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109,予知スキルの人体素材。
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クラウディアさん、サンディさんを連れて、私はエルン監獄から離れた。
ここからは、私にとっても不慣れな戦いとなる。バードンという大神官には、クラウディアさん越えの〈未来予知〉スキルがある。
こっちの動きを先に読まれる、私たちが決断するより先に察知されるというのは、戦略的に嫌な話だよねぇ。
ただ不幸中の幸いといえるのは、クラウディアさんの〈未来予知〉が妨害しているということか。その妨害が、どこまでできるかにかかっている。
私が、バードンさんの人体素材を採取できるか否かも。
ふむ。なにもお命頂戴、というわけではない。ちょっと、身体の一部を提供していただくだけでいいのだ。耳とか、鼻とか──いや、素材なので、もっと人体の中心に近いほう。内臓でもいいのだけども、どうでしょうか。
「すると〈神禄4巻〉を盗み出そうとしたのは、バードンさんの指令だったわけですね」
「〈神禄4巻〉じゃと? あれはトマス図書館に保管されているはずじゃがな。かつてローズ教が、英雄トマスに贈呈したものじゃぞ」
ほう。〈神禄4巻〉の出自は、この聖都だったのか。
私は、オルト侯爵領土内で魔物連合軍が大暴れして、トマス図書館も燃えてしまったことを話した。だが〈神禄4巻〉はなんとか守られたが、今度は『影の泥棒』さんが盗み出そうとし、その人を尋問したら、『巫女クラウディア』の命令と話した。
「彼は、嘘をついてはいませんでしたよ?」
「意外なことではない。わらわが追放されたことを知るのは、ローズ教でもごく上層だけじゃからな。 その泥棒が、バードンからの極秘指令を、わらわからのものと過って信じていたとしても、意外ではない。ちなみにエルン監獄は、ローズ教とは別系統の監獄でな。わらわを監禁しておくには、丁度よかったのじゃ」
「黒騎士さんたちは?」
「あれはバードンの私設騎士団じゃ。腕利きばかりじゃから、撃破するのは、お主でも苦労するじゃろう」
ふむ。もう撃退済みだけど、別に訂正することもないかな。
それに、せっかくクラウディアさんが『質問に答えよう』モードに入っているのだから、いまは水は差さず、いろいろと聞き出すとき。
「『巫女クラウディア』に何が起きたんですか? 地位を追い落とされるなんて。絶対権力を持っているものだとばかり思っていたのに──もう、私はガッカリですよ」
「なぜ、お主にガッカリされねばならぬのじゃ。
とにかく順をおって話そう。あれは、20日ほど前のことじゃ。アリエル様──と自称する『何か汚らわしい者』から、メッセージが送られてきたのじゃ。すなわち、『神託』という形態じゃな。『【覇王魔窟】を征服したので、これからはローズ教の神徒とともに、〔女神アリエルの支配地域〕を拡大したい』──と、そう言ってきおった」
「『何か汚らわしい者』と、クラウディアさんは言いましたね。ということは、『【覇王魔窟】を征服した』という神託を送ってきたのは、アリエルさんではない、のですね? 『何か』がローズ教を操るために、アリエルさんに成りすましてきたと」
なるほど。アリエルさんが、すでに亡き者にされている可能性もあるのかぁ(女神さまだから厳密には、『亡き神』?)。
クラウディアさんが、重々しくうなずく。
「そうじゃ。わらわはそう確信したが──まてお主、アリエル様を『さん』付けとは何様じゃ」
あ、そうか。女神さま相手に『さん』付けは失礼かな。私としては、サポート担当として気軽に会話していた相手だからなぁ。
「アリエル様っっ!」
