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113,偽女神の正体。
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大神官バードンの命を狙った勢力は、場合によっては、カブ冒険者ギルドの味方になるかもしれない。
ということで、拷問され中の暗殺者さんを訪問することにした。
地下まで降りると、暗殺者さんの残骸が、水槽の中でぷかぷか浮いている。どうすれば、こうなるのだろう。なんというか、無理やり上半身を引きちぎられたようで、凄まじい形相の死に顔。また脊髄が、蜥蜴の尻尾みたいに漂っている。
サンディさんが顔を青くして、私に囁いた。
「違うよアリアちゃん。私の仕業じゃないよ。お抱えの拷問吏が、頭おかしいんだよ!」
すると若い若草色の髪をした少女が、サンディさんの前に跪く。いや大神官バードンに跪いたわけだけども。
まてよ、この少女が拷問吏なのかぁ。だって〈肉屋エプロン〉を装備して、まったくもって血で真っ赤に染まっているので。
「猊下、気合いを入れて拷問いたしたところ、残骸だけになってしまいました」
「あー、そう、か。えーと、どうなのだ?」
サンディさんが、バードン役に徹し切れていない様子で、私を見やった。私は肩をすくめてから、拷問少女に対して評価を下す。
「まったく素人も甚だしいですね。拷問吏の恥とは、拷問対象から聞き出すことを聞きだせない、つまり落とせなかったときではありませんよ。拷問対象を、調子にのって殺してしまったときです」
「うぐっ」
拷問少女は、実に恥じ入った様子だった。私がさらに言おうとしたとき、大神官の別の部下が、地下室に駆けこんで来る。
「猊下!」
さっそくお酒が欲しそうな様子で、サンディさんが答える。
「はいはい、猊下はここだよ~」
「至急、神殿にお越しください! 〈女神石〉が反応しております!!」
私が小首を傾げると、サンディさんが小声で伝えてきた。
「〈女神石〉は、『いまから神託が来ますよ』という合図装置だよ。私も今朝まで知らなくて、『女神石? なにそれ?』という感じだったのに、ぜんぜん怪しまれなかった。さすがアリアちゃんの《擬態Lv.1》だよね」
ふむ。それはおかしい。《擬態Lv.1》は『姿形を擬態して見せるだけ』なので、本物と異なる反応を示せば、まわりが少しは疑って当然なのに。
それで思い出した。サンディさんは『害意緩和』パネルを、かなり高いレベルまで高めているのだった。
つまり、『他者からのネガティブな反応を抑制する』効果が強い。
疑われるというのも、ネガティブなものだ。だから抑制される。前日、サンディさんが監獄の立ち入り禁止ゾーンで看守に見つかっても、『迷い込んだ無害な観光客』と勝手に思い込まれたように。
おお、思いがけず、私は〔《擬態》+『害意緩和』状態〕という、最強の成りすまし組み合わせを見つけてしまったのでは?
私が《擬態Lv.1》のLv.を上げ、サンディさんも『害意緩和』のパネルLv.を上げていったならば──いつか、神様にだって成りすませるかもね。
とにかく、いまは偽女神からの神託だ。私は先に神殿まで向かい、《視界滅界》で最深部に侵入してから、柱の陰に身を隠す。
〈女神石〉とやらは台座の上にあって、いまもドクンドクンと輝いている。それを眺めながら、神託というのは、どういう形で来るのだろうと考える。
仮に、脳内に直接呼びかけるタイプだと、サンディさんの正体が暴かれてしまうが──。
しばらくしてサンディさんが、ぶかぶかの法衣を引きずりながらやってきた。あの法衣はバードンのものであり、サンディさんはとにかく形だけでも、バードンの法衣を着用しなくてはいけないわけだ。
何度か法衣の裾に蹴躓きつつも、〈女神石〉の前までやって来る。それから困った様子で、視線をさ迷わせる。どうやら私を探しているらしい。サンディさんだけなら出て行くところだけど、お付きの者が何人もいる。今はサンディさんの視線にも入らないほうがいいだろう(《視界滅界》の効果は切れているので)。
やがてサンディさんは、〈女神石〉を手に取ろうとして、お付きの者に慌てて止められた。どうやら大神官でも直に触れることは許されていないらしい。それからサンディさんは、女神アリエルとの交信方法を、お付きの者から丁寧に解説してもらう。『害意緩和』Lv.25がなければ、とっくに疑われるところだなぁ。
サンディさんは深呼吸してから、〈女神石〉に向かって、古代ローズ語で語り掛ける。お付きの者が、サンディさんの耳元で、何を言えばいいか伝えながら。
そして、私はなぜか古代ローズ語が理解でき、おかげでサンディさんが『我が偉大なる女神アリエル、あなたのお声をお聞かせください』と言ったのが分かった。お決まりの文句なのだろう。『こんにちわぁ』だけでいいのにね。
やがて〈女神石〉から、声がしてきた。
「わが健気な子羊たちよ。よく聞きなさい。あなたたちを導く、羊飼いの声を」
私は隠れていた柱から出て、〈女神石〉の前に立った。お付きの者たちが「くせ者だ!」と叫ぼうとするのを、サンディさんが慌てて止める。
私は〈女神石〉に向かって言った。
