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力をつけるために
第123話 ワイルドティーガー
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「脱力感や疲労感もないんだね」
「はい、まったく違和感ありません」
「……朝未の存在自体が聖属性?」
「ちょっと誤解を招きそうな表現ですけど、ある意味予想通りですね。おそらくは、あたしは聖属性の力を纏っているような状態なんだと思います」
「まあ、朝未の無謀な挑戦も意味があったってところかな」
「無謀って何ですか、無謀って。ちゃんと勝算あったんですからね」
第3層での初戦を危なげなく終え、あたし達は魔石を拾いながら軽口を叩いている。
「いくら戦闘をつつがなく終えたと言っても、ここでこんな軽口を叩けるのはお2人くらいですよ」
マルティナさんはちょっとあきれ顔ね。
そんな少し弛緩した空気の中、あたしの探知魔法には急速に近づいてくる反応がひとつ。
「探知魔法に強めの反応がすごい勢いで近づいてきています。数は1。速さから今まで接敵してきた魔物とは違うと思います」
「今まで戦ったことのない敵。しかも速い?となると……」
「この辺りで速い敵ならワイルドティーガーの可能性が高いです。単体で4級ハンターパーティーでも単独パーティーだと不覚をとることのある強力な肉食獣です。その毛皮は非常に高価で取引されます」
「マルティナさん、今は毛皮の値段の情報いらないと思うの」
「何を言いますかアサミ様。ハンターたるもの獲物の価値は常に把握しておくべきです。生死ギリギリの戦いならともかく多少なりと余裕があるのであれば、より価値の残るように斃すのもハンターですよ」
なるほどマルティナさんプロね。
「となれば、無駄に毛皮に傷を付けずに斃さないとってことですね。そして、魔物や魔獣ではないから聖属性は意味がないと……」
「最上は、目を狙って脳を破壊することです。次善は胸部のこの部分、心臓と肺が重なる部分に突きで……」
マルティナさんが、地面に簡単な絵を描きながらワイルドティーガーの価値を下げない斃し方を説明してくれた。でも、動きが速いのよね。まだバインド系の魔法は使ったことが無いから自信ないし。少し冷やしたら動きが鈍くなったりしないかしらね。
「マルティナさん。ワイルドティーガーって冷やしたら動きが鈍くなったりしない?」
「どう、なんでしょうか。ワイルドティーガーは、この辺りのような暖かい地域にのみに住むと言われていますのでひょっとしたら有効かもしれませんが……」
確証はないって事ね。でも生き物は冷えれば大体活動が低下するものね、魔力も十分に残っているしやってみてもいいわよね。
「もう近いです。マルティナさん、動物ならあたしのエンチャントは必要ないはずです。マルティナさん自身のエンチャントの方が時間切れが無いので有効だと思います。ただ、防具へのエンチャントだけはしておきますね」
まだマルティナさんは、武器と防具両方への同時エンチャントがうまくいっていないので防具へのエンチャントはあたしがしておいた。
「補助魔法掛けます」
いつも通り、基本にしている補助魔法を掛けていく。これで戦闘準備完了。
「右手、その藪の右側くらいから来そうです。あと約5秒」
そう言って、あたしはコールドの魔法を発動する。自分が指定したエリアの温度を下げる風属性魔法。今回は、エリア内の温度、地球の温度計を持ってきたらマイナス50度以下に下げられたはず。エリアの地面が白く凍り付く、空気中の水分がダイヤモンドダストになってキラキラときらめく。
飛び込んできたのは、5メートルはありそうな巨大なトラ。尻尾を伸ばせば7メートルにはなりそう。
「やはりワイルドティーガーです。爪による引っかきと咬みつきが強力ですが、この大きさだと体重も1000グル近くあります。のしかかられるとやっかいです。気を付けてください」
マルティナさんが警告の言葉を叫んだ。
「そこのエリアにはコールドの魔法を掛けました。即効性は無いかもしれませんが、その中に追い込んでおけば動きを鈍らせることが期待できます」
「それにしても、あっという間の凍土とダイヤモンドダストの世界ですね。相変わらず、アサミ様の魔法は規格外です」
そう言いながら、マルティナさんは槍で牽制し、瑶さんは無言のまま剣を振るい、コールドの魔法のエリアにワイルドティーガーを押し込めてくれている。
それなら、さらに魔力を込めたコールドの魔法を放つ。
ワイルドティーガーの全身が白く凍り付いてきた、吐く息がそのまま凍り地に落ちる。動きもかなり鈍くなってきている。
「もう一段冷やします。コールド」
毛皮と分厚い肉に守られたワイルドティーガーに予想通りコールドの魔法は即効性が無かったけれど、時間経過とともに地につく足は凍り貼り付き、動くたびにその皮膚を引き剝がした。極限まで温度を下げた空気はワイルドティーガーの肺を凍らせ呼吸を困難にしたはず。見開いたその目は既に凍り光を失っている。
「瑶さん、マルティナさん、そろそろとどめを」
その時、まるで起死回生の1撃を狙ったかのようにワイルドティーガーが大口を開け瑶さんにとびかかった。
「瑶さん!!」
ワイルドティーガーの巨体の陰に瑶さんの姿が隠れる。
すべての動きが止まったように感じたのはどれだけの時間だったのかわからない。いえ、冷静に考えればせいぜい数秒のはずなのだけど……。
ワイルドティーガーは、その巨大な口を牙を閉じることが出来ず、そのまま横倒しに倒れる。
