幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

景空

文字の大きさ
264 / 314

第264話 雑談

しおりを挟む
「ここも久しぶりだな」
「そうね。1年生の時の文化祭の打ち上げ以来かしら?」
「そう言えば、ここだったわね」
駅前のカラオケ、ビッグサウンドの前で愛翔たち3人は感慨にふけっていた。
「住吉君、華押さん、橘さん、おまたせ」
「おまたせー。遅れてないよね、大丈夫よね」
そう言いながらあらわれたのは加藤、新本のカップル。クリスマスカラーのさりげないペアルックで手をつないで来ていた。
「あはは、大丈夫。俺たちも今来たところだ」
そんな会話の中、加藤と新本をじっと見ていた楓が”へえ”とにんまりする。
その反応に新本がきづいた。
「な、なに?楓ちゃん」
「ふふ、夜が待ちきれなかった?」
楓がそっと囁くと新本が耳まで赤くなった。
「な、何?なんのことかしら」
あからさまに動揺する新本に桜もきづいたようだ。
「結婚式には呼んでね」
いたずらっ子の顔の桜の一言に新本はさらに顔を赤くし、加藤の背中に顔を埋め隠れてしまった。
そんな様子に愛翔が苦笑をこぼし
「女子3人でなにやってんだよ」
桜と楓の頬を指でツンツンとつつく。
「ふふふ、女の子どうしの秘密ー」
桜が一瞬加藤に視線を向けそのまま新本を微笑ましい目でみやる。新本は、さらに加藤の背中で小さくなってしまった。端から見えている耳や首筋が真っ赤で恥ずかしがっているのが分かる。
”まあ、じゃれてるだけみたいだからいいか”と愛翔もそれ以上は追及しない。
「あ、いた。やほー。遅れてないよね」
そんなところで丘が、声を掛けてきた。
「あ、丘先輩。帰省してたんですね。でも、どうして……。あ、そっか住吉君から」
加藤がわずかに戸惑いながらも笑顔になる。
「久しぶり。加藤君、新本さん。愛翔君たちに今日の事聞いてサプライズで参加させてもらうことにしたのだけど、迷惑だったかしら」
丘がしょんぼりとやや上目遣いで加藤と新本をみやる。
「え、そ、そんな迷惑だなんて」
「そうですよ。丘先輩の事を迷惑だなんて言うわけないじゃないですか。来てくれて嬉しいです」
加藤と新本が慌てて否定する。それを見て丘はクスクスと笑い始めた。
「冗談よ。あなた達がそんな風に思わない事は分かっているわ。ちょっと揶揄ってみたかっただけよ。うん、それでも恋人同士になれたあなた達にちょっとだけ羨ましいってのもあるかしらね」
丘はいたずらっ子の顔でなおも揶揄った。
「ここではわたしだけが独り身なんだもの」
「姉さんの場合は全部振ってきただけだろ」
「あら?愛翔君がそれを言うの?桜ちゃんと楓ちゃんとくっつくまでさんざん言い寄ってくる女の子を振ってきたあなたが?」
丘の反撃に愛翔もたじろぐけれど
「いや、俺の場合、桜と楓がいるのに言い寄ってくる時点で違うだろ。でも姉さんは相手が居たわけじゃないんだし」
「く、言うわね。どうせ私は彼氏が居たことなんかないわよ。愛翔君たちみたいな幼馴染もいないわよ」
「まあまあ、姉さんも魅力的なんだからそのうち素敵な彼氏ができるって。それより焦ってへんなの掴まないようにね」
もう丘と愛翔の間は遠慮の無い姉弟になっていて言い争いさえ微笑ましい。そして
「あ、そろそろ予約の時間じゃない?入ろ」
桜の声に揃ってカラオケ店に入っていった。

「へえ、じゃあ女子バスや軽音部の子たちもそんなに?」
「うん、加藤君や新本さんもだけど、ものすごく協力してくれてさ」
「そうそう、”なんで相談してくれないんだ”ってものすごい勢いで怒られちゃった」
歌う合間の雑談で愛翔も桜も楓もどれほど仲間が協力してくれたかを嬉しそうに話す。
「素敵な仲間ができたのね」
丘もそんな3人の話を嬉しそうに聞いている。
「それより、姉さん。大学はどんな感じ?」
「そうねえ。一言で言ってしまうと、自由かしらね」
「自由?」
「もちろん決められたカリキュラムはあるわよ。でもそれ以外は本当に縛りが無いの。それに単位制だから高校と比べてクラスって概念が薄いから……」
そこで愛翔はアメリカでの学校生活を思い出した。
「ああ、なるほどね。でも日本の大学だとスキップって概念はなかったよね」
「そうね、だから単位の取り方も人それぞれ。目いっぱい取って後を楽にしようって人もいるし、逆に平均してとってバイトとかサークル活動に最初から力を入れる人もいるわね。変わった人の中には入学してすぐに休学して世界旅行に行った人もいるわね。本当に色々よ。ただ全部自己責任だけどね」
「そんな色々なんですね。T大ってずっと勉強してるひとばかりかと思ってました」
横から新本が”すごいなぁ”と口を挟んできた。
「そうね、色々よ。もちろん徹底的に勉強している人も多いわよ。あと驚いたのはT大は割と留年に寛容なイメージがあるわね。全体の3割くらいの人が留年するらしいわ」
「へー、T大って生真面目な人が多くて留年なんてとんでもないって感じかと思ってたけど違うんですね」
「ま、あまそこまで言うと言い過ぎかもしれないけど他の大学に比べて留年する人が多いのは確かみたいね」
丘の話に桜は何かを考えているようで
「うん、色々教えてくれてありがとう。お義姉さん」
そこで新本が気付いた。
「あ、そういえば桜ちゃん丘先輩のことお義姉さんって呼んでる。さっき楓ちゃんもたしか……」
「え?そりゃ愛翔のお姉さんだもの、あたしや楓にとってはお義姉さんよ」
ケロリと言い切る桜に揶揄う気マンマンだった新本は毒気を抜かれてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...