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危険な手段
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勢いよく学校の門をくぐり抜けたわたしは、中の光景が目に入ると急停止した。
ズズッとスライディングするように靴底で砂を擦り、体の勢いを殺したが、それも良くなかった。
それほど広くない校庭。住宅街の公園程度の敷地に20匹近くの魔物がひしめきあっていた。
音を立てて勢いよく校庭へ入ったわたしに、魔物の視線が集中する。
マズいっ! 数が多すぎる!
「ママ! 止まって! 来ちゃダメ!」
少し後ろを走っているはずのママに危険を知らせるべく、わたしは声を張り上げた。
片手を地面に付いたまま後ろを振り向き、ママにわたしの声が届いたか確認する。声に反応するママが目に入ると、わたしは急いで魔物に向き直った。
魔物を前にして後ろを振り向くのは自殺行為だけど、とにかく危険を伝えないとママが死ぬ。ママがここに来てしまえば一瞬で魔物の餌食だ。
そんなのは許せない。
わたしの声に反応したのはママだけではない。再び前を向いたわたしの目前には、魔物3匹の爪がすぐそこまで迫っていた。
咄嗟に地面を蹴って後ろに跳び、直撃は免れたが、3匹の内1匹の爪がわたしの足と足の間を切り裂いており、スカートのド真ん中に荒々しいスリットが新しくできてしまっていた。
今のは危なかった……。
もしこの魔物だらけの状況で足を切断されていたら、切られた足の回収もできないし、魔法で接合治療をする隙もない 。
最終手段をとらないといけないところだった。でもママや村のみんなが近くにいる状況じゃあ使えないし、生を諦めるしかなかったかも……。
助かったという実感もつかの間、魔物の攻撃は激しさを増し、最初は3匹だった魔物が4、5、6と増えて前後左右から襲いかかってくる。
横に転がり後ろに跳びと、次々と繰り出される敵の攻撃を躱していくが、攻撃に転じる隙がない。
先兵は下級の魔物といえど、その攻撃は十分な殺傷能力を持っており、鋭い爪は人体を簡単に引き裂く。わたしも直撃を一発食えば簡単に切断されてしまうだろう。
いくらわたしがかつて最強の勇者マサトで、魔物を簡単に倒す実力があっても、経験を積み『戦うのが上手』になっただけで身体そのものが強いわけじゃないのだ。
かつて身に着けていた防具もない今、直撃は死を意味する。
魔物の一撃は地面をえぐり、周囲にはわたしが攻撃を避けた分だけクレーターができていた。
徐々に魔物の攻撃がかするようになり、頬や肩に鋭い痛みを感じる。手足を動かした際に視界をかすめる鮮やかな赤い色は、おそらく服ににじんだわたしの血だ。
敷地内のほとんどの魔物がわたしの周囲に集まり、その中の約半数が攻撃に加わるタイミングを見計らって、今にも飛び掛かろうという予備動作をしていた。
全方位からの攻撃を躱すことに集中しなくてはならず、どうしてもこちらの攻撃はおろそかになる。倒した魔物はまだ2匹。
しっかり準備していれば一瞬で終わらせられたのに。
うかつに飛び込んだわたしが馬鹿だ……。
ただでさえ疲労で足元がおぼつかないのに、このままじゃ数の力で押し負ける。
一瞬でも動きが止まれば勝負が決まってしまう程の激しい攻防の中、数分前の後悔が頭をよぎり、集中が乱された。その時、クレーターでデコボコの地面に足を取られてバランスを崩し、わたしは一瞬よろけてしまった。
「くっ!」
まずいと思い、地面に取られた方と逆の足を前に出したその瞬間、ビリっと感電したような痛みが横腹に走り、筋肉が強張った。
痛みの中心部から鋭い刃物が入り込むような感触。
「――がっ!」
思わず声が漏れ出る。
わたしは咄嗟に指の数だけ出した小さな火球を投げつけ、牽制しつつ後ろに跳んだ。
しかし、その場しのぎで出した小さな火球にそれほどの威力はなく、興奮状態の魔物は被弾した場所から煙を噴きながら突進してきた。
それをいなすと、また別の魔物、さらにまた別の魔物と、休む暇なく次々と攻撃が繰り出される。
今なお続く激しい攻防のせいで、わたしの腹部に何が起きたか視認することはできないが、激しい痛みと足を伝う鮮血の温度がすべてを物語る。
刺された!
