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41話
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オリハルコンコートのブロードソードの刃がはじかれる。ミスリルのハンド・アンド・ハーフソードで押し込むものの1セルチの傷さえつかない。それでも、そいつの意識を僕に引き付けることには成功した。後ろに回り込んだミーアの2振りの短剣がひらめく。上位魔獣の首さえ刈り取る凶悪なその刃は、それでもはじかれ、ミーアがたたらを踏む。目の前の敵はリトルデビル。王種としては低位でも王種は王種、勇者様の持つ聖剣以外では傷ひとつつけることは出来ない。それでも僅かにミーアに意識がそれた。僕は、さらにブロードソードを目に突き入れる。そんな攻撃さえも止まる。生物共通の急所ですら聖剣以外は受け付けない。それでもその小型の王種の意識をこちらに引き付け切るのには十分。その意識のスキをついて勇者様の聖剣がひらめく。王種独特の紫色の体液が噴き出す。それほど大きな傷ではなさそうだ。それでも、まったく効果がないわけではない。しかし、傷を受けた事で勇者様に小型王種の意識がむく。
急いで勇者様との間に身体をねじ込み両手の剣を叩きこむ。やはり傷を与えることは出来ない。それでも力ずくで少し押し込む事は出来た。勇者様の前に勇者様のパーティーメンバーの戦士が盾を構えて入り込んでいる。これでいきなり勇者様にリトルデビルの攻撃が届くことはないだろう。僕がわずかにサイドステップで位置をずらす。それまで僕のいた場所を王種の腕が襲っていた。大丈夫、僕の攻撃は王種に傷をつけることは出来ないけれど、王種の攻撃もまた僕をとらえきれない。ミーアも相手の気を引いてくれる。なにより勇者様の剣は間違いなく少しずつでも王種の命を削っている。薄氷の上で踊るようなものではあるけれど、ギリギリのところで今は僕たちが上回っている。
僕とミーアがリトルデビルの注意を引く、勇者様の聖剣がリトルデビルの身体を薙ぐ。もしもの事故を防ぐために戦士が盾をもって勇者様の前に立つ。何度、何十度繰り返す。戦闘がはじまり既に半日を過ぎ、宵闇が迫る時刻。既にリトルデビルは聖剣による傷からの出血でふらつき始めている。僕とミーアは狩人の祝福の恩恵で夜目が効く。だから暗くなっても戦える。しかし、勇者様のパーティーメンバーは違う。みなごく普通の視力、暗く成れば確認しきれなくなる。だからここに来て魔術師が魔法を編み上げる。
「ライト」
それは単なる魔法の明かり。けれど、ここで魔術師が行える最大の援護だった。攻撃魔法が使えないわけではない。けれど、魔術師の使う魔法では王種には傷一つつけることは出来ない。だからこそ、せめて勇者様が十全に戦えるように……。
勇者様がリトルデビルに切りつけたうえで引いた。そこで、僕はそろそろと思い声を掛ける。
「勇者様とパーティーメンバーの皆は一旦補給を。軽くで構わないので何か食料と水を口にしてください。その間は僕とミーアが引きつけます」
「な、貴殿らが未だ戦っている横で我らに食事をしろと……」
それを遮ったのはアーセルだった
「ギーゼ、フェイとミーアの足手まといになりたくなかったら補給をしてください」
「な、アーセルまで、何を言って……」
「フェイとミーアの継戦能力はあたしたちの比ではありません。あの二人は傷を負ってさえスタンピードの中丸1日以上上位魔獣を含む魔獣の群れ相手に戦い続けたのです。二人の足手まといになることなく、少しでも勝つ可能性を高めるために補給をしてください」
アーセルは完全に僕の意向をくみ取ってくれていた。そして更に彼女は言葉を継いだ。
「フェイ、ミーア。少しだけお願いね」
そう言って回復魔法を僕とミーアに飛ばしてくれた。
「ありがとう」
ミーアが、ここでアーセルに言葉を掛け、僕は、アーセルとミーアの切れていた絆が再びつながったのを幻視し、少しだけ胸に温かさを感じた。もう元の幼馴染には戻れない。それでも、絆を繋ぎなおすことはできると……。
魔術師が数度ライトの魔法を更新し、既に今は翌日の昼前だろう。リトルデビルは、既に虫の息だ。あと少しでその人間の敵の命は削り切られるだろう。
そんな状態で、油断をした分けではないけれどリトルデビルの意識がミーアに移り僕が再度ひきつけるための動きをリトルデビルの腕が一瞬邪魔をした。仕切り直しで僕が再度攻撃をしようとしたその時最悪のタイミングで、長い戦闘時間の間に崩れたミーアの足元が僅かにズレた。マズイ。僕はとっさにクロスさせた両手の剣を盾としてミーアとリトルデビルの間に身体を滑り込ませリトルデビルの重い拳を両の手の剣で受ける。万全の体勢でも受けきれるものではないその衝撃に剣が弾け僕の胸を抉った。
一瞬飛びかけた僕の意識を呼び戻す声。
「フェイ」
ミーアとアーセルの声が重なった。
「フェイウェル殿」
勇者様の焦ったような声も聞こえる。
