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144話
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どうするか。これまで当たり前にしてきた祝福の恩恵。それが一切無い。
「それでも行くしかない。行かずにミーアにもしものことがあったなら」
僕は魔獣の死角を縫い岩陰から岩陰に潜み移動する。祝福と無関係に習得した狩人の技術。地道に鍛えた基礎体力。今は僕を助けてくれるのはこれだけ。息を殺し、影を疾る。時折目的地の山を確認し方向を修正する。魔獣が周囲にいないのを確認したところで駆けて大きく距離を稼ぐ。
目的の山まで目測でおおよそ半ばまで届いたところで、目の前に横たわるのは
「峡谷か。端まで行くのと、下に降りて横断するのとどちらが良いか」
端があるとは限らない。下に降りた場合どんな魔獣が待ち構えているか分からない。峡谷を覗き込み観察する。崖は祝福の恩恵無しでもどうにか登り降り出来そうだ。でも崖にとりついている間は僕は無防備に身体を晒すことになる。しばし、僕は瞑目し決意を決めた。渓谷を降りて横断する。
決断した以上は躊躇しない。慎重にそれでいて急いで身体を渓谷に降ろす。岩の出っ張りに手をかけ、わずかなくぼみに足を突っ込む。わずかな窪みさえ手懸りにし身体を支え慎重に降下する。どれだけの時間掛ったか、危惧していた魔獣の襲撃もなく僕は渓谷の底にたどり着いた。体中を嫌な汗が流れている。こんな恐怖を覚えるのはいつ以来か。スタンピードでの絶望も、貴族領での大軍との対峙した苦しさもこれほどでは無かった。いつも隣にはミーアがいてくれた、背中を任せられる魂の相棒。ミーアが一緒に居るだけでどんな逆境も恐ろしくなかった。僕は独りではこんなにも弱い。でも、だからこそ奪われたミーアを取り返す。そのために……。
グイと身体を持ち上げる。結局渓谷では魔獣に襲われることもなく対岸に登りきることが出来た。あと半分。目的の山に向けて駆け出す。あそこにヒントがあるかどうかも分からない。それでも僅かな可能性に賭けて。いや、もしあそこに何も無くても、次を探すそのつもりで……。
いつしか、周囲は木々の繁る森になっていた。方向を失わないよう時々木に登り山の位置を確認しながら進む。森に入ってからは時に魔獣が目に付くようになった。下位の魔獣だけれど、武器もなく祝福の恩恵を失った僕では勝ち目はない。時に木の影に身を潜め、時に魔獣の死角を走り目的地の山に向かう。
ジャリ、足が上り坂を踏みつける。どうやら目的の山のふもとにたどり着いたようだ。急かす気持ちを抑えつけ更に慎重に登る。あと数メルド先に木々の切れ目が見える。木の影に身を隠し様子をうかがうと、そこに赤鳳が周囲を睥睨するように立っていた。『後ろに回って襲うか』一瞬そんな考えも頭をよぎったけれど、今の僕の力では後ろから襲い掛かったところでかすり傷さえつけられないだろう。
目を瞑り数回深呼吸を繰り返す。僕は思い切って木の間から姿をさらした。
「赤鳳。やっと見つけたぞ。ミーアを返せ。ミーアはどこにいる」
「人の子よ、よく戻った」
僕の目の前が歪みぐるりと回った。そして頬にザラリとした感触を感じ目を開くと、何故か僕は地に伏せていた。ハッと立ち上がり僅かにふらつく足元を踏みしめ周囲を見回すと。同じく地面に横たわる愛する妻、背中を預ける相棒の姿。
「ミーア」
駆け寄りその様子をうかがうと、その胸は規則正しく上下しており命に別条のないことが分かる。ミーアを背に庇い赤鳳に向かい合う。
「ミーアに何をした」
何も語らない赤鳳に僕が詰め寄ろうとしたその時
「う」
僕の背でミーアが身じろぎをした。
「ミーア。大丈夫か」
僕が声を掛けると、目を開いたミーアが不思議そうな顔で僕を見た。
「フェイ」
そこに赤鳳の思念が届いた。
「人の子達よ、お前たちは試練を乗り越えた。印を持っていくがいい」
