幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

景空

文字の大きさ
172 / 314

第172話 リベロ

しおりを挟む
東京バンデットFCが拠点を置くAJKスタジアム。愛翔を含むステラスターFCU18メンバーは試合前のウォーミングアップを行っていた。
「で、今回から住吉はハーフゲーム出場ってことか?」
時枝が相変わらず愛翔に絡んでくる。
「まあ、展開次第だろ。有利な状況、順調な状況では弄らないのが原則だからな」
愛翔の返事に時枝は少しばかり寂し気な顔を見せる。
「俺のU18最後の公式戦。お前ときっちり組みたかったんだがな」
「最後ってどういう……」
そこまで言って愛翔も気付いたようにただし揶揄うような口調で口を開いた。
「そうか引退か」
「いやいやいや、違うからな。このゲームを最後に上のリザーブ枠に入ることになったんだ。だからU18カテゴリーの公式戦でプレーするのは今日が最後になる。住吉と出会って随分と面白いサッカーができたから最後にせめてと思ったんだがな」
「まだ、わからんだろ。展開次第では後半45分フル出場だって無いわけじゃないからな。ま、そのためには最低限俺が入ったら勝てるって展開にまでは持ち込んでくれよ。さすがに完全な負け試合じゃ俺は出してもらえないからな」
愛翔がニヤリと笑いながら右拳を突き出し、時枝も右拳を突き出しぶつけ
「言ってろ。必ず出てもらうからな」
コイントスでボールを獲得したのは東京バンデットFCU18チーム。
”ピー”主審のホイッスルに東京バンデットによるキックオフ。左サイド手前やや大きめに蹴りだしたボールを短めのパスで繋ぎステラスターFCサイドへ攻め込む東京バンデットFC。それに対し、ステラスターFCも時枝の的確な指示の元パスコースを絞り、奥に攻め込ませない。一進一退の攻防の中時枝が東京バンデットFCのパスのインターセプトに成功する。一気に攻めあがるステラスターFC。
 しかしそこでパスを出そうとした時枝が舌打ちと共にパスを出すのを中止したのに気付いたものはいなかった。”遅い。住吉ならもう敵の裏を取っているだろうに……”そう考えつつ、その愛翔でさえ追いつくのにギリギリのパスを平然と出す時枝はメンバーの能力の把握力はずば抜けていた。数秒後時枝は、最初に出そうとして右サイドではなく、左サイド奥にパスを放りこむ。
 左サイドでパスを受け取ったのはレフトウィングを任されている本田光男。
「相変わらず厳しいパスをくれるよな時枝は」
苦笑と共にホンダはドリブルで切り込む。
 良いところまでは攻め込めるステラスターFCだったが東京バンデットFCの強固なディフェンダー陣に阻まれ得点には結びつかない。
 東京バンデットFCの動きもせわしない。
「前半でゲームを決めるんだ。後半にもつれると住吉が出てくるぞ」
やはり愛翔への警戒感が高い。前半で決めようという気持ちが強すぎるのだろう、焦りからか攻撃時に細かいミスが出る。良いところまではいくもののそこをステラスターFCディフェンダー陣に止められ得点に結びつかない。
結局前半45分どちらも決定的チャンスを作ることさえできず0対0で折り返した。
ハーフタイムのステラスターFCのロッカールーム、シャワーを浴び着替えるもの、軽くマッサージをするもの、持ち込んだドリンクを口にするものそれぞれがリラックスしリカバリーをはかる。
「今一つピリッとしなかったな」
「相手の攻撃もミスが多くて助かったけどな」
そんな雑談も聞こえる。ハーフタイム15分の休憩時間残り5分。監督の織部が口を開いた。
「東京バンデットFCのディフェンスが思いのほか硬いな。住吉、後半頭から行くぞ。おまえのスピードとテクニックで崩してこい」
「はい」
愛翔が一瞬目を瞑り深呼吸をしつつ再度目を開いた。
「それとな、住吉。ポジションだが、いつもはライトウィングかセンターフォワードまでだったが、この試合に限りお前のポジションは縛り無しだ」
織部のその言葉に愛翔は首を傾げた。
「縛り無し、とは?」
「リベロだよ。とは言っても80年代のリベロじゃねぇぞ。お前の視野の広さスピード、テクニック、ボディバランス、柔軟な戦略指揮能力、そう言ったものに期待する。ただ司令塔としての負担はこのゲームまでは時枝がいるからなダブル司令塔でいけ。負担はキツイがお前なら出来ると信じている。そしておまえが完全復活できた時にはリベロ司令塔を期待する」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...