上 下
75 / 314

第75話 こんな程度の事

しおりを挟む
 スマホをいじっていたひとりの保護者が口を開いた。
「20万円をお支払いさせていただきます」
「勝手に決めないでいただきたい。あなた方だけの問題ではないんですよ」
「そうは言っても、最終的にはお金で折り合いをつけるのは社会において当たり前のことでしょう」
「だからと言って勝手に決められては周りが迷惑だと言っているのです」
”バン”愛翔が机を叩き立ち上がった。
「イジメの慰謝料の相場でも見ましたか10万から20万、悪質な場合は上乗せというのが一般的な相場みたいですね」
「な、なら」
「その相場ってのは1人あたりでしょう」
「あ、いや……」
黙り込む保護者達に愛翔は容赦しない。
「こっちは別に金を受け取る必要は無いんだ。このまま警察に行けばそれで済む。この話し合いそのものがこちらからの妥協点なんだからな。慰謝料・損害賠償そういったものを受け取って示談してやる必要はこっちにはない。ただ、あなた方のお子さんたちがやった事は既に犯罪なんだ。証拠を揃えて警察に届ければ逮捕のうえで傷害罪、強要罪いろんな罪が考えられる。その時に与えられる罰は反省していることが認められるかどうかで大きく変わるんだ。少年院送致か、保護観察か不起訴かどうなるかで当然経歴に残り、それは一生つきまとう。それをたかが金で軽減してやろうって言ってるんだ。それを勝手に20万だ?勝手に決めるな?ふざけるのもいい加減にしてもらいたいな。こっちからしたら親からして悪いと思っていないとしか見えない。何度も言うけれど、こちらとしてはこのまま話し合いを終わらせて警察に行ってもいいんだ」
愛翔の言葉に言い争っていた加害者側も口をつぐんだ。
一時の静寂の後。
「1人20万円で示談してください」
「つまりお子さんたちのやった事は悪質ではないと言われるのですね」
「あ、いや……」
「私と楓にそれぞれ30万、先に単独でターゲットにした桜に40万。合計100万いただきたい。もちろんそれぞれから」
そんな愛翔の要求に
「そんな無茶な金額を認められるわけが……」
「いくらなんでも100万は」
及び腰な加害者側保護者。それに対して更に愛翔が追い込む。
「ふふふ、無茶ですか。たかが100万を子供の将来への汚点を小さくすることに使えませんか」
「たかがだと、100万がたかがだと」
激昂する彼らに愛翔は冷たく言い放つ。
「斎藤さん、あなたはゴルフが趣味だそうですね。それもご夫婦で楽しまれるとか。あれ休日にコースに出るとひとり2万5千円くらいは掛かりますよね。それがご夫婦でとなれば1回5万円、20回我慢すれば済む金額ですし、さらに言えば道具も結構良い物使ってるでしょう。ご夫婦で1回買い替えを我慢したらそれだけで20から30万うきますよね。林さんは結構大きなクルーザーを所有されていますよね。あれって3000万円くらいすると思うんですが、それを10年くらいで買い替えているとか古い船を下取りに出したって1千万円以上の手出しでしょう。たった1年買い替えを我慢すれば済む金額ですよ。山岡さんは自動車が趣味ですよね。実用車以外に高級スポーツカーを数年ごとに買い替えているようですが、これも1年買い替えを我慢すれば済む程度の金額でしょう。浜岡さんは海外旅行を毎年数回楽しまれていますよね。しかも結構高級なホテルで。ご家族で1回100万円以上掛かるような旅行ですよね。与田さんは高級ブランドバッグを買い集められていますよね。1つ30万とか50万するようなものを年にいくつ買われているんですか?2,3個買うのを我慢すれば出てしまう程度の金額ですよ。これがもっと収入の少ない家庭で100万円を捻出するのに食費を削らないといけないとかそういうレベルならともかく、ここにいる方々は遊びを少し我慢する程度で賄えるじゃないですか」
そこまで言うと今度は加害者生徒に向かい
「なぁ、おまえらの親ってお前らの将来よりこんな程度の事の方が大事ってことだ。かわいそうにな」
愛翔の言葉は加害者生徒の心を抉り、保護者を慌てさせた。
「あ、そんなわけないだろう」
「そんなこと無いからね。あなたの方が大事だから」
「やっぱり、あたしの事なんて……」
しおりを挟む

処理中です...