異世界勇者だったわたしの冒険─敗北した召喚勇者は転生して再び歩き出す─

コモド

文字の大きさ
54 / 57

企図

しおりを挟む
 合わせた掌の中で魔力が膨らんでいくのを感じる。

 腕に力を込め、ぐるぐると渦巻く魔力の奔流ほんりゅうを両腕の力で押さえつける。

 8歳児のわたしの力で抑えられるくらいなので、実際に必要なのは腕力ではなく、魔力操作能力の類いなんだろうと思うけど、その辺は感覚でやってるので、ついつい腕に力が入ってしまう。
 こういうのも昔は先生に「無駄が多い!」と、杖で頭をポコられる原因だった。
 前世の時、先生の横で魔法を使う際の癖で、つい頭への衝撃に備えてしまったあと、いつものタイミングで訪れない頭への衝撃になんとなく寂寥感せきりょうかんを覚えた。

 まぁたとえここに先生がいたとしても8歳児の頭は殴らないよね……多分……さすがに……。

 先生の道徳観に若干の不安がよぎったとき、掌の魔力球が最大限まで凝縮されたのを感じた。両手で包み込んだ魔力球を中心に風が吹き荒れる。
 先生は魔力を球体に固めたあと、ピタッと風が吹くのが止んでたけど、わたしはいまだに魔力の漏出を完全には防げない。
 まぁ抜けていく魔力は、わたしがどんどん供給すれば良いだけなんだけど、これもちゃんと練習して直さないと、たぶん先生に再会した後「あれから8年も経過してるのに、まだこんな簡単なことも出来ないんですか?」と、小言を言われるやつだ。

 球体から吹く風でバサバサと髪が顔に当たる中、なんとか片目をすがめて敵の方に狙いをつける。

 コイツを倒せば全てが終わる。
 平和な村が戻れば、わたしは家族を置いて安心して村から離れて旅立てる。

 一瞬脳裏をよぎった寂しさが胸の奥をチクリと刺す。わたしはをすぐにそれを振り払い、魔物の方に意識を集中する。

 こちらが攻撃を仕掛けようとしていることが魔物に伝わったのか、向かって来る魔物の速度が増した。

「グワォォォォオ!!!!」

 威嚇の咆哮とともにドスドスと瓦礫をまき散らしながら、こちらに全速力で駆けてくる巨大な魔物。
 わたしを敵と認識し、まっすぐこちらに向かってくるなら、わたしとしても狙いをつけやすくて好都合だ。

 魔力球を包み込む両手を崩し、右手で弓弦を引くように体を動かし、左手の人差し指を立てると、指の先で魔力球がやじりのように形を変えた。

 弓を扱った経験は特にないんだけど、遠距離の攻撃をするときは、なんとなく狙いの付けやすさから自然と弓矢を扱うような形になった。
 魔法操作はイメージで行うので、本人の想像しやすい形でやるのが一番効果があるそうだ。
 わたしの場合、はじめは少年漫画のキャラがエネルギーを撃ち出すみたいな形で「波ぁぁぁーーーー!!!!」なんてやっていたんだけど、それだと命中率がどうにも悪く、試行錯誤しているうちにこの形に落ち着いた。

 弓を引くという動作がわたしの中の"狙い撃つ"というイメージにマッチしたのだろう。命中の制度が格段に増した。
 それに、わたしの場合、魔力球からの魔力の漏出で巻き起こる風が、矢の推進力になり、威力と速度の向上に一役買っているようだった。
 この点は先生にも「足りない頭も未熟な技も使いようですね」と褒めてもらった……あれ? 褒めてもらって……ない!?

 魔物がこちらに到達するまで、すでに30秒を切ったという辺りで、わたしは力いっぱい引いていた結弦に溜まったエネルギーを解放した。その瞬間、敵に向かって一直線に魔法の矢がに飛んでいく。

 矢を放った時の強力な反動で、思わず後ろにこけそうになるところ、なんとか踏みとどまった。
 あの魔物がわたしの予想を超えるほどの強さでなければ、致命傷を与えられるはず。

 高速で飛ぶ矢が魔力の軌跡を残しながら魔物の胸に刺さると、その瞬間に魔力球が光を放ち、凝縮されていたエネルギーが膨張し破裂する。
 はじけるエネルギーとともに、魔物は断末魔の叫びを上げる暇もなく、原型をとどめぬほどに爆散した。

 やった!?

 その疑問は魔物の肉片がべちゃべちゃと周囲に落下する音で確信に変わった。

 湿った落下音が止み、少しの静寂の後、今度は学校の方から歓声が沸き上がった。駆けだしてくる人たち。テテスちゃんもこちらに走ってきているのが見える。

 わたしも一仕事終えた感覚で「ふぅ」と一息入れると、ボーちゃんがわたしの肩にポンっと出現した。

「ごちそうちゃん。こっちに来ようとしてるあの人たち、止めた方がいい」
「……ん?」

 話の先を促すようにボーちゃんに目線をやると、ボーちゃんは方々へ飛び散った肉片の一つを指さし

「あれ、まだ生きてる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

処理中です...