「うむ。とにかく、わらわは『アリエル様ではない』と確信した。じゃが、これはバードンにとっては、わらわを追い落とすのに絶妙な好機となったのじゃ。もともと大神官の地位にのぼりつめたあの男にも、わらわと同じ〈未来予知〉スキルがあった。能力だけじゃったら、あやつにもローズ教を率いる資格があったのじゃ。
というのも、ローズ教の教祖様にも〈未来予知〉スキルがあったと言われ、このスキルを有することが、ローズ教の頂点に立つための資格なのじゃ。そこでわらわにあって、バードンに決定的に欠けていたのは、人望じゃな。わらわは、人気者なのじゃ。見目も良いしな」
「謙譲の美徳っっ!」
「うむ。ところが、あの神託をわらわが『偽物』と見なしたことで、状況が一変したのじゃ。バードンは、わらわが信仰心を失ったと弾劾してきおった。はからずもバードンに、わらわへの攻撃手段を与えてしまったのじゃな。わらわも神託が『偽物』と証明しようとしたが、もともと信徒というのは、あれじゃ──」
「『なんでも信じたがるバカ』、ですね?」
「……『信じやすい清い心を持っている』と言おうとしたのじゃが。とにかくあやつらは、神託を信じるほうを望んだのじゃ」
クラウディアさんの直感を信じよう。『偽のアリエル』が、ローズ教を操ろうとしている。いや、すでに操っているのか。〈神禄4巻〉を盗ませようとしたことも?
「どうやら【覇王魔窟】の方針変更と、『アリエルさまに成りすました何か』からのニセ神託には、『つながり』があるようですね」
「それについては、わらわは何とも言えんが」
とにかく、目下の問題は──大神官バードンさん、彼がもつ〈未来予知〉スキル。私が会得する『予定』の、〈未来予知〉スキルなのだ。
「クラウディアさん。未来予知って、何か弱点はないんですかね?」
「わらわが、それを明かすと思うか、アリアよ?」
私はクラウディアさんを、改めて見やった。
「私たち、いまは同じ側──味方ではありませんか」
クラウディアさんは、不敵に笑った。
「今だけの話じゃ。この先のことは、わらわにも分からぬ」
〈未来予知〉スキルくらい、自力で攻略しろ──ということなのだね、クラウディアさん! 優しいっっ!
ここからは、私にとっても不慣れな戦いとなる。バードンという大神官には、クラウディアさん越えの〈未来予知〉スキルがある。
こっちの動きを先に読まれる、私たちが決断するより先に察知されるというのは、戦略的に嫌な話だよねぇ。
ただ不幸中の幸いといえるのは、クラウディアさんの〈未来予知〉が妨害しているということか。その妨害が、どこまでできるかにかかっている。
私が、バードンさんの人体素材を採取できるか否かも。
ふむ。なにもお命頂戴、というわけではない。ちょっと、身体の一部を提供していただくだけでいいのだ。耳とか、鼻とか──いや、素材なので、もっと人体の中心に近いほう。内臓でもいいのだけども、どうでしょうか。
「すると〈神禄4巻〉を盗み出そうとしたのは、バードンさんの指令だったわけですね」
「〈神禄4巻〉じゃと? あれはトマス図書館に保管されているはずじゃがな。かつてローズ教が、英雄トマスに贈呈したものじゃぞ」
ほう。〈神禄4巻〉の出自は、この聖都だったのか。
私は、オルト侯爵領土内で魔物連合軍が大暴れして、トマス図書館も燃えてしまったことを話した。だが〈神禄4巻〉はなんとか守られたが、今度は『影の泥棒』さんが盗み出そうとし、その人を尋問したら、『巫女クラウディア』の命令と話した。
「彼は、嘘をついてはいませんでしたよ?」
「意外なことではない。わらわが追放されたことを知るのは、ローズ教でもごく上層だけじゃからな。 その泥棒が、バードンからの極秘指令を、わらわからのものと過って信じていたとしても、意外ではない。ちなみにエルン監獄は、ローズ教とは別系統の監獄でな。わらわを監禁しておくには、丁度よかったのじゃ」
「黒騎士さんたちは?」
