僕が守りたかったけれど

景空

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25話

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 そう、それは今までの魔獣が襲ってきたのとは明らかに違った。魔獣の群れが襲ってくるのではない。森から魔獣が溢れてくる。僕は心の中に芽生えたわずかな怯えをねじ伏せ漆黒の長弓を構える。射程がどうとかはもう考えない、矢は撃ちきれないほどに準備した。届くのなら射る。現状で僕が漆黒の長弓で正確に狙えるのは500メルドが限度。でも多分700メルドまでは威力を持ったまま届く。ひたすら射る、魔獣の先頭が500メルドを切り始めた。一射で数体の魔獣を倒す、スタンピード前の魔獣は直前の魔獣が倒れると一瞬の躊躇を見せた。でも今はスタンピードの魔獣は違う。目の前に倒れた魔獣を乗り越え吹き飛ばし全く躊躇せずに突っ込んでくる。スタンピードがここまで激しいとは想像できていなかった。これでは支えるのは無理だ。僕はそう判断し叫んだ。
「みんな、僕たちの後ろについて。子供とお年寄りを中にして長細い紡錘型隊列をとって。僕とミーアで前面の盾になる、横からちょっかいを出してくる魔獣だけ追い払って。隊列が組めたらスタンピードの流れを横切って外に脱出する。ティアドさんはみんなのサポートを頼みます。ミーア、いつもより弓から剣に早めに切り替えるよ」
僕の声に村のみんなが僕たちの後ろに集まる。村の人口は150人ほど、何人を脱出させられるか。スタンピードの流れの本流から脱出しても追いかけてくる魔獣はいるだろう。それに街道でも最近では魔獣が暴れている。スタンピードからの流れを殿が捌きながら、街道の魔獣からも護衛する必要がある。聖都まで逃げ延びられるのは10人か30人か……
 村の大人はみんな武器を手にしている。見れば母さんも動かない左腕に小さな盾をくくりつけ、右手に短剣をつかんでいる。く、先に逃げて欲しい、でも言えない。歯を食いしばり濁流となった魔獣の流れに対峙する。先頭の魔獣まで残り50メルド。僕とミーアは弓をしまい、新しい剣を手に取る。その時ティアドさんが合図をしてくれた。
「よし、隊列組めたぞ。少しずつ移動開始してくれ」
少しずつ横方向に移動を始める。そして先頭の魔獣が突進してくる。そこからは息をつく暇もない。ひたすらに剣を振るう。一人二人が切り抜けるのなら最小限の魔獣を切り倒して空いた隙間を潜り抜けるのだけれど、今、僕とミーアの後ろには全村人がいる。むしろ広めの範囲を切り裂き、魔獣の通り道を少しでも隊列から離れるようにする必要がある。右に左に剣を振るう。狩人の祝福によって強化されている力を生かしてひたすら魔獣の流れを切り開く。横にミーアがいるのは感じる。ミーアの息が荒い。僕が少し前に出てミーアの負担を肩代わりする。剣で魔獣を捌き始めていったいどれだけの時間剣を振るい、何体の魔獣を切り倒したか。1時間か、半日か。
ようやく、スタンピードの本流から抜けた。途端に疲労感が僕の身体を襲う。でも、まだダメだ。スタンピードの魔獣が一部こちらを狙っているのが分かる。枝分かれして襲ってくる魔獣。今度は先頭ではなく、殿として魔獣の追撃を捌く。
 合間に村人の状態を確認する。スタンピードを抜けられたのは半数に満たない。悲しみに涙が零れそうになるけれど、今は泣いている暇はない。ティアドさんは、怪我をしているようだけれど、まだいけそうだ。母さんの姿は、見えない。
「ぐっ」
ダメだ、今は。悲しみをこらえ、僕はミーアと目を合わせ小さくうなずきをかわした。そして、大型の魔獣を切り伏せ、わずかに空いた時間を使って叫ぶ
「ティアドさん、みんなを護衛して聖都へ行ってください」
「フェイとミーアは……」
ティアドさんが逡巡するようにつぶやくけれど
「僕たちは、ここでしばらく追撃してくる魔獣を防ぎます」
「でもそれじゃぁ」
「これが出来るのは僕たちだけです」
「お父さん、みんなを守ってあげて。聖都で待っていて。必ず行くから」
ミーアも疲れの見える中、笑顔で声を掛ける。
「わ、かった。ミーア、フェイ。必ず生きて聖都に来るんだぞ」
「もちろんです。僕は大物狩りのフェイですよ」

