農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

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117,運(ツキ)。

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 ──「アリアちゃん! アリアちゃん! アリアちゃーーん!」



 という、幸せな声が聞こえてきた。

 これは、セシリアちゃんの声だ。

 だが、いま現在、呼びかけられているわけではない。これは私の意識の底からの声、すなわち、私の記憶から蘇ってきた声。

 10年ほど昔の、お互いに幼いころの声である。セシリアちゃんが使命のために、出立するときの朝の。えーと、セシリアちゃんは、どこに行ったんだっけ? 

 そもそもセシリアちゃんは、いまどこにいるのだろう? 

 まぁ愛があれば、捜し出すことなどに問題はないのである。



 とにかく──死ぬのは、たぶんまだ早い。

 まだ早いぞ! 



 気合いで意識を取り戻したとき、私の両手の切断面は焼かれてふさがっていた。見やると、こちらは四肢を復活させたミィちゃん。毒化効果も薄れたようで、見たところは健康体に見える。



 そんなミィちゃんは心配そうに、私の両手首の切断面を見つめている。



「師匠……ミィの血を飲んだら、師匠の両手も再生するのではありませんか?」



「いえミィちゃん。そこまで都合の良いシステムではないんですよ。魔物化による再生というのは、転生するときだけの一回きりなので。ただ〈倦怠艶女ミスティナ〉さんならば、切断両手の神経ふくめて再接合手術してくれるはずなので──そこの切断された両手を、私の道具袋に入れておいてください。ところで、この両手を焼いたのは?」



 ミィちゃんが、自身の〈魔統武器〉である『両側に取っ手のある刃』〈アリゾナ〉を見せた。烈火が刃を覆っている。



「ミィの【火炎領域】から、《烈火刃》スキルを使って──なんとか止血しないとと必死だったのですが、よろしかったのでしょうか? 傷口を焼き、タンパク質の熱凝固作用をつかって止血するのは、拷問吏としてはよくやる手段なのですが、まともな医療行為ともいえず心配です」



「いえいえ。おかげさまで、生き返りましたよ」



 どうやら、私の体内を流れる魔素血というものは、一定の時間が経過すると自然と回復するようだ。ただし回復速度は微々たるものなので、ミィちゃんが焼灼止血してくれなかったら、流れ出る血のほうが多く、とっくに息絶えていたよね。



「さて、両手をなくしたので、私の戦力は一気にダウンしました。《操縦》で動かす〈スーパーコンボ〉では、《地滅嵐打》などの打撃スキルだけでなく、《鎧装甲:地獄》などの防御スキルも発動できませんからね」



「師匠。申し訳ございません、ミィのために」



「ミィちゃん。そこは謝罪ではなく感謝の言葉ですよ。私は、ミィちゃんを後継者として──あれ?」



 私の腹部から、右手が飛び出ている。ミィちゃんが「ひぃっ!」と短く叫び、〈アリゾナ〉を構える。



「師匠の体内に──敵が!」



「いえ、これは敵さんではないです。少なくとも、私よりも寝心地のよいベッドが現れるまでは──」



〈倦怠艶女ミスティナ〉さんが、恐ろしく怠そうに、私の体内から這い出してきた。これほど頻繁に起きるハメになるとは、〈倦怠艶女ミスティナ〉さんも思ってもいなかっただろうなぁ。そう思うと、申し訳ないです。



「アリア~。キミ、まだこんなところで強化素材集めして、両手なんか失っているの~? 眠い」



 と、気だるそうながらも、何もいわずに私の両手を魔素糸で再接合しはじめてくれる〈倦怠艶女ミスティナ〉さん。なんて、いい人っっ!



「〈倦怠艶女ミスティナ〉さんって、優しい魔物さんですよね。私が998階まで攻略したら、戦いたくないので、見逃してくれます?」



〈倦怠艶女ミスティナ〉さんのことだから、OKしてくれるものと思った。ところが〈倦怠艶女ミスティナ〉さんは首を横に振って、



「だめ、だめ~。そのときは、わたしだって、たぶん恐らく低確率で、やる気になるからさぁ。そのときは、うん、バトろうよ~」



 残念ながら、私が998階まで攻略したときには、〈倦怠艶女ミスティナ〉さんとのバトルは避けられないようだ。

 はじめて【覇王魔窟】攻略へのネガティブな要素が出てきた。しかし998階を越え、999階の〈悪鬼羅刹ザ・ボーイ〉を撃破しないと、ちかぢかベロニカさんが死んじゃう。

 ならば、バトらねばならないよね。

 ただその前に、996階と997階がある。997階といえば、そこの〈魔創造人イマジネ〉(いまは【覇王魔窟】の外に出ている模様)は、〈倦怠艶女ミスティナ〉さんの弟だっけ。



「はーい、これで良し~」



 私の両手を再接続し終えると、〈倦怠艶女ミスティナ〉さんは流れるような動きで、私の体内に潜り込んだ。それを見届けてから、ミィちゃんが固唾をのんで言う。



「体内に魔物を飼うとは、さすが師匠です」



「飼っているわけではないんですがね。とにかく──」



 魔素糸で再接合された両手を確認。やはり完全なときに比べて、違和感はある。私が絵師ならば、もう繊細な絵は描けまい。だが日常生活、そしてバトルに支障はないのだ。そして──



 私の両手の復活を待っていてくれたかのように、上空にドラゴンが姿を現す。ドラゴンの中では、最上級の魔物種。『鬼強』枠の中でも覇権を取れそうな、〈赤鎧龍レッドドラゴン〉さんが。



「欲しかった強化素材が、向こうから来ましたね!」



 これを世間では、『運』というのだね。



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