僕が守りたかったけれど

景空

文字の大きさ
113 / 166

113話

しおりを挟む
 決闘が終わり、その凄絶な結末に周囲が静まり返る中、僕はヘンゲン子爵の城に引き揚げてきた。竜の魔法は自分で受けてどれだけの力があるのかは理解していたはずだった。それを僕は感情の昂るままにアイリーマン伯爵に対して力を抑えることなく放ってしまった。魔法の核を大剣で切り飛ばされてなお魔法耐性のある僕を一時とは言え地に伏せさせたそれを……。結果アイリーマン伯爵だったものは何も残らなかった。
 自己嫌悪に陥りながら部屋に戻り、各部屋に備えられている風呂に入る。幾分かでもさっぱりとし、部屋着に着替えてベッドに身体を投げた。目をつぶっていると、髪を撫でられているのを感じ、片目を開ければそこにいるのは当然ミーア。
「あんな見世物になりたくなかったよね。あたしのためだったんでしょ」
「別に人殺しの1人や2人今更だけど、まさかあんなに見物人が集まるとは思わなかったな」
「そんな風に言わないで。フェイが好きでやったわけじゃないことはわかってるから」
「ごめん、ちょっとキツかったから」
ミーアはいつでも僕に寄り添ってくれる。たまには甘えてもいいだろうか。そんな事を思いながらミーアを抱き寄せる。
「フェイはいつもあたしの事を大事にしてくれるけど、フェイ自身のことも大事にしてほしい。あたしも少しは強くなったんだから。たまにはこうして寄りかかってくれると嬉しいな」
 そんなところに慌てたような足音がドアの外から聞こえ、次いでドアが荒々しくノックされた。僕とミーアは顔を見合わせて、クスリと笑い。リビングに移動し部屋付きのメイドに頷く
「どうぞ、お入りください」
メイドが招き入れたのは勇者様。随分と焦った表情をしている。
「どうかしましたか」
僕の問いに
「ヘゲルン北の残された森でスタンピードの兆候があるとの報告がありました」
「スタンピードの兆候ですか。その程度なら勇者様自身が慌てて飛んでくるほどではないでしょうに」
僕が苦笑すると。
「スタンピードですよ。慌てる必要がないとは流石に……」
「まだ兆候でしょう。最初の兆候から10日から20日はあるものです。あわててちょっかいを出してスタンピードを誘発するほうが危ないですよ」
「しかし……」
「ヘゲルン北の残された森なら、移動に1日もいらないでしょう。ここには僕とミーアがいます。勇者様とアーセルもいます。スタンピードを抑えるのは任せていただいて結構ですし、万が一王種がいても勇者様とアーセルがいればどうにかなるでしょう。そんなに焦る必要はありませんよ」
そんな話をしながら、そういえば生まれ故郷の村アークガルスはどうなったのだろう、スタンピード以降帰っていない、いや帰ることが出来ていないけれど。生き残った村のみんなは元気でやっているだろうか。そんなことも考えながら
「今から出ても遅いですし、明日早くにでましょう。そうそう、まだ結婚祝いの贈り物を確認しきれていないでしょう。アーセルに僕たちが送ったローブ。あれはウィンドドラゴンを素材とした装備です。魔法にしろ物理攻撃にしろ並みの攻撃は通しません。僕の知る限りでは最上のローブです。勇者シリーズとまでは言いませんが、ちょっとした重装防具より防御力は上です。デザインも聖女にふさわしい純白のローブです。よかったら使わせてください。そして2振り送らせていただいた短剣もウィンドドラゴンの牙から作ったものです、風属性の中々良い武器です。よければ副武装にでも」
「そ、そんなものを……。しかしフェイウェル殿やミーア殿は」
「先ほどの決闘を見られたでしょう。僕もミーアもウィンドドラゴンの祝福を受けています。そう簡単に傷つきませんよ。それに僕たちの武器はオリハルコン製の剣です。聖剣とまでは言いませんが中々のものですよ」
しかし、本当は僕は静かに暮らしたかっただけなんだけれど、まるで父さんが呼んでいるようだ。でも僕は父さんとは違う。ミーアと生きて生き抜いてきっと幸せをてにしてみせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...