異世界勇者だったわたしの冒険─敗北した召喚勇者は転生して再び歩き出す─

コモド

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 わたし達はこの学校の2年生だ、魔法の試験も初級の初級。
 ハッキリ言ってかなりチョロい。
 普通の8才の子供には少し難しいかもしれないが、かつて勇者として戦ったわたしにはお尻を拭くより簡単だ……あ、いや……今はお尻を拭くのはちょっと難しいな。
 心理的に。

 そんな油断がいらぬ騒動を引き起こした。

 今回の試験は火の魔法。
"火球を出す"ただそれだけの試験だ。
 今まで勉強した基礎的知識を使って、とりあえず魔法をつかってみよう! という程度のもの。


 魔法はなんでも出来る不思議パワーじゃない。
 正しい手順を踏み、発生する現象に対して対価を支払う必要がある。

 現象を発生させるのが「精霊」と呼ばれる神様のような存在。
 対価が肉体から発するオーラのようなもの、つまり「魔力」だ。

 この世界における「魔法」というものは、
儀式によって精霊とつながり、
呪文によって起こしたい現象を伝え、
精霊は術者の望んだ現象を起こし、
術者はその対価を魔力で払う。
 このサイクルをまとめたもののことを言うのだ。

 しかし、わたしの場合少し事情が違った。

 わたしはかつて勇者としてこの世界に召喚された時に精霊世界を経由している。
 そこを通る際、わたしは精霊達に望まれ、その場にいた全ての精霊と契約していた。
 契約内容は世界の浄化。
 だが実はこの契約ほとんど意味を成さないらしい。
 精霊にとってわたしの魔力はものすごいご馳走で、その魔力にありつくため、直接つながりを作る。その為だけの空契約のようなものだそうだ。
 わたしが勇者に選ばれたのは「魔力が美味しいから」というあんまりかっこよくない理由なのだ。

 まぁ、わたしの方は精霊との直接のつながりという利益を得られたわけだから、この世界で最上級の褒美と言っても過言じゃない。
 なにしろ精霊と直につながっている為、儀式が必要ない。
 そして意思の疎通もできるため、呪文も必要ないのだ。
 めったに会話などしないが、戯れに「木の精霊のバーカ!」などと考えれば、木の実が降ってきて頭を怪我することになる。
 トゲトゲのヤツは頭に刺さって大変だっ……大変にちがいない。

 どの精霊も極少量の魔力で大抵の現象を起こしてくれるので、省エネで助かっている。

 そんなわけで、この世界に来てから儀式も呪文も一切学んだことはなく、レアとして勉強した8才までの知識しかない。

 勇者マサトとして戦っていた時は「えい!」「やー!」で魔法が出る為、なんの魔法が出るのかが周囲の人間にわからず危険と言われ、結局起きる現象を簡単に表した言葉を叫んでいたが、それも子供っぽいと不評だった。
『ファイヤーフラッシュ』はカッコいいと思ったんだけど……。

まぁわたしの場合、どの精霊がどんな現象を起こせるのかさえわかっていればいいのだ。

昔は頼む精霊のチョイスを誤って大変なことになったりしたが、最近は大丈夫、だぶん。



つまりそういうことだ。

わたしは魔法の試験でうっかりやらかした。



「ねぇねぇ、あの子だって! 精霊の儀式も呪文も無しに、王都の大学でしか教えてないような魔法使ったの」

「でもあの子成績はあんまり良くないんでしょ?」

「そうそう! だから急に魔法が出来るようになったみたいだって」

「魔物がなりかわってるんじゃないかって噂もあるって」

「えー! こわーい!」

「光の精霊魔法の先生がその場で検査したら、一応魔物じゃなかったらしいけどね」

「でもこーわーいー!」


 そんな噂が流れており、わたしの耳にも入ってきた。
 
 その日の試験でわたしは、勇者の時の感覚のまま、精霊とつながる儀式をすっ飛ばし、何を起こすのかも伝えず「えいっ!」と言っただけで、試験の課題の10倍程の大きさの火の玉を出した。

 現代日本で言えば、突然手から火の玉を出したようなものだ。

 ……全然喩えになってないや。

 テテスちゃんも目を見開いて固まっていた。

 まぁ、次の試験でわざと失敗すれば噂なんてみんな忘れて元通りだ。
 試験の採点基準にある「精霊の儀式」と「呪文」の分の点数は入らなかったし、試験だって点数自体は補習スレスレで、クラスでも下から数えた方が早いのだ。
 その日わたしが、試験で最優秀のテテスちゃんより目立ってしまっていたとしても、記録に残った点数が低い以上、人の記憶から忘れ去られればそれで済む。
 それにクラスみんなは、そんな根も葉もない噂に影響されるはずがない。その時はそう考えていた。

 しかし、その試験の後からクラスの子達はわたしを避けるようになった。

 迂闊だったと気付く頃には、わたしはクラスで孤立していた。
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