その口には瑶さんの長剣が柄まで刺さっていて、その向こうには瑶さんの苦笑いが浮かんでいた。
「はい、まったく違和感ありません」
「……朝未の存在自体が聖属性?」
「ちょっと誤解を招きそうな表現ですけど、ある意味予想通りですね。おそらくは、あたしは聖属性の力を纏っているような状態なんだと思います」
「まあ、朝未の無謀な挑戦も意味があったってところかな」
「無謀って何ですか、無謀って。ちゃんと勝算あったんですからね」
第3層での初戦を危なげなく終え、あたし達は魔石を拾いながら軽口を叩いている。
「いくら戦闘をつつがなく終えたと言っても、ここでこんな軽口を叩けるのはお2人くらいですよ」
マルティナさんはちょっとあきれ顔ね。
そんな少し弛緩した空気の中、あたしの探知魔法には急速に近づいてくる反応がひとつ。
「探知魔法に強めの反応がすごい勢いで近づいてきています。数は1。速さから今まで接敵してきた魔物とは違うと思います」
「今まで戦ったことのない敵。しかも速い?となると……」
「この辺りで速い敵ならワイルドティーガーの可能性が高いです。単体で4級ハンターパーティーでも単独パーティーだと不覚をとることのある強力な肉食獣です。その毛皮は非常に高価で取引されます」
「マルティナさん、今は毛皮の値段の情報いらないと思うの」
「何を言いますかアサミ様。ハンターたるもの獲物の価値は常に把握しておくべきです。生死ギリギリの戦いならともかく多少なりと余裕があるのであれば、より価値の残るように斃すのもハンターですよ」
なるほどマルティナさんプロね。
「となれば、無駄に毛皮に傷を付けずに斃さないとってことですね。そして、魔物や魔獣ではないから聖属性は意味がないと……」
「最上は、目を狙って脳を破壊することです。次善は胸部のこの部分、心臓と肺が重なる部分に突きで……」
マルティナさんが、地面に簡単な絵を描きながらワイルドティーガーの価値を下げない斃し方を説明してくれた。でも、動きが速いのよね。まだバインド系の魔法は使ったことが無いから自信ないし。少し冷やしたら動きが鈍くなったりしないかしらね。
「マルティナさん。ワイルドティーガーって冷やしたら動きが鈍くなったりしない?」
「どう、なんでしょうか。ワイルドティーガーは、この辺りのような暖かい地域にのみに住むと言われていますのでひょっとしたら有効かもしれませんが……」
確証はないって事ね。でも生き物は冷えれば大体活動が低下するものね、魔力も十分に残っているしやってみてもいいわよね。
「もう近いです。マルティナさん、動物ならあたしのエンチャントは必要ないはずです。マルティナさん自身のエンチャントの方が時間切れが無いので有効だと思います。ただ、防具へのエンチャントだけはしておきますね」
まだマルティナさんは、武器と防具両方への同時エンチャントがうまくいっていないので防具へのエンチャントはあたしがしておいた。
「補助魔法掛けます」
いつも通り、基本にしている補助魔法を掛けていく。これで戦闘準備完了。
「右手、その藪の右側くらいから来そうです。あと約5秒」
そう言って、あたしはコールドの魔法を発動する。自分が指定したエリアの温度を下げる風属性魔法。今回は、エリア内の温度、地球の温度計を持ってきたらマイナス50度以下に下げられたはず。エリアの地面が白く凍り付く、空気中の水分がダイヤモンドダストになってキラキラときらめく。
飛び込んできたのは、5メートルはありそうな巨大なトラ。尻尾を伸ばせば7メートルにはなりそう。
「やはりワイルドティーガーです。爪による引っかきと咬みつきが強力ですが、この大きさだと体重も1000グル近くあります。のしかかられるとやっかいです。気を付けてください」
マルティナさんが警告の言葉を叫んだ。
「そこのエリアにはコールドの魔法を掛けました。即効性は無いかもしれませんが、その中に追い込んでおけば動きを鈍らせることが期待できます」
「それにしても、あっという間の凍土とダイヤモンドダストの世界ですね。相変わらず、アサミ様の魔法は規格外です」
そう言いながら、マルティナさんは槍で牽制し、瑶さんは無言のまま剣を振るい、コールドの魔法のエリアにワイルドティーガーを押し込めてくれている。
それなら、さらに魔力を込めたコールドの魔法を放つ。
ワイルドティーガーの全身が白く凍り付いてきた、吐く息がそのまま凍り地に落ちる。動きもかなり鈍くなってきている。
「もう一段冷やします。コールド」
毛皮と分厚い肉に守られたワイルドティーガーに予想通りコールドの魔法は即効性が無かったけれど、時間経過とともに地につく足は凍り貼り付き、動くたびにその皮膚を引き剝がした。極限まで温度を下げた空気はワイルドティーガーの肺を凍らせ呼吸を困難にしたはず。見開いたその目は既に凍り光を失っている。
「瑶さん、マルティナさん、そろそろとどめを」
その時、まるで起死回生の1撃を狙ったかのようにワイルドティーガーが大口を開け瑶さんにとびかかった。
「瑶さん!!」
ワイルドティーガーの巨体の陰に瑶さんの姿が隠れる。
すべての動きが止まったように感じたのはどれだけの時間だったのかわからない。いえ、冷静に考えればせいぜい数秒のはずなのだけど……。
ワイルドティーガーは、その巨大な口を牙を閉じることが出来ず、そのまま横倒しに倒れる。
その口には瑶さんの長剣が柄まで刺さっていて、その向こうには瑶さんの苦笑いが浮かんでいた。
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