「成りすまし詐欺もいい加減にしなさい、ジェシカさん」
「…………………………げっ、その声は、アリアっっっっっ!」
ということで、拷問され中の暗殺者さんを訪問することにした。
地下まで降りると、暗殺者さんの残骸が、水槽の中でぷかぷか浮いている。どうすれば、こうなるのだろう。なんというか、無理やり上半身を引きちぎられたようで、凄まじい形相の死に顔。また脊髄が、蜥蜴の尻尾みたいに漂っている。
サンディさんが顔を青くして、私に囁いた。
「違うよアリアちゃん。私の仕業じゃないよ。お抱えの拷問吏が、頭おかしいんだよ!」
すると若い若草色の髪をした少女が、サンディさんの前に跪く。いや大神官バードンに跪いたわけだけども。
まてよ、この少女が拷問吏なのかぁ。だって〈肉屋エプロン〉を装備して、まったくもって血で真っ赤に染まっているので。
「猊下、気合いを入れて拷問いたしたところ、残骸だけになってしまいました」
「あー、そう、か。えーと、どうなのだ?」
サンディさんが、バードン役に徹し切れていない様子で、私を見やった。私は肩をすくめてから、拷問少女に対して評価を下す。
「まったく素人も甚だしいですね。拷問吏の恥とは、拷問対象から聞き出すことを聞きだせない、つまり落とせなかったときではありませんよ。拷問対象を、調子にのって殺してしまったときです」
「うぐっ」
拷問少女は、実に恥じ入った様子だった。私がさらに言おうとしたとき、大神官の別の部下が、地下室に駆けこんで来る。
「猊下!」
さっそくお酒が欲しそうな様子で、サンディさんが答える。
「はいはい、猊下はここだよ~」
「至急、神殿にお越しください! 〈女神石〉が反応しております!!」
私が小首を傾げると、サンディさんが小声で伝えてきた。
「〈女神石〉は、『いまから神託が来ますよ』という合図装置だよ。私も今朝まで知らなくて、『女神石? なにそれ?』という感じだったのに、ぜんぜん怪しまれなかった。さすがアリアちゃんの《擬態Lv.1》だよね」
ふむ。それはおかしい。《擬態Lv.1》は『姿形を擬態して見せるだけ』なので、本物と異なる反応を示せば、まわりが少しは疑って当然なのに。
それで思い出した。サンディさんは『害意緩和』パネルを、かなり高いレベルまで高めているのだった。
つまり、『他者からのネガティブな反応を抑制する』効果が強い。
疑われるというのも、ネガティブなものだ。だから抑制される。前日、サンディさんが監獄の立ち入り禁止ゾーンで看守に見つかっても、『迷い込んだ無害な観光客』と勝手に思い込まれたように。
おお、思いがけず、私は〔《擬態》+『害意緩和』状態〕という、最強の成りすまし組み合わせを見つけてしまったのでは?
私が《擬態Lv.1》のLv.を上げ、サンディさんも『害意緩和』のパネルLv.を上げていったならば──いつか、神様にだって成りすませるかもね。
とにかく、いまは偽女神からの神託だ。私は先に神殿まで向かい、《視界滅界》で最深部に侵入してから、柱の陰に身を隠す。
〈女神石〉とやらは台座の上にあって、いまもドクンドクンと輝いている。それを眺めながら、神託というのは、どういう形で来るのだろうと考える。
仮に、脳内に直接呼びかけるタイプだと、サンディさんの正体が暴かれてしまうが──。
しばらくしてサンディさんが、ぶかぶかの法衣を引きずりながらやってきた。あの法衣はバードンのものであり、サンディさんはとにかく形だけでも、バードンの法衣を着用しなくてはいけないわけだ。
何度か法衣の裾に蹴躓きつつも、〈女神石〉の前までやって来る。それから困った様子で、視線をさ迷わせる。どうやら私を探しているらしい。サンディさんだけなら出て行くところだけど、お付きの者が何人もいる。今はサンディさんの視線にも入らないほうがいいだろう(《視界滅界》の効果は切れているので)。
やがてサンディさんは、〈女神石〉を手に取ろうとして、お付きの者に慌てて止められた。どうやら大神官でも直に触れることは許されていないらしい。それからサンディさんは、女神アリエルとの交信方法を、お付きの者から丁寧に解説してもらう。『害意緩和』Lv.25がなければ、とっくに疑われるところだなぁ。
サンディさんは深呼吸してから、〈女神石〉に向かって、古代ローズ語で語り掛ける。お付きの者が、サンディさんの耳元で、何を言えばいいか伝えながら。
そして、私はなぜか古代ローズ語が理解でき、おかげでサンディさんが『我が偉大なる女神アリエル、あなたのお声をお聞かせください』と言ったのが分かった。お決まりの文句なのだろう。『こんにちわぁ』だけでいいのにね。
やがて〈女神石〉から、声がしてきた。
「わが健気な子羊たちよ。よく聞きなさい。あなたたちを導く、羊飼いの声を」
私は隠れていた柱から出て、〈女神石〉の前に立った。お付きの者たちが「くせ者だ!」と叫ぼうとするのを、サンディさんが慌てて止める。
私は〈女神石〉に向かって言った。
「成りすまし詐欺もいい加減にしなさい、ジェシカさん」
「…………………………げっ、その声は、アリアっっっっっ!」
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