なんとか反応し、爪で身体を両断されるような事態は避けられたが、皮膚の奥にも感じる激痛は、魔物の爪が内臓にまで達している事を示していた。食いしばる歯が顔の筋肉を引きつらせる。
うずくまりそうになる痛みを精神力で抑え込み、何とか敵の攻撃を躱し続けている状態だった。
このままじゃ負ける……。危険だけど……やるしかない。
わたしは激しい痛みをこらえ敵の攻撃を何とか避けながら、周囲の人間に聞こえるように叫んだ。
「全員建物の中に避難して! 建物が無ければ岩でもいい! 土の上から逃げて! ママも早く!」
先程まで学校の入口で陣形を組んで魔法を放っていた生存者達。魔物の標的が私に変わってから戸惑った様子で傍観していたが、わたしの声を聞き再び困惑しているようだった。おろおろと動きを決めかねている様子でこちらを見ている。
悠長に説得している時間なんてもう無い。
一刻も早く全員を退避させるために、わたしはもう一度力いっぱい叫んだ。
「死にたくなければ早くしろぉぉぉぉ!!!!」
大声を出すために腹に力を入れると、腹の傷口からドクリと血が流れ出す。
民家の庭石に登っているママと、建物に退避する生存者達を確認すると、わたしは魔物の爪と一合斬り合い、その反動で後ろに跳んだ。
そうして魔物と距離を取り、地面に両手を当てると思いきり魔力を放った。
「地の精霊!」
わたしが絞り出すように声を上げると、その瞬間地面が音を立てて揺れ始めた。
ズズッとスライディングするように靴底で砂を擦り、体の勢いを殺したが、それも良くなかった。
それほど広くない校庭。住宅街の公園程度の敷地に20匹近くの魔物がひしめきあっていた。
音を立てて勢いよく校庭へ入ったわたしに、魔物の視線が集中する。
マズいっ! 数が多すぎる!
「ママ! 止まって! 来ちゃダメ!」
少し後ろを走っているはずのママに危険を知らせるべく、わたしは声を張り上げた。
片手を地面に付いたまま後ろを振り向き、ママにわたしの声が届いたか確認する。声に反応するママが目に入ると、わたしは急いで魔物に向き直った。
魔物を前にして後ろを振り向くのは自殺行為だけど、とにかく危険を伝えないとママが死ぬ。ママがここに来てしまえば一瞬で魔物の餌食だ。
そんなのは許せない。
わたしの声に反応したのはママだけではない。再び前を向いたわたしの目前には、魔物3匹の爪がすぐそこまで迫っていた。
咄嗟に地面を蹴って後ろに跳び、直撃は免れたが、3匹の内1匹の爪がわたしの足と足の間を切り裂いており、スカートのド真ん中に荒々しいスリットが新しくできてしまっていた。
今のは危なかった……。
もしこの魔物だらけの状況で足を切断されていたら、切られた足の回収もできないし、魔法で接合治療をする隙もない 。
最終手段をとらないといけないところだった。でもママや村のみんなが近くにいる状況じゃあ使えないし、生を諦めるしかなかったかも……。
助かったという実感もつかの間、魔物の攻撃は激しさを増し、最初は3匹だった魔物が4、5、6と増えて前後左右から襲いかかってくる。
横に転がり後ろに跳びと、次々と繰り出される敵の攻撃を躱していくが、攻撃に転じる隙がない。
先兵は下級の魔物といえど、その攻撃は十分な殺傷能力を持っており、鋭い爪は人体を簡単に引き裂く。わたしも直撃を一発食えば簡単に切断されてしまうだろう。
いくらわたしがかつて最強の勇者マサトで、魔物を簡単に倒す実力があっても、経験を積み『戦うのが上手』になっただけで身体そのものが強いわけじゃないのだ。
