農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

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71,死霊魔術師。

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「アリアよ。そなたは、魔物狩りの達人という話だが、その評価に間違いはあるまいか?」

 私は国王陛下を眺めた。
 パン屋のおじさん。それが第一印象。
 パン屋のおじさんならば、とても素晴らしい人生を歩めただろう。おそらく王当人も、そう思っているのではないか。
 誰が喜んで、王様なんていうものになるのだろう? とてつもなく面倒くさい。国家に責任を持ち、いつも国民には陰口をたたかれ、命を狙われ、権力をどこまで使えばいいのか自問し、他国がいつ侵略してくるかと胃を痛める。とくにお隣には、帝国が控えているし。

 私は、心から王に同情した。パン屋の長男として生まれていれば、幸せな人生を送れたのに。

「陛下。私が凡人か達人であるかは、私自身が決められることではありません。しかしながら、私はそれなりの数の魔物を、【覇王魔窟】内で殺してはきましたが」

 それに体内でも一体、特大のが眠っているし。そのことを話したら、国王陛下はどのような反応をするのだろう。

「実は、アリア。我がアーテル国の娘よ。そなたに頼みたいことがあるのだ。そのう、不死者に詳しいか?」

「ゾンビのことでしょうか?」

 ゾンビの子供が、壊滅ギルドの使者を行っていたという事実。私が、中核都市ボーンにて、自我をもつ女教師のゾンビ、ジョアンナさんと遭遇している事実。狩るチャンスがあったのに、逃がした事実。ふむ。ゾンビ関連でないといいなぁ。

「ゾンビではないのだ。ゾンビならば、頭を壊せば済む。そうだろう? 伝承にはそうある」

「ええ。陛下がそうおっしゃるのでしたら」

「余が言うのは、人間なのだ。あの男は、確かに処刑された。ところが死者の世界から蘇ってきたのだという。現に生きて動いているのだからな。あの男は、己を〈死霊魔術師ネクロマンサー〉と称しておる」

「陛下。私は、魔法関連には疎いのですが」

 すると国王は、苛立たしそうに咳払いした。

「分かっておる。だが宮廷魔術師では手に負えんのだ。是非とも、そなたに尋問してもらいたい」

 そもそも宮廷魔術師なんてものがいたのが驚きだ。それはただの形骸化した役職に思える。しかし、私に尋問しろ、というのは何だろう。
 王は、『宮廷魔術師がダメなので私を呼んだ』風に言ったが、実際は違うだろう。宮廷魔術師がダメで、他にもさまざまな専門家(学者や冒険者などなど)にやらせてみたが、それでも自称〈死霊魔術師ネクロマンサー〉の正体を暴けなかった。
 そこで、こんどは新興ギルドのギルマスにやらせてみるか、と。ダメ元精神で。
 
 いずれにせよ、王に向かって「嫌だよー」とは言えないものだ。それを言われたら、もう王としての価値がなくなるし。

「承知いたしました、国王陛下。ではその〈死霊魔術師ネクロマンサー〉という貴族の方に会わせていただけますか」

「なぜ貴族だと思うのだ?」

「平民でしたら、王をそこまで煩わせることもないかと愚考しました」

「うむ、その通りだ。では、あとのことは補佐官のベルトから聞くと良い。下がってよいぞ」

 その後、補佐官ベルトさんと会い、くだんの〈死霊魔術師ネクロマンサー〉の正体が、イズラ卿だと知る。

 ははぁ。世の中のニュースに疎い私でも、イズラ卿は知っている。邪神を崇めて、部下に拉致させた処女35人ほどを、儀式の生贄として殺したのだとか。
 生きたまま心臓をくりぬいたとか何とか。しかも犠牲となった処女たちが、みな高貴な血筋ということで、王都では大変な騒ぎになったらしい(なかには王家の遠い血筋の娘もいたとか)。

 しかし、まだイズラ卿が生きていたなんてね。
 とっくに処刑されたとばかり──ああ、それで処刑したのに生きているものだから、王としては悩ましいわけか。これが知れ渡ったら、王都はひっくり返したような大騒ぎになる。
 ベルトさんからも、この件は口外しないという誓約書に署名させられたし。
 ちなみに、このときにはミリカさんとも別れていた。謁見までは、ミリカさんも私の後ろで控えていることを許されていたのだが、ベルトさんと会うときに、追い払われてしまったのだ。ミリカさんにも、〈死霊魔術師ネクロマンサー〉がイズラ卿ということは知られたくないようだ。

「それで、イズラ卿とはいつ会うんですか?」

 私がそう聞くと答えは、「いますぐに」。

 さっそく地下監獄に降りて行き、尋問室に通された。拷問室の間違いじゃないの、というくらい、えげつなそうな器具が並んでいる部屋に。
 尋問官の椅子に座る。今日は、いろいろな椅子に座る日だなぁ。

 重武装した看守によって、両手を拘束された状態のイズラ卿が連れられてきた。
 さらにイズラ卿の後ろには、まず看守ではない、どこの所属か分からない男がついて来ている。
 なんという、違和感。

 なぜなら、その男の顔には、目も鼻も口もない。のっぺらぼう、なのだ。

 看守によって、イズラ卿が椅子に座らされる。
 そんなイズラ卿のそばに、まるで執事のようにして、のっぺらぼうが立つ。
 私はのっぺらぼうを見て、6人いる看守さんたちを見やる。さらに同席しているベルトさんも。ベルトさんは私を見返した。

 私は黙ったまま、のっぺらぼうを指さした。
 ベルトさんは、私が指さしたほうを見てから、首をひねった。

「何もないところを指さして、どうしたのだ?」

 のっぺらぼう、誰も見えていないのか。
 私以外、見えていない。

 では、問題。
 アレは、一体なんだろう?
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