僕が守りたかったけれど

景空

文字の大きさ
68 / 166

68話

しおりを挟む
 僕たちは剣聖ブランカ・シエロの指導を受けるようになって1年が過ぎた。剣の技術を磨き、レオポルトさんが製作に成功したオリハルコンの剣を携える今の僕たちは自分たちの強さが1段上がったことを感じている。実際剣の腕は指導を受け始めた当初、僕とミュー二人掛かりでもあしらわれていたブランカ師匠と1対1での稽古を受けられるまでになっていた。とは言え、1対1では、未だに1本さえ取れていない。
「よし、今日はここまでとする」
ブランカ師匠の言葉で今日の鍛錬を終了。
「ありがとうございました」
「まだまだ師匠の域は遠いなあ」
ボソっと呟く僕に
「そう簡単に並ばれては私の立つ瀬がないな。私がここまで来るのに何十年掛かっていると思っている。むしろお前達の上達速度は異常だからな」
「そうですか」
「当たり前だ。いくら祝福の助けがあるとはいえ、いくら実戦経験が人外とはいえ20歳にもならん若さで私と打ち合える人間なぞ他におらん。むしろ私が自信をくだかれているわ」
「経験が人外ってなんです、人外って。いくら師匠でもそれは言い過ぎでしょう」
「いや、どう考えても、お前たちの戦歴は人外だからな。対人戦闘でこそ私はまだお前達より上だと言い切れるがな、スタンピードにたった2人で立ち向かうとか、ダメージを与えられないのを覚悟のうえで王種を抑え切るとか、キュクロプスアンデッドをたった2人で討伐するとかそういった対魔獣戦闘は私にも無理だ」
ブランカ師匠には僕たちの聖国での事情も話してある。だからスタンピードの件も王種の件も知っている。
「そうなんですか」
「はっきり言おう。お前達2人の戦力は正面から本気でやり合うことが出来たのならという条件こそ付くが帝国軍が総力をあげた場合に近い。お前達の戦力は王種討伐を例外として、武力としては、この世界でほとんど敵となるものはいない、そのあたり自覚しておけ」
思わぬ高評価に目を見張った。けれど
「そうですね。ある程度は予想していました。でも、師匠にはまだ勝てませんけどね。それに武力だけではどうにもならない力もありますから」
ブランカ師匠は僕の言葉を聞くとニッコリと微笑み
「そうだな、むしろその武力以外の力こそ人間社会においては重要度が高く、それゆえにやっかいだと言えるな。それが分かっていればいい」
ブランカ師匠は続けた
「そして、グラハム伯は武力とそれ以外の力、双方を高いレベルで保有する帝国内での重鎮でもある。そこにお前達が保護されている意味も考えておけ」
僕たちがグラハム伯に保護されている意味か。少し考えこんだところに更に
「そうそう、今日グラハム伯から何か話があると聞いている。今日は鍛錬を早めに切り上げて余裕を持って夕食に参加できるようにしておけ」
「グラハム伯から話ですか。わかりました」
僕とミューは今日の鍛錬内容を一通りおさらいし、鍛錬をいつもより早めに切り上げた。与えられている部屋に戻り、風呂でざっと汗を流し部屋着に着替え2人で鍛錬で気付いたことなどを話し合い時間をつぶす。部屋着と言っても辺境伯の屋敷で違和感のない程度の服装であり、以前であれば考えもしないような装いをしている自分に感慨深いものを感じていた。

『コン、コン、コン、コン』
 4回ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ミューが返事をする。
「お食事の準備が整いました。本日は辺境伯も同席されます。お早めにいらしていただきますようお願いします」
「はい、すぐ伺います」

ディナーのテーブルには当然ながらブランカ師匠も同席していた。和気あいあいと食事が進む。
「ほう、ファイとミューはそこまで強くなったか。さすが剣聖の指導のたまものだな」
「いや、こいつらの場合、指導云々以前に経験値がおかしいからな」
「師匠、経験値がおかしいって、どういう意味ですか。ねえ」
「そ、そうですよ。あたし達一生懸命に生きてきただけで……」
気付くとグラハム伯とブランカ師匠から生温かい感じの目で見られていた。
そしてグラハム伯が改まって声を掛けてくる。
「この1年、お前たちは剣の修行に明け暮れてきたわけだが、そろそろ1度手伝ってもらいたい」
「手伝いですか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...