そう言い残し赤鳳はまるでそこに居なかったかのように姿を消した。
「それでも行くしかない。行かずにミーアにもしものことがあったなら」
僕は魔獣の死角を縫い岩陰から岩陰に潜み移動する。祝福と無関係に習得した狩人の技術。地道に鍛えた基礎体力。今は僕を助けてくれるのはこれだけ。息を殺し、影を疾る。時折目的地の山を確認し方向を修正する。魔獣が周囲にいないのを確認したところで駆けて大きく距離を稼ぐ。
目的の山まで目測でおおよそ半ばまで届いたところで、目の前に横たわるのは
「峡谷か。端まで行くのと、下に降りて横断するのとどちらが良いか」
端があるとは限らない。下に降りた場合どんな魔獣が待ち構えているか分からない。峡谷を覗き込み観察する。崖は祝福の恩恵無しでもどうにか登り降り出来そうだ。でも崖にとりついている間は僕は無防備に身体を晒すことになる。しばし、僕は瞑目し決意を決めた。渓谷を降りて横断する。
決断した以上は躊躇しない。慎重にそれでいて急いで身体を渓谷に降ろす。岩の出っ張りに手をかけ、わずかなくぼみに足を突っ込む。わずかな窪みさえ手懸りにし身体を支え慎重に降下する。どれだけの時間掛ったか、危惧していた魔獣の襲撃もなく僕は渓谷の底にたどり着いた。体中を嫌な汗が流れている。こんな恐怖を覚えるのはいつ以来か。スタンピードでの絶望も、貴族領での大軍との対峙した苦しさもこれほどでは無かった。いつも隣にはミーアがいてくれた、背中を任せられる魂の相棒。ミーアが一緒に居るだけでどんな逆境も恐ろしくなかった。僕は独りではこんなにも弱い。でも、だからこそ奪われたミーアを取り返す。そのために……。
グイと身体を持ち上げる。結局渓谷では魔獣に襲われることもなく対岸に登りきることが出来た。あと半分。目的の山に向けて駆け出す。あそこにヒントがあるかどうかも分からない。それでも僅かな可能性に賭けて。いや、もしあそこに何も無くても、次を探すそのつもりで……。
いつしか、周囲は木々の繁る森になっていた。方向を失わないよう時々木に登り山の位置を確認しながら進む。森に入ってからは時に魔獣が目に付くようになった。下位の魔獣だけれど、武器もなく祝福の恩恵を失った僕では勝ち目はない。時に木の影に身を潜め、時に魔獣の死角を走り目的地の山に向かう。
ジャリ、足が上り坂を踏みつける。どうやら目的の山のふもとにたどり着いたようだ。急かす気持ちを抑えつけ更に慎重に登る。あと数メルド先に木々の切れ目が見える。木の影に身を隠し様子をうかがうと、そこに赤鳳が周囲を睥睨するように立っていた。『後ろに回って襲うか』一瞬そんな考えも頭をよぎったけれど、今の僕の力では後ろから襲い掛かったところでかすり傷さえつけられないだろう。
目を瞑り数回深呼吸を繰り返す。僕は思い切って木の間から姿をさらした。
「赤鳳。やっと見つけたぞ。ミーアを返せ。ミーアはどこにいる」
「人の子よ、よく戻った」
僕の目の前が歪みぐるりと回った。そして頬にザラリとした感触を感じ目を開くと、何故か僕は地に伏せていた。ハッと立ち上がり僅かにふらつく足元を踏みしめ周囲を見回すと。同じく地面に横たわる愛する妻、背中を預ける相棒の姿。
「ミーア」
駆け寄りその様子をうかがうと、その胸は規則正しく上下しており命に別条のないことが分かる。ミーアを背に庇い赤鳳に向かい合う。
「ミーアに何をした」
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「う」
僕の背でミーアが身じろぎをした。
「ミーア。大丈夫か」
僕が声を掛けると、目を開いたミーアが不思議そうな顔で僕を見た。
「フェイ」
そこに赤鳳の思念が届いた。
「人の子達よ、お前たちは試練を乗り越えた。印を持っていくがいい」
そう言い残し赤鳳はまるでそこに居なかったかのように姿を消した。
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