幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

景空

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第172話 リベロ

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東京バンデットFCが拠点を置くAJKスタジアム。愛翔を含むステラスターFCU18メンバーは試合前のウォーミングアップを行っていた。
「で、今回から住吉はハーフゲーム出場ってことか?」
時枝が相変わらず愛翔に絡んでくる。
「まあ、展開次第だろ。有利な状況、順調な状況では弄らないのが原則だからな」
愛翔の返事に時枝は少しばかり寂し気な顔を見せる。
「俺のU18最後の公式戦。お前ときっちり組みたかったんだがな」
「最後ってどういう……」
そこまで言って愛翔も気付いたようにただし揶揄うような口調で口を開いた。
「そうか引退か」
「いやいやいや、違うからな。このゲームを最後に上のリザーブ枠に入ることになったんだ。だからU18カテゴリーの公式戦でプレーするのは今日が最後になる。住吉と出会って随分と面白いサッカーができたから最後にせめてと思ったんだがな」
「まだ、わからんだろ。展開次第では後半45分フル出場だって無いわけじゃないからな。ま、そのためには最低限俺が入ったら勝てるって展開にまでは持ち込んでくれよ。さすがに完全な負け試合じゃ俺は出してもらえないからな」
愛翔がニヤリと笑いながら右拳を突き出し、時枝も右拳を突き出しぶつけ
「言ってろ。必ず出てもらうからな」
コイントスでボールを獲得したのは東京バンデットFCU18チーム。
”ピー”主審のホイッスルに東京バンデットによるキックオフ。左サイド手前やや大きめに蹴りだしたボールを短めのパスで繋ぎステラスターFCサイドへ攻め込む東京バンデットFC。それに対し、ステラスターFCも時枝の的確な指示の元パスコースを絞り、奥に攻め込ませない。一進一退の攻防の中時枝が東京バンデットFCのパスのインターセプトに成功する。一気に攻めあがるステラスターFC。
 しかしそこでパスを出そうとした時枝が舌打ちと共にパスを出すのを中止したのに気付いたものはいなかった。”遅い。住吉ならもう敵の裏を取っているだろうに……”そう考えつつ、その愛翔でさえ追いつくのにギリギリのパスを平然と出す時枝はメンバーの能力の把握力はずば抜けていた。数秒後時枝は、最初に出そうとして右サイドではなく、左サイド奥にパスを放りこむ。
 左サイドでパスを受け取ったのはレフトウィングを任されている本田光男。
「相変わらず厳しいパスをくれるよな時枝は」
苦笑と共にホンダはドリブルで切り込む。
 良いところまでは攻め込めるステラスターFCだったが東京バンデットFCの強固なディフェンダー陣に阻まれ得点には結びつかない。
 東京バンデットFCの動きもせわしない。
「前半でゲームを決めるんだ。後半にもつれると住吉が出てくるぞ」
やはり愛翔への警戒感が高い。前半で決めようという気持ちが強すぎるのだろう、焦りからか攻撃時に細かいミスが出る。良いところまではいくもののそこをステラスターFCディフェンダー陣に止められ得点に結びつかない。
結局前半45分どちらも決定的チャンスを作ることさえできず0対0で折り返した。
ハーフタイムのステラスターFCのロッカールーム、シャワーを浴び着替えるもの、軽くマッサージをするもの、持ち込んだドリンクを口にするものそれぞれがリラックスしリカバリーをはかる。
「今一つピリッとしなかったな」
「相手の攻撃もミスが多くて助かったけどな」
そんな雑談も聞こえる。ハーフタイム15分の休憩時間残り5分。監督の織部が口を開いた。
「東京バンデットFCのディフェンスが思いのほか硬いな。住吉、後半頭から行くぞ。おまえのスピードとテクニックで崩してこい」
「はい」
愛翔が一瞬目を瞑り深呼吸をしつつ再度目を開いた。
「それとな、住吉。ポジションだが、いつもはライトウィングかセンターフォワードまでだったが、この試合に限りお前のポジションは縛り無しだ」
織部のその言葉に愛翔は首を傾げた。
「縛り無し、とは?」
「リベロだよ。とは言っても80年代のリベロじゃねぇぞ。お前の視野の広さスピード、テクニック、ボディバランス、柔軟な戦略指揮能力、そう言ったものに期待する。ただ司令塔としての負担はこのゲームまでは時枝がいるからなダブル司令塔でいけ。負担はキツイがお前なら出来ると信じている。そしておまえが完全復活できた時にはリベロ司令塔を期待する」
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