僕が守りたかったけれど

景空

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143話

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 その日の夕刻、僕とミーアは山を登りそれぞれ愛用の剣を手に赤鳳が現れるのを待っていた。赤鳳が現れたところで一撃するためなのだけれどはたして、それで済むのか。探知も広場の範囲に絞って展開している。そこにいきなり湧き出るように現れた赤鳳。それは改めて見ると気高く美しい鳳。そして僕達を見ると一声高く啼いた。
 ハッと意識を戻した僕とミーアが赤鳳に駆け寄ると赤鳳の周囲が赤に染まった。いきなりの事に僕もミーアも戸惑い赤鳳に振るうつもりだった剣を構えなおし警戒する。
『人の子よ』
どこからともなく聞こえたその声に周囲を見回したけれど、赤鳳以外に動くものは無かった。
「ひょっとして赤鳳お前なのか」
『私はお前たちに思念で話しかけている』
「思念だって」
『竜の想いを継ぐ強き人の子よ、何を求めるのか』
「力を、僕たちが、大切なものを守るための力を」
『お前たちは、既に十分な力を持っているのではないか』
「この力ではダメなんだ。この力では守れない、守り切れない」
そう僕が叫ぶと、僕の中にイメージが流れ込んできた。そう、この力。肯定の意思を示すと
『その力を得るにはまだ試練が必要です。青き竜に力を見せた。ならば私にはその勇気を示しなさい』

ふと気づくと僕は地に倒れていた。起き上がり周りを見回しても見渡す限り何もない荒れ地。習慣で武装を確認しようとして気付いた。手元に何もない。弓も剣も外出するときには必ず腰につけている魔法の鞄さえない。何があったのか、俺は森の深層部の奥でミーアと一緒に赤鳳に対峙していたはず……
 ミーアはどこだ。くそ、ミーアと引き離されたのか。僕の中で焦りが膨らむ。

ダメだ焦っては逆にダメ。僕は深呼吸をして焦る心を落ち着ける。完全には落ち着けるものでは無いけれど、それでも少しは冷静な思考力が戻ってきた。むやみに動き回ってもダメ。まずは観察をすべきだろう。目視での観察と同時に探知を全開で展開する。何か探知の感覚がおかしい。それでも展開した探知には人はおろか魔獣1体さえ引っかからない。今の僕の探知なら20マルグは範囲に入るはず。そこに下級魔獣の反応さえない。
 行動の方針が決まらず、周囲を観察していると視界のギリギリにブルードラゴンや赤鳳のいたような山がひとつあるのに気付いた。
 とりあえず、他に当てもないので山に向かうことにする。走れば僕の足ならそう時間はかからないだろう。
 山に足を向けて間もなく岩陰から出た僕の視界にワイルドボアを1回り大きくしたような魔獣が映った。相変わらず探知には反応していないにもかかわらずだ。とっさに岩陰に戻ったので見つからずに済んだようだけれど……
 つまり僕の能力は限定されている。探知は展開されているように思えても実際には反応しない。となると他の祝福の力も発揮されないと思ったほうがいいかもしれない。
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