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第1章『名もなき奇跡の始まり』
2.少女が知らない世界-2
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(……そうだ)
今までの呼称を思い出し、少女は口を開く。
「わたし、“黒いの”って呼ばれてたんです。新しく考えるの、面倒ですよね? だから、“クロ”とかで……」
「却下!!」
「却下だ!!」
「えっ!?」
エスメライとルーシオが同時に叫んだ。しかも頭を抱えている。
何か変なことを言ってしまったらしい。何と返そうかと悩んでいると、それに気づいたらしいエスメライが重々しく口を開いた。
「あんたが悪いんじゃない。悪いんじゃ、無いんだけど……。
2回目なんだよ、このやり取り自体が」
「そんなことあります!?」
なんという偶然。少女が驚いていると、ルーシオも「ははは」と力無く笑って口を開く。
「嘘みたいだろ? しかも1回目も“クロ”なんだよ。故郷で“骸”って呼ばれてたらしくて……。
そこから取ってクロって流れだから、お前とは微妙に違うんだけどな」
骸。それは、死者を指す言葉だ。生きた人間につけるものではない。
もはや悪意の塊でしかない呼び名に、少女は息を呑む。
「なんですか、それ……酷い……」
「いや、“黒いの”も大概だからな!? まあ……その、色々あったもんで……。
骸事件の時はもうショックがデカくて、咄嗟に“クロウ”にしちまった、あたしらも大概なんだけど……。
だからこそ、あんたの名前はきっちり考える。うん、第一発見者はラズだから、ラズに考えさせるか」
「そうだな。連絡入れとく、帰りながら考えてくれって。もう電車に乗る頃だろうしな」
エスメライとルーシオから並々ならぬ嘆きを感じる。
とりあえず『とんでもなく優しい人たち』であることは理解した。
(まあ、救助活動やってるような人たちだもんね。優しいのは間違いないよね。
そういえば、わたし以外の竜人族さんたちは大丈夫なのかな? ……考えるまでもないか)
きっと大丈夫。そう思えるのは、彼らの温かな振る舞いゆえだ。
それに、今ここにはいない2人組の様子もちゃんと覚えている。彼らの懸命な救助活動があったから、自分は今ここにいる。状況からして、エスメライとルーシオは間違いなく彼らの仲間だ。
(あれ? 片方は“クロウさん”って呼ばれてなかったっけ? なんか、真っ白だった気がするんだけど……)
多分、あの人が“骸の人”だ——なるほど、これは後悔するのも分からなくはない。
確かクロウは“鴉”を意味する言葉だ。この人達、真っ白な人に鴉ってつけちゃったらしい。
(優しい人達だもんなー……変な名前つけられたって、文句言えなかったんだろうなー……)
とはいえ、少なくとも骸よりは相当にマシだ。
自分なら文句すら言う気になれない。なんなら、文句を言うという発想にすら行きつかないだろう。
それにしても、自分はどんな名前をつけてもらえるのだろう。ちょっとソワソワしてしまう。
そうしていると、バタバタと慌ただしく階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
「お待たせしました!!」
現れた人物の顔を見て、ルーシオが叫ぶ。
「早っ!? お前、電車使わなかったのか!?」
どうやらまだ時間が掛かる予定だったらしい。
照明に反射する金糸のような髪を持つ青年は、爽やかに笑ってみせた。
「連絡見て、居ても立っても居られなくて……屋根の上走ってきました!」
「この運動神経チート野郎が!!」
その髪と白い肌、そしてヒト族とは思えない程に澄んだ、美しい青い瞳には見覚えがあった。
「王子様……」
その言葉に、エスメライとルーシオが盛大に吹き出した。
「君はまたそれか! やめてくれよ、恥ずかしいから!!」
そう言って“王子様”は顔を真っ赤にして叫んだ。
どうやら嫌らしい。若い男性はこう呼ばれると喜ぶ、と習ったのだが……?
「ラザラス、だ。ラザラス・アークライト。“ラズ”って呼ばれることも多いかな。
好きなように呼んで欲しい……その……王子様、以外で……」
「えっと、ラズ、さん……?」
「うん、それで良い。良かった、元気そうで」
どうやら彼は“運動神経チート野郎”らしいのだが、流石に汗は流れているらしい。
流れる汗を軽く拭いながら、ラザラスは微笑む。
そんな彼の顔を見て、ルーシオはどこか決まりが悪そうに口を開いた。
「あー……走ってたならメール見てないよな? 頼みたいことがあったんだが」
「? 見てますよ。彼女の名前ですよね?」
「なんで走りながらスマホ見てんだよ、前方不注意やめろ」
「慣れてますし? ……で、名前。気にいるかどうか分からないけど……。
色々考えたんだけど、結局1つしか浮かばなくて……」
少し緊張しているのか、ラザラスは少女から目を逸らし、軽く俯いて口を開いた。
「……“ロゼッタ”。赤い薔薇みたいな、綺麗な髪色してるなって、ずっと思ってたから。
好きな映画に出てくる、女優さんの役名でもあるんだけど……」
安直だと思っているのか、後半は少しこもるようなモゴモゴとした声を発している。
何だか可愛らしいな、と少女だからロゼッタは思った。
(ロゼッタ……可愛い名前。嬉しいな)
髪色が綺麗だと言われたことも、彼なりに名前を一生懸命名前を考えてくれたことも、とても嬉しい。
「可愛い名前ですね。嬉しいです」
「……良かった」
「えっと……ラズさん」
早く、お礼を言わなければ。
できたら、ただ「ありがとうございます」ではなくて……せっかくなら、彼に褒めてもらえるようなことを言いたい。
「か、彼女いますか!?」
「えぇっ!?」
——あっ、これ絶対に間違えた!!