「あれはバードンの私設騎士団じゃ。腕利きばかりじゃから、撃破するのは、お主でも苦労するじゃろう」
ふむ。もう撃退済みだけど、別に訂正することもないかな。
それに、せっかくクラウディアさんが『質問に答えよう』モードに入っているのだから、いまは水は差さず、いろいろと聞き出すとき。
「『巫女クラウディア』に何が起きたんですか? 地位を追い落とされるなんて。絶対権力を持っているものだとばかり思っていたのに──もう、私はガッカリですよ」
「なぜ、お主にガッカリされねばならぬのじゃ。
とにかく順をおって話そう。あれは、20日ほど前のことじゃ。アリエル様──と自称する『何か汚らわしい者』から、メッセージが送られてきたのじゃ。すなわち、『神託』という形態じゃな。『【覇王魔窟】を征服したので、これからはローズ教の神徒とともに、〔女神アリエルの支配地域〕を拡大したい』──と、そう言ってきおった」
「『何か汚らわしい者』と、クラウディアさんは言いましたね。ということは、『【覇王魔窟】を征服した』という神託を送ってきたのは、アリエルさんではない、のですね? 『何か』がローズ教を操るために、アリエルさんに成りすましてきたと」
なるほど。アリエルさんが、すでに亡き者にされている可能性もあるのかぁ(女神さまだから厳密には、『亡き神』?)。
クラウディアさんが、重々しくうなずく。
「そうじゃ。わらわはそう確信したが──まてお主、アリエル様を『さん』付けとは何様じゃ」
あ、そうか。女神さま相手に『さん』付けは失礼かな。私としては、サポート担当として気軽に会話していた相手だからなぁ。
「アリエル様っっ!」
「うむ。とにかく、わらわは『アリエル様ではない』と確信した。じゃが、これはバードンにとっては、わらわを追い落とすのに絶妙な好機となったのじゃ。もともと大神官の地位にのぼりつめたあの男にも、わらわと同じ〈未来予知〉スキルがあった。能力だけじゃったら、あやつにもローズ教を率いる資格があったのじゃ。
というのも、ローズ教の教祖様にも〈未来予知〉スキルがあったと言われ、このスキルを有することが、ローズ教の頂点に立つための資格なのじゃ。そこでわらわにあって、バードンに決定的に欠けていたのは、人望じゃな。わらわは、人気者なのじゃ。見目も良いしな」
「謙譲の美徳っっ!」
「うむ。ところが、あの神託をわらわが『偽物』と見なしたことで、状況が一変したのじゃ。バードンは、わらわが信仰心を失ったと弾劾してきおった。はからずもバードンに、わらわへの攻撃手段を与えてしまったのじゃな。わらわも神託が『偽物』と証明しようとしたが、もともと信徒というのは、あれじゃ──」
「『なんでも信じたがるバカ』、ですね?」
「……『信じやすい清い心を持っている』と言おうとしたのじゃが。とにかくあやつらは、神託を信じるほうを望んだのじゃ」
クラウディアさんの直感を信じよう。『偽のアリエル』が、ローズ教を操ろうとしている。いや、すでに操っているのか。〈神禄4巻〉を盗ませようとしたことも?
「どうやら【覇王魔窟】の方針変更と、『アリエルさまに成りすました何か』からのニセ神託には、『つながり』があるようですね」
「それについては、わらわは何とも言えんが」
とにかく、目下の問題は──大神官バードンさん、彼がもつ〈未来予知〉スキル。私が会得する『予定』の、〈未来予知〉スキルなのだ。
「クラウディアさん。未来予知って、何か弱点はないんですかね?」
「わらわが、それを明かすと思うか、アリアよ?」
私はクラウディアさんを、改めて見やった。
「私たち、いまは同じ側──味方ではありませんか」
クラウディアさんは、不敵に笑った。
「今だけの話じゃ。この先のことは、わらわにも分からぬ」
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