ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 ―今、あなたの後ろにいるの―

逢月 悠希

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第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』

33.推しの推し-1

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「皆様、こんばんは。『SINFONI:ALIA』の時間です」

 ラザラスもといLIANリアンの放送事故案件2連発から一夜明け、本日もALIAアリアの冠番組が放送されていた——何かの間違いで放送が無くなれば良いなとロゼッタは本気で思っていたが、そんなことは当然なかった。

 本日の番組『SINFONI:ALIA』はALIAが発売日の近いCDの紹介や、ゲストで招かれる他の歌手の告知などを行うものである。要は、音楽番組だ。
 深夜番組なのだが、昨日の番組同様にリアルタイムで視聴者のコメントが取得される仕様になっており、画面は夜更かしする気満々の視聴者が流してくれる色取り取りの文字で賑わっている。
 ALIAには『顔出しNG』という演出泣かせな特殊ルールが存在するため、全番組でリアルタイムコメント仕様が採用されているのだ。

 なお、実際に放送されている画面にはラザラスとアンジェリアの代わりに何故か黄色と薄緑のパステルカラーなテディベアが表示されている。
 このテディベア、マイクに吹き込まれる音声に応じて表情や動作を変えるという謎の高度技術を取り入れたキャラクターだ。要は、ラザラスとアンジェリアのアバターである。

 ALIAはどう考えてもテレビ向きではないタレントなのだが、この高度技術を用いることにより、顔出しNGのタレントで初の地上波進出という快挙を成し遂げたのだ。
 ちなみに他の番組では違うテディベアではなく、違うアバターが登場している。番組によってアバターや動きが変わるのは面白いな、とロゼッタは思った。

「今日はリアンが誤魔化さずに初手で状況説明したいって言っているので、彼の話から始めます」
『尺的にあまりないから、さくっとお願いね』
(おおっと、厳しい。ラズさん頑張って……!)

 アンジェリアは目の前で苦笑するラザラスに精神感応テレパシーで指示を出し、視聴者コメントが表示されている画面へと視線を移す。

(えっと、『感覚共有アストラム』……は、まだ良いって話だったな)

 ロゼッタはアンジェリアの視界と自身の視界を繋ぐのではなく、アンジェリアの視界を半ば強制的にラザラスと共有させるという「普通なら絶対にできない」と言われそうな魔術を発動させる予定だった。

 事前練習の段階でそこそこ魔力を持っていかれた感覚があったこと、アンジェリアが顔で『衝撃』を全力で表現してきたせいで、流石のロゼッタも気づいた——たぶん、自分が異常なだけで、普通はこんなことできないんだろうな、と。

(あ……昨日の放送、結構見てた人がいたのかな。たぶん、ラズさん、というかリアンさんのお名前、だよね?)

 昨日の第二次放送事故未遂オスカー大暴走である程度、ラザラスの状況が知れ渡っていることを祈りつつ、画面を眺める。右から左に文字が次々と流れていく。
 その全てを拾うことは難しいため、目についたものを『識読ルーンリード』で読み取っていった結果がこちらである。

【リアン病院行った?】
【あれは酷い。何で病院行かないの】
【ていうかどんな落ち方したらあんなことになるんだ、病院いけ】
【病院行きなさい、頼むから病院行きなさい】

(いや、逆の意味で酷いことになってるんだけど……!)

——これ、視聴者全員が昨日放送されたラザラスと破天荒おじさんのやり取りを見ていたのではないだろうか……?

 面白すぎてアンジェリアは口を押さえて肩を震わせているし、ロゼッタもロゼッタで衝撃的な光景に唖然とするしかなかった。
 ロゼッタがショックを受けないようにと「リアンに対するコメントはほぼほぼ辛辣な物だ」と事前情報があったことも理由のひとつである。

 しかし今回、みんな見事に【病院】としか言ってない。心配しかされていない。
 何なら、【病院行け】が3つ並んだ次の瞬間にはもう流れ去っていき、油断するとさらに並んでいる。
 画面上のユリアのアバターも、アンジェリアの動きに連動して必死に笑いをこらえていた。それを見た使用者も【ユリア耐えろwwwww】と彼女を応援している。
 そんな中でリアンのアバターに関しては非常に落ち込んだ感じのポーズを取っているため、温度差が酷い。

 しかし、仕方がないのである——現在、何故かどうにもならない状況になるまでは、と『感覚共有』を使うことを拒否してきたせいで、ラザラスには本格的に何も見えていないのだから!