大丈夫、声が聞こえるなら僕は生きている。生きていればまだ戦える。
「大丈夫だ。ミーア少しだけ頼む」
たった1撃で膝が笑い、目がかすむ、体に力が入らない。大丈夫、大丈夫、深呼吸をしながら自分に言い聞かせ体力の回復をはかる。そこにアーセルから治癒魔法が飛んできた。聖女の癒し、僕を回復させてくれる唯一の魔法。あっという間に回復し僕は戦線に復帰する。
危なかったのはその時だけで、着々とリトルデビルの体力を削り、戦闘開始からおおよそ丸1日。リトルデビルが地に伏せた。
急いで勇者様との間に身体をねじ込み両手の剣を叩きこむ。やはり傷を与えることは出来ない。それでも力ずくで少し押し込む事は出来た。勇者様の前に勇者様のパーティーメンバーの戦士が盾を構えて入り込んでいる。これでいきなり勇者様にリトルデビルの攻撃が届くことはないだろう。僕がわずかにサイドステップで位置をずらす。それまで僕のいた場所を王種の腕が襲っていた。大丈夫、僕の攻撃は王種に傷をつけることは出来ないけれど、王種の攻撃もまた僕をとらえきれない。ミーアも相手の気を引いてくれる。なにより勇者様の剣は間違いなく少しずつでも王種の命を削っている。薄氷の上で踊るようなものではあるけれど、ギリギリのところで今は僕たちが上回っている。
僕とミーアがリトルデビルの注意を引く、勇者様の聖剣がリトルデビルの身体を薙ぐ。もしもの事故を防ぐために戦士が盾をもって勇者様の前に立つ。何度、何十度繰り返す。戦闘がはじまり既に半日を過ぎ、宵闇が迫る時刻。既にリトルデビルは聖剣による傷からの出血でふらつき始めている。僕とミーアは狩人の祝福の恩恵で夜目が効く。だから暗くなっても戦える。しかし、勇者様のパーティーメンバーは違う。みなごく普通の視力、暗く成れば確認しきれなくなる。だからここに来て魔術師が魔法を編み上げる。
「ライト」
それは単なる魔法の明かり。けれど、ここで魔術師が行える最大の援護だった。攻撃魔法が使えないわけではない。けれど、魔術師の使う魔法では王種には傷一つつけることは出来ない。だからこそ、せめて勇者様が十全に戦えるように……。
勇者様がリトルデビルに切りつけたうえで引いた。そこで、僕はそろそろと思い声を掛ける。
「勇者様とパーティーメンバーの皆は一旦補給を。軽くで構わないので何か食料と水を口にしてください。その間は僕とミーアが引きつけます」
「な、貴殿らが未だ戦っている横で我らに食事をしろと……」
それを遮ったのはアーセルだった
「ギーゼ、フェイとミーアの足手まといになりたくなかったら補給をしてください」
「な、アーセルまで、何を言って……」
「フェイとミーアの継戦能力はあたしたちの比ではありません。あの二人は傷を負ってさえスタンピードの中丸1日以上上位魔獣を含む魔獣の群れ相手に戦い続けたのです。二人の足手まといになることなく、少しでも勝つ可能性を高めるために補給をしてください」
アーセルは完全に僕の意向をくみ取ってくれていた。そして更に彼女は言葉を継いだ。
「フェイ、ミーア。少しだけお願いね」
そう言って回復魔法を僕とミーアに飛ばしてくれた。
「ありがとう」
ミーアが、ここでアーセルに言葉を掛け、僕は、アーセルとミーアの切れていた絆が再びつながったのを幻視し、少しだけ胸に温かさを感じた。もう元の幼馴染には戻れない。それでも、絆を繋ぎなおすことはできると……。
魔術師が数度ライトの魔法を更新し、既に今は翌日の昼前だろう。リトルデビルは、既に虫の息だ。あと少しでその人間の敵の命は削り切られるだろう。
そんな状態で、油断をした分けではないけれどリトルデビルの意識がミーアに移り僕が再度ひきつけるための動きをリトルデビルの腕が一瞬邪魔をした。仕切り直しで僕が再度攻撃をしようとしたその時最悪のタイミングで、長い戦闘時間の間に崩れたミーアの足元が僅かにズレた。マズイ。僕はとっさにクロスさせた両手の剣を盾としてミーアとリトルデビルの間に身体を滑り込ませリトルデビルの重い拳を両の手の剣で受ける。万全の体勢でも受けきれるものではないその衝撃に剣が弾け僕の胸を抉った。
一瞬飛びかけた僕の意識を呼び戻す声。
「フェイ」
ミーアとアーセルの声が重なった。
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大丈夫、声が聞こえるなら僕は生きている。生きていればまだ戦える。
「大丈夫だ。ミーア少しだけ頼む」
たった1撃で膝が笑い、目がかすむ、体に力が入らない。大丈夫、大丈夫、深呼吸をしながら自分に言い聞かせ体力の回復をはかる。そこにアーセルから治癒魔法が飛んできた。聖女の癒し、僕を回復させてくれる唯一の魔法。あっという間に回復し僕は戦線に復帰する。
危なかったのはその時だけで、着々とリトルデビルの体力を削り、戦闘開始からおおよそ丸1日。リトルデビルが地に伏せた。
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