かつて身に着けていた防具もない今、直撃は死を意味する。
魔物の一撃は地面をえぐり、周囲にはわたしが攻撃を避けた分だけクレーターができていた。
徐々に魔物の攻撃がかするようになり、頬や肩に鋭い痛みを感じる。手足を動かした際に視界をかすめる鮮やかな赤い色は、おそらく服ににじんだわたしの血だ。
敷地内のほとんどの魔物がわたしの周囲に集まり、その中の約半数が攻撃に加わるタイミングを見計らって、今にも飛び掛かろうという予備動作をしていた。
全方位からの攻撃を躱すことに集中しなくてはならず、どうしてもこちらの攻撃はおろそかになる。倒した魔物はまだ2匹。
しっかり準備していれば一瞬で終わらせられたのに。
うかつに飛び込んだわたしが馬鹿だ……。
ただでさえ疲労で足元がおぼつかないのに、このままじゃ数の力で押し負ける。
一瞬でも動きが止まれば勝負が決まってしまう程の激しい攻防の中、数分前の後悔が頭をよぎり、集中が乱された。その時、クレーターでデコボコの地面に足を取られてバランスを崩し、わたしは一瞬よろけてしまった。
「くっ!」
まずいと思い、地面に取られた方と逆の足を前に出したその瞬間、ビリっと感電したような痛みが横腹に走り、筋肉が強張った。
痛みの中心部から鋭い刃物が入り込むような感触。
「――がっ!」
思わず声が漏れ出る。
わたしは咄嗟に指の数だけ出した小さな火球を投げつけ、牽制しつつ後ろに跳んだ。
しかし、その場しのぎで出した小さな火球にそれほどの威力はなく、興奮状態の魔物は被弾した場所から煙を噴きながら突進してきた。
それをいなすと、また別の魔物、さらにまた別の魔物と、休む暇なく次々と攻撃が繰り出される。
今なお続く激しい攻防のせいで、わたしの腹部に何が起きたか視認することはできないが、激しい痛みと足を伝う鮮血の温度がすべてを物語る。
刺された!
なんとか反応し、爪で身体を両断されるような事態は避けられたが、皮膚の奥にも感じる激痛は、魔物の爪が内臓にまで達している事を示していた。食いしばる歯が顔の筋肉を引きつらせる。
うずくまりそうになる痛みを精神力で抑え込み、何とか敵の攻撃を躱し続けている状態だった。
このままじゃ負ける……。危険だけど……やるしかない。
わたしは激しい痛みをこらえ敵の攻撃を何とか避けながら、周囲の人間に聞こえるように叫んだ。
「全員建物の中に避難して! 建物が無ければ岩でもいい! 土の上から逃げて! ママも早く!」
先程まで学校の入口で陣形を組んで魔法を放っていた生存者達。魔物の標的が私に変わってから戸惑った様子で傍観していたが、わたしの声を聞き再び困惑しているようだった。おろおろと動きを決めかねている様子でこちらを見ている。
悠長に説得している時間なんてもう無い。
一刻も早く全員を退避させるために、わたしはもう一度力いっぱい叫んだ。
「死にたくなければ早くしろぉぉぉぉ!!!!」
大声を出すために腹に力を入れると、腹の傷口からドクリと血が流れ出す。
民家の庭石に登っているママと、建物に退避する生存者達を確認すると、わたしは魔物の爪と一合斬り合い、その反動で後ろに跳んだ。
そうして魔物と距離を取り、地面に両手を当てると思いきり魔力を放った。
「地の精霊!」
わたしが絞り出すように声を上げると、その瞬間地面が音を立てて揺れ始めた。
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