【これ、本当にリアンは何も分かって無いんだな……可哀想だから病院行って欲しい】
【とりあえずユリアさんはリアン君が病院ちゃんと行ったかどうか確認して下さい】
【そうですね、確認をお願いします。病院は大切です】
【あれ眼科? 整形外科? ああもう面倒だ、総合病院行け!】
【放送局の近くに総合病院あるじゃんか、早く行けよwwwww】
【いっそ今からでも緊急外来に飛び込むべき。救急車呼んでも許されると思う】

 そして視聴者もそのことは分かっているようで、相変わらず【病院】という単語を連呼している。
 もはや識読無しでもこの単語だけはもう読める。あまりにも登場しすぎて、唐突に文字を覚えてしまった。そこそこ使用頻度が高そうな単語を覚えることができて、良かったかもしれない。

「……っ」

 ここで(たったひとりだけ)何も分かっていないラザラスが、意を決して口を開く。

「えー……昨日の放送を見ていた方もいらっしゃるかと思うのですが、本日も同じようなことになるかと思ったので最初にお話しします。
 現在、全く目が見えておりません。どうにかしたいところではあったのですが、どうにもならないので正直にお話しました……すべて、私の力量不足です。申し訳ありません……」

【無茶言うなよ、君らの放送スタイルじゃ喋れる方がおかしいからwwwww】
【アリスでも無理だろ、両目塞がった状態で延々喋り続けるとかwwwwww】

「それでも、何とか頑張りたいと思っております! どうぞ、よろしくお願い致します!」

【いや、頑張る前に病院行ってください! 生放送で病院行くとか伝説に残りますよ!】
【何なら今日の放送はリアンの病院レポで良いくらいだわ……あの顔面事故っぷりは心配過ぎる……】
【お前らが普段虐めるからリアン無駄に落ち込んでんじゃねーか! 責任取って誰かコイツを病院に搬送しろ!!】

……ラザラスの発言と、視聴者のコメントの方向性がおかしい。

 視聴者は大体全力で心配してくれているというのに、肝心のラザラスは異常なまでに不安そうだ。
 この可哀想な状況を打開するために、アンジェリアはコメント欄を一通り確認し、口を開く。

「ねえリアン、病院行った?」

 ここでアンジェリアが発するべき言葉はこれ以外に無いだろう。そして視聴者からも【病院行きましたか!?】と追撃するような質問が相次ぐ。
 アンジェリアが投げかけた質問によって、コメント欄が炎上していないことに気がづいたのだろう。ラザラスの固まっていた表情筋が緩んだ。

「えっ? あ、ああ……まだです」
「何でいかないの!? 昨日はギリギリ行けそうな時間あったでしょ!?」
「あ、いや、怪我した時点で知り合いの医療従事者に診て頂きましたから。大丈夫です」
「通院とかいらないの? どう考えても通院必要な傷よね?」
「……まあ、ほっといたら治るかなって」
「病院行って!? 通院して!!」

 画面がさらに【病院】で埋め尽くされてしまった——視聴者コメント以前に、アンジェリアの方も本気で心配している様子だった。
 まさか、本当に一度も病院に行っていないとは思っていなかったのだろう。

(確かに通院はして欲しいよね。せめてエスラさんのところには毎日顔を出すくらいの気持ちでいてくれないかな)

 腫れが酷いだけだと楽観視しているのか、やはり薬品臭にどうしても耐えられず、行くことができないのか……残念ながら後者だろうな、とロゼッタは思った。
 ラザラスは傷の治療よりも、精神崩壊を未然に防ぐことを優先しているのだろう。だからこそ、ロゼッタもあまり強くは言えなかった。

「……」

 ラザラスはもう感覚共有を使わないまま行く覚悟を決めたようだ。
 少し息を整えてから、口を開く。

「んー……私の事情を知ってらっしゃる方が多いのでしょうか? でしたら改めて、説明させて頂きますね。実は少し前に、階段から転げ落ちて顔を強打してしまいまして……。
 特に酷かったのが目元付近だったようで、瞼が腫れ上がって開かなくなってしまいました。それで、放送画面を一切確認できないまま、その場のノリで話しております……皆様のお言葉を見られないのは、辛いですね」

 ついでに“キャラ”もこれで行くらしい。
 あまり視聴者受けが良くない上に昨日はド派手に放送事故してたんだから、もう作らなくて良いんじゃないかな、とロゼッタは内心思っていた。
 ちなみにこれに関してはアンジェリアも同意見だった。そのため、たった今、普段なら発さないレベルの長文を喋ったラザラスを見て、彼女は苦笑している。

「私も事情はよく分かっていないのですが、彼は元々あまり目が良くないので、寝ぼけたか何かしたんだと思います。
 私は傷そのものは見ていませんが、目を含めた全てが治るまで、あと1、2か月くらいかかるって聞いてます。不幸中の幸い、鼻とか歯とか後々容姿に響きそうな部分は無事だったみたいなんですけどね……」
「ははは……情けない話です…」

 ラザラスが肩を落とす。
 それを見た後、アンジェリアはちらりとガラスで隔たれた隣の部屋を一瞥した。

 それに気づいたのか、番組スタッフがスケッチブックに“サプライズゲスト”と書いて彼女に指示を出した。何だか、とんでもなく楽しそうだ。

「ふふ」

 そんな中で突然アンジェリアは、にやりと悪戯めいた笑みを浮かべてみせた。
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