「…………お、おぉおぉ、おおおおおおおっ!?」
私に犬耳が! 犬耳が生えたよ! 青く燃える犬耳が!
尻尾も! 手足のもふもふと爪! あとほっぺたにももふもふ! なんだこれ、まって、今私どうなってるの!?
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる