僕が守りたかったけれど

景空

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 目の前にいるのは今世の勇者様。その傍らには僕が愛し、愛されていたと思っていた幼馴染の彼女。勇者様はキンキラキンの勇者シリーズで完全武装。僕は普段着なのにさ。そして、僕たちがいるのはコロシアム。公式に認められた決闘場だ。私的なもめごとはここでの決闘で決着をつけて遺恨を残さないのがこの世界のルールだ。このコロシアムには特殊な結界が張られていて、どんなケガをしても例え死んでも決闘が終われば元どおりの身体に戻る。なんでも神様がもたらされた奇跡のひとつなのだそうだ。そんなところで何故僕のような一般人と勇者様が対峙しているのか。それは10日前にさかのぼる。
 僕と幼馴染はいつものように森の浅いところで一緒に狩りをしていた。そこに現れたのは普通ならそんなところにいるはずのない巨大な熊型の魔獣だった。幼馴染を守るため僕は普段の狩りでは使わないブロードソードを手にとり立ち向かっていた。体格的にそれ以上大きな剣は振り回せない。周りに助けに入ってくれるような仲間もいないので僕がこの魔獣を倒さないといけない。幼馴染を後ろに庇い僕は魔獣の前に立ちふさがった。
「ちぇっ、こんなとこにグレートベアが出るなんて運が悪いな」
「ねぇ逃げようよ。無理だってこんなの」
「あいつの方が足が速いからね。逃げるのは無理だよ。それに村にまで追われたらみんなが危ない。もし僕が負けたら僕をあいつが食べている間に逃げられるから大丈夫だよ」
負けるつもりはないけどね。
「素晴らしい。君のような気概をもった若者をあたら死なせるわけにはいかない。助力する」
そこに現れたのが勇者様だった。勇者様はグレートベアを一刀の間に打倒してみせた。それからだった僕たち二人の関係がおかしくなったのは。

 いつの間にか幼馴染の彼女は勇者様と過ごすようになっていて。その結果、僕はコロシアムで勇者様と向かい合っている。
 僕は勇者様に気を放った。勇者様以外には勇者様の隣に居る幼馴染にも僕が何をしたのかわからなかっただろう。そして勇者様は八つ裂きになった自らを幻視したはずだ。呆然とする勇者様に
「これでコロシアムで立ち会ったという形はできました。本当に決闘をする必要はないでしょう。結果もわかりきっていますし」
「なにを」
「彼女の心が僕から勇者様に移ってしまっている。悲しいけれど僕は力で引き留めるつもりは元々ありません。彼女を幸せにしてやってください」
幼馴染はそこで僕に声を掛けてきた。
「あなたは優しかった。でも勇者様はあたしに夢をくれたの。あなたの事は嫌いじゃない、でもあたしは……」
「良いよ。僕の事は忘れてくれて構わない。勇者様と添い遂げてせめて幸せになっておくれ」
最後に最大限の威圧を込めて勇者様以外には聞こえない声で囁いた
「返すとか捨てるとかしたら後悔していただきますからね」
二人を残して僕は村に帰った。
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