僕が守りたかったけれど

景空

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135話

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 「パパ、ママ、もう帰るの」
「いいえ、帰る前にパパとママの生まれた村に行きますよ」
騎士団や馬車を含めた移動準備をみて聞いてきたエルンストにミーアが答えている。生まれ故郷を離れて15年。やはり思うところはある。それでもやはり忘れられないのが故郷。何も無い村、でもそこにはきっとすべてがあった。温かい家庭、優しい隣人たち、森から、天から、地から恵を受け、つつましやかに営む穏やかな生活。そんな事を考えながら馬車に揺られること2日。僕たちは生まれ故郷の村アークガルズを目の前にしている。
「大体この辺りかな」
僕のこぼした言葉にミーアも
「そうね、この辺りだと思う」
あの時、僕とミーアは、初めて死すら覚悟して背中を預け合った。しばし瞑目した僕とミーアは目を見合わせ額を合わせた。
「じゃあ、村に入ろうか」
想いはある。でも今は懐かしい村を訪れることにしよう。

 ゆっくりと歩を進めると村の入り口には左腕の肘から先の無い男性がいる。彼は僕たちに気付くと少しばかり驚いた表情を見せてくれた。彼が口を開く前に僕が声を掛ける。
「ギルべさん、お久しぶりです」
「フェイか。そして隣に居るのはミーアだよな」
「ええ、お久しぶりです」
ミーアも挨拶を交わす。
「2人とも元気そうでなによりだ。あの時は国の言い草に怒りをおぼえたがな。もうあれはおわったのだろう」
「ええ、ですからこれからは自由に聖国に出入りできます」
「そうか。帝国の貴族になったんだってな」
「色々ありまして。でも貴族とは言っても領地もないですけどね」
「それでもそれなりにやっているようだな」
僕達に付き従う騎士団を見やり呟く。
「ええ、最近ではどうにかうまくやっています」
そこに馬車での移動に疲れて寝ていたイングリッドが顔を出してきた。
「パパ、もう着いたの」
「ああ、この村がパパとママの生まれ故郷だよ」
イングリッドの後ろから眠たい目をグシグシとこすりながらエルンストも馬車から降りてきた。
「フェイ、その子たちは」
ギルべさんが聞いてきたので
「ええ、僕達の子供です。双子で、こっちがイングリッド、そして後で眠そうにしてるのがエルンストです」
少しばかりの思い出話のあと、あのスタンピードから少数の聖騎士が常駐しているとの事で彼らに案内を頼み僕たちは村長の家に行くことにした。
「グリフィン侯爵ご一行様をお連れしました」
慇懃と言える態度で僕たちを村長宅に案内してくれた騎士はそこまでで下がる。
「フェイ、ミーア、いや今ではグリフィン侯爵夫妻だったか。災難だったな」
当時より顔の皺も増え、髪の毛も白いものが多くなった村長が出迎えてくれた。
「フェイで良いですよ。故郷でまで堅苦しいのは勘弁してほしいところですので」
「で、村に帰ってきて定住するというわけではないんだよな」
「ええ、さすがに帝国に生活基盤がありますから。今回は聖国からの要請に応えるついでの一時帰省みたいなものです。それに今回は堅苦しいところが多かったので、子供たちを森で少しばかり遊ばせてやろうかと思いましてね」
それはつまり子供たちに魔獣狩りをさせるということ。
「フェイそれはさすがに。みたところ10にもなっておらんだろう」
村長が止めようとするのは想定内なので
「ええ、双子で7歳です。それでもそのあたりの低位魔獣なら余裕で狩るくらいの力はありますし、先日は聖都のギルドで絡んできた4級冒険者を手のひらの上で転がしましたよ。それに僕やミーアも同行します。王種でも出ない限り問題はありません」

「この森がパパとママが初めて魔獣を狩った森だよ。浅い場所ならそれほど強い魔獣はいないと思うけど、分かっているよね」
森の入口で説明する。そして念のために探知を展開。
「うん、森では騒がない。慎重に行動する」
我が子ながら本当に7歳かなと苦笑しつつ
「よし、2人で協力して狩りをしてみようか。パパとママは後ろで見ているからね」
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