 僕とミーアが追撃の魔獣を切り伏せる中、みんなが聖都にむけて移動を開始した。それを見送る間もなく、襲ってくる魔獣を切り伏せる。すでに低位の魔獣はあまりいない、普段なら森の中層より深い場所にいる中位の魔獣に、それを上回る巨体の上位魔獣が混ざってきている。
「ふふん、今日1日で僕の狩りの記録が何年分も更新されそうだよ」
不安を塗りつぶすために、僕は軽口を叩く。
「あたしが、それを超えてあげるわ」
ミーアが応え、僕たちは一瞬目を合わせ笑顔を交わす。そして青く輝く剣をかざし今度は肩を並べて魔獣に向かって駆け出した。

 どれほどの時間、戦っているのか、僕のハンド・アンド・ハーフ・ソードがファイアジャイアントの腹を薙ぎ、ミーアの短剣がレッドベアの足を断つ。返す動きでそれぞれが首を刎ね、目に剣を突き刺し止めを刺す。巨体が地に伏すとその陰から新たな深層の上位魔獣が襲い掛かる。振るわれる爪を剣で流し、その動きのままに目に突き刺す。横ではサイクロプスが振り上げた槌をミーアが避け、その腕を断っていた。どの魔獣もすでに深層の上位魔獣、すでに中位魔獣さえいなくなっている。その1撃は地を割り岩を砕く。一度でもまともにもらったら僕たちのなけなしの体力は根こそぎ持っていかれるだろう。それでも僕たちは二人でならまだ耐えている、耐えられる。魔獣の襲い来るわずかなタイムラグで僕たちは背中合わせになる。
「ミーア、まだいけるか」
「あたしは全然平気よ。フェイこそ息が上がってるんじゃない」
「ふん、ミーアの背中は誰にも渡さない。そのためならいくらでも力が湧くさ。そして僕の背中はミーアにしか任せられないんだからね。倒れるんじゃないぞ」
二人とも戦闘の興奮状態。分かっている、この状態は長く続かない。それでも、僕はミーアとなら乗り越えられると信じられた。

 一瞬見上げた空に星が瞬いていた。どうやら今は夜らしい。暗闇の中、僕とミーアは狩人の祝福の恩恵の暗視で昼と変わらずに戦っていた。それぞれが倒した魔獣の数も上位魔獣だけでも50ではきかないだろう。低位中位を合わせればさらに数倍する魔獣をすでに下している。でも、そろそろミーアの体力が限界に近い。一度引きたいのだけれど途切れることのない魔獣がそれを許さない。僕がカバーする範囲を少し広げてミーアの負担を少しだけ軽減する。僕も今までは避けられた攻撃を剣で捌かざるを得なくなってきた。摺り上げ、受け流しそのすきに突き込む。魔獣の攻撃がかすり始めている。僕もミーアも防具は既に切り傷だらけだ。
 ミーアの身体がわずかにぐらつく、そこを狙い定めたかのような巨人系魔獣の振り下ろすこん棒をかろうじて躱すミーア。しかし、ミーアをそれた攻撃が地を砕き破片を飛ばした。体勢を崩したままのミーアはその破片を避け切れず足に受けてしまった。膝をつき倒れるミーアを見てしまった僕は、頭に血が上ったのだろう。ミーアに追撃をしようとしている魔獣に渾身の1撃を入れる、そして周囲の魔獣に体力配分も何もない全力の攻撃をした。気がついた時には周囲数十メルドに魔獣はいなくなっていた。息が上がり、僕自身もよろけながら必死にミーアに駆け寄り肩を揺らす。
「ミーア、ミーア。大丈夫か」
うっすらと目を開いたミーアに、ほっとしたのもつかの間。
「ダメ、足が効かない。フェイ、あたしを置いて逃げて」
蓄積した疲労に先ほどの足へのダメージで動けないようだ。だからと言って僕にミーアを見捨てる選択はない。奇跡的に腰に残っていた魔法の鞄から皮ベルトを取り出しミーアを僕の背中に括り付ける。
「フェイ、バカなことをしないで。あなた一人なら切り抜けられるでしょう」
「それで、そのあとどうするんだ。ミーアのいなくなった後、僕が生きていられるとでも思うのか。生き延びるなら一緒に生き延びるんだ」
背中に括り付けたミーアに申し訳程度であるけれど短剣を持たせ立ち上がる。右手にミスリルコートのハンド・アンド・ハーフ・ソード、左手に鉄のブロードソードを持ち魔獣を迎え撃つ。僕自身の体力も限界に近い、時々目の前が暗くなる。それでも、ミーアと一緒に生き延びる、その想いだけで身体を動かす。右手の剣で薙ぎ、左手の剣で突く。ただひたすらに魔獣と戦い、いつしか僕の意識は……
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