今までの呼称を思い出し、少女は口を開く。
「わたし、“黒いの”って呼ばれてたんです。新しく考えるの、面倒ですよね? だから、“クロ”とかで……」
「却下!!」
「却下だ!!」
「えっ!?」
エスメライとルーシオが同時に叫んだ。しかも頭を抱えている。
何か変なことを言ってしまったらしい。何と返そうかと悩んでいると、それに気づいたらしいエスメライが重々しく口を開いた。
「あんたが悪いんじゃない。悪いんじゃ、無いんだけど……。
2回目なんだよ、このやり取り自体が」
「そんなことあります!?」
なんという偶然。少女が驚いていると、ルーシオも「ははは」と力無く笑って口を開く。
「嘘みたいだろ? しかも1回目も“クロ”なんだよ。故郷で“骸”って呼ばれてたらしくて……。
そこから取ってクロって流れだから、お前とは微妙に違うんだけどな」
骸。それは、死者を指す言葉だ。生きた人間につけるものではない。
もはや悪意の塊でしかない呼び名に、少女は息を呑む。
「なんですか、それ……酷い……」
「いや、“黒いの”も大概だからな!? まあ……その、色々あったもんで……。
骸事件の時はもうショックがデカくて、咄嗟に“クロウ”にしちまった、あたしらも大概なんだけど……。
だからこそ、あんたの名前はきっちり考える。うん、第一発見者はラズだから、ラズに考えさせるか」
「そうだな。連絡入れとく、帰りながら考えてくれって。もう電車に乗る頃だろうしな」
エスメライとルーシオから並々ならぬ嘆きを感じる。
とりあえず『とんでもなく優しい人たち』であることは理解した。
(まあ、救助活動やってるような人たちだもんね。優しいのは間違いないよね。
そういえば、わたし以外の竜人族さんたちは大丈夫なのかな? ……考えるまでもないか)
きっと大丈夫。そう思えるのは、彼らの温かな振る舞いゆえだ。
それに、今ここにはいない2人組の様子もちゃんと覚えている。彼らの懸命な救助活動があったから、自分は今ここにいる。状況からして、エスメライとルーシオは間違いなく彼らの仲間だ。
(あれ? 片方は“クロウさん”って呼ばれてなかったっけ? なんか、真っ白だった気がするんだけど……)
多分、あの人が“骸の人”だ——なるほど、これは後悔するのも分からなくはない。
確かクロウは“鴉”を意味する言葉だ。この人達、真っ白な人に鴉ってつけちゃったらしい。
(優しい人達だもんなー……変な名前つけられたって、文句言えなかったんだろうなー……)
とはいえ、少なくとも骸よりは相当にマシだ。
自分なら文句すら言う気になれない。なんなら、文句を言うという発想にすら行きつかないだろう。
それにしても、自分はどんな名前をつけてもらえるのだろう。ちょっとソワソワしてしまう。
そうしていると、バタバタと慌ただしく階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
「お待たせしました!!」
現れた人物の顔を見て、ルーシオが叫ぶ。
「早っ!? お前、電車使わなかったのか!?」
どうやらまだ時間が掛かる予定だったらしい。
照明に反射する金糸のような髪を持つ青年は、爽やかに笑ってみせた。
「連絡見て、居ても立っても居られなくて……屋根の上走ってきました!」
「この運動神経チート野郎が!!」
その髪と白い肌、そしてヒト族とは思えない程に澄んだ、美しい青い瞳には見覚えがあった。
「王子様……」
その言葉に、エスメライとルーシオが盛大に吹き出した。
「君はまたそれか! やめてくれよ、恥ずかしいから!!」
そう言って“王子様”は顔を真っ赤にして叫んだ。
どうやら嫌らしい。若い男性はこう呼ばれると喜ぶ、と習ったのだが……?
「ラザラス、だ。ラザラス・アークライト。“ラズ”って呼ばれることも多いかな。
好きなように呼んで欲しい……その……王子様、以外で……」
「えっと、ラズ、さん……?」
「うん、それで良い。良かった、元気そうで」
どうやら彼は“運動神経チート野郎”らしいのだが、流石に汗は流れているらしい。
流れる汗を軽く拭いながら、ラザラスは微笑む。
そんな彼の顔を見て、ルーシオはどこか決まりが悪そうに口を開いた。
「あー……走ってたならメール見てないよな? 頼みたいことがあったんだが」
「? 見てますよ。彼女の名前ですよね?」
「なんで走りながらスマホ見てんだよ、前方不注意やめろ」
「慣れてますし? ……で、名前。気にいるかどうか分からないけど……。
色々考えたんだけど、結局1つしか浮かばなくて……」
少し緊張しているのか、ラザラスは少女から目を逸らし、軽く俯いて口を開いた。
「……“ロゼッタ”。赤い薔薇みたいな、綺麗な髪色してるなって、ずっと思ってたから。
好きな映画に出てくる、女優さんの役名でもあるんだけど……」
安直だと思っているのか、後半は少しこもるようなモゴモゴとした声を発している。
何だか可愛らしいな、と少女だからロゼッタは思った。
(ロゼッタ……可愛い名前。嬉しいな)
髪色が綺麗だと言われたことも、彼なりに名前を一生懸命名前を考えてくれたことも、とても嬉しい。
「可愛い名前ですね。嬉しいです」
「……良かった」
「えっと……ラズさん」
早く、お礼を言わなければ。
できたら、ただ「ありがとうございます」ではなくて……せっかくなら、彼に褒めてもらえるようなことを言いたい。
「か、彼女いますか!?」
「えぇっ!?」
——あっ、これ絶対